気まぐれ流れ星二次小説

ラプソディ・イン・カレー

『スマッシュブラザーズ』世界におけるファイター達の宿泊施設は
その外観から『城』と呼ばれている。

夕方になり、各地のスタジアムで大乱闘がクライマックスにさしかかる頃、
城の厨房では緑の帽子をかぶったヒゲの男が上機嫌で料理をしていた。

彼、ルイージは大乱闘の後の観客の拍手や対戦相手との握手よりも
自分の料理に対して相手が見せる笑顔の方が好きで、
これは兄のマリオとは正反対だった。

しかし大乱闘が嫌いな訳ではなく
実際、厨房に置かれた小型テレビのチャンネルは
空中スタジアムで行われている試合の生中継に合わせられている。

ささやき声くらいまでに音量が抑えられた歓声を聞きつつ、
ルイージはタマネギを炒めていた。

厨房の入り口にかけられたホワイトボードには几帳面な字で
『今日の夕食は カレーライス   担当は ルイージ です』
と、書かれている。

3度目の開催で大所帯となったメンバーを食べさせるため
いつもはルイージ、Mr.ゲーム&ウォッチを中心に
料理の得意なファイターで食事を作っている。

だが、今日は予定された試合が多かったため、
たまたま出場予定が無かったルイージが、自ら「一人で作るよ」と名乗り出たのだ。

長いガスコンロにいくつも並ぶ鍋の中には
どれも美しいアメ色になったタマネギが入っている。
ルイージはそこへ更に肉、野菜をいれ、火が通ったところで水を加えていった。

キッチンにはスパイスのビンがいくつも並べられている。
カレールーのもともあったが、1箱しか無いところを見ると
途中で、もとは使わずスパイスから自作でルーを作る気になったらしい。

厨房にはファイターがもう一人…いや、一体いた。
ロボットは厨房のコンセントから一足早く夕食をとっていたが
ルイージの「あっ」という声でそちらを向いた。

次に鍋に入れるスパイスを確認していたルイージが、
クミンが無いことに気づいたのだ。
食料庫にも恐らくないだろうことは、ほぼ毎日食事のことに関わっている彼には分かっていた。

ルイージはロボットの方を向くと申し訳なさそうに言った。

「ごめん、ロボット。
充電中のところ悪いんだけど…
この鍋の中が焦げないよう、見ていてくれるかな?」

ロボットはそれに頷きで答えた。

「ありがとう!
…スパイスを入れるまであと15分くらいか…
急いで戻るから!」

と、ルイージは走っていき
ロボットはコードを引きずりつつ鍋の方に向かっていった。

まもなく、最終試合が終わったファイター達がぽつりぽつりと帰ってきた。
居間や自室に向かう彼らの話し声が厨房にも聞こえてくる。

「いやぁ、でもあのときスマッシュボールが出ていなかったら負けてましたよ」

「あれは試合の流れを大きく変えてしまいますものね」

「おっ、今日はカレーか!
オレ様はチキンカレーがいいな!」

「…おい!今のぜってぇわざとだろ!
なんでオレの前でそんなことを…」

ガチャッ

厨房の扉が開いた。
入ってきたのはドンキーとディディーである。

ドンキーは鍋の中を見ていたが、ロボットが遠くの鍋の様子を見に行ったスキに
手に持っていたバナナを丸まま鍋に放り込んだ。

「あっ…あにきぃ!さすがにそれは…」

と、ディディーが驚いて止めようとするが
ドンキーはそれに構わず他の鍋にも2、3バナナを放り込んでしまうと、ニヤリと笑った。

「たまにはこういうサプライズも面白いだろ。
新入りも来たことだし、驚かせてやろうぜ!
それに、意外とうまいかもしれない」

まだ何か言いたげなディディーを連れて、ドンキーは厨房を後にした。
ロボットは何事も無かったかのように鍋を順々に見て回る。
彼はただ『焦げないように見張る』よう、言われていたからである。

次にやってきたのはC.ファルコンだった。

「カレーか…。
ルイージが作るのは甘口だからな…」

と、渋い表情をした後、彼はスパイスの中からトウガラシのビンを取りだし
かなりの量を各鍋に注ぎ込み、去っていった。

バナナには気がつかなかったようである。

C.ファルコンと入れ替わりにカービィが厨房に現れた。
彼はスキップしながら鍋に近づき、中を覗き込んだ。
そして、こちらにやってきたロボットに

「味見するだけだから~」

と、笑顔で言い、大量に鍋の中身を吸い込んで食べてしまった。

「…うわぁ!辛いっ…!
これ大人用なのかなぁ…?」

「カービィ、何やってるの?」

「つまみ食いはダメだよーっ!」

カービィはポポとナナに引っ張られ、キッチンから下ろされた。
この2人は厨房に入っていくカービィを付けていたらしい。

「うぅ、わかったよ…ぼく口直ししてくる…」

いつものような抵抗を見せずにとぼとぼと帰るカービィを見て
ポポ、ナナは不思議そうに首をかしげた。

「そんなにまずかったのかな?」

「ルイージさんに限ってそんな…
あれっ?そう言えばルイージさんいないね」

「忘れ物取りに行ってるんじゃない?
……うわっ、何だコレ?」

鍋を覗き込んだポポが素っ頓狂な声を上げる。

「何?どうしたの?」

「…バナナが入ってる…」

「…ドンキーさんね…。
ルーの味はどうなっちゃってるのかしら…」

と、恐る恐る味見をするナナ。

「…!!辛い!
しかも変な甘みが…」

涙目になってしまったナナに「大丈夫…?」とポポが心配そうに声を掛ける。

「うん…それよりこのルー、どうする?」

「ルイージさんが来る前に、僕たちで何とか元に戻そう!」

2人はルイージが料理にかける情熱を知っている。
食事が台無しになったときの彼のショックも想像できた。

「でも、どうやって?」

「…砂糖と塩を使えば何とかなるよ!」

数分後、ポポとナナが大慌てで厨房から走り出た後、マリオがやって来た。
鼻歌を歌っているところを見ると、戦果はかなり良かったのだろうか。

彼はロボットに「やあ」と挨拶したあと、
何を思ったか食料庫から持ってきたキノコを鍋に入れ始めた。

また少しするとクッパがやってきた。

「ん?まだルーのもとを入れとらんじゃないか」

と、ごつい手でキッチンに置いてあるルーのもとの箱をつまみ上げ
説明に目をこらしながらこう聞いた。

「おいロボット、これを煮始めてそろそろ15分になるのか?」

ロボットは“もう少しで”という感じのジェスチャーをした。

「…たまには手伝ってやるとするか」

クッパは箱を破り、固形のルーを取り出して鍋に入れていった。
冷蔵庫から他の箱も出し、適当にもとを入れていく。
ルイージがもとを使わないつもりだったなんて、彼は気づくよしもない。

最後の鍋にルーのもとを入れたとき、クッパは我が目を疑った。

「……なぜバナナが入っとるのだ…?」

「最近のカレーはみんなこうなのか…?」

と、クッパが困惑した表情で出て行き、次にアイクがやってきた。

肉がどのくらい入っているのか、確かめようと鍋を覗き込んだアイクは
中に広がる謎のごった煮を目にして、数秒、まさに固まってしまった。

我に帰ったアイクは、皆が『ケータイ』と呼ぶ通信機を取り出し
慣れない手つきでキーを押した。

「おい、ルイージ!
…なんだかカレーがものすごい事になってるぞ!!」

アイクとポポ、ナナの話を聞き、
ついにルイージが厨房に駆け込んできた。
そして全ての鍋の惨状を見ると、

「はあぁ~…」

と、哀しげなため息をついてその場にへたり込んでしまった。

「本当にごめんなさい、ルイージさん…」

「僕たち、手伝うつもりだったのが
めちゃめちゃにしちゃった…」

後から入ってきたポポとナナが謝ったが、ルイージは「いいんだ」と首を振った。

「…君たちのせいじゃないよ。謝らなくて良い。
それよりもこれをいれた犯人を捕まえなきゃ…」

キッチンには空になったトウガラシのビンと、大量の空き箱が置かれ、
鍋の中ではバナナ、キノコ、溶けきってないルーのもとがあやしくひしめき合っている。

ルイージは立ち上がり、フラフラと外に出て行った。

ポポとナナもルイージの後を追って出て行き、
厨房にいるのはロボットだけになった。

――カレーを見た人々の反応…
恐らくカレーが“失敗”の状態になっているのだろう。
失敗した食べ物は“まずい”と言われ、食べた人を不快にする。
それは望ましくない。
私にできることは……

ロボットは置いてあるカレーのレシピを手に取り、1つ1つ鍋の中と見比べていく。
そして同時に今まで起きたことも頭脳内に再生し、膨大な量の計算を行った。

数秒で計算を終えると、次にロボットは冷蔵庫からいくつか調味料を取り出し
スパイスと共に計算結果に見合う量をそれぞれ鍋に入れていく。

最後にいくつかの鍋に水を足し、
ロボットは『焦げないように見張る』作業に戻った。

「我が輩はただ手伝おうと思っただけなのだが…」

「そう、俺だって味付けを」

「キノコ入れて何が悪いんだよ」

「食べ物は大切に扱ってよ!
いくらマスターが食費をくれるとはいえ
食べ物には作った人の気持ちが…」

鍋をいじった人々を連れてきたルイージは
厨房から流れてくる良い香りに足を止めた。

「何だ…?
まさか、ここから?」

ルイージは急いで鍋に駆け寄り、一口ルーを味見した。

「おおっ…!!」

ルイージの感動の声と、ドンキーの「やっぱりな」という自慢げな声を背に
充電を終えたロボットは厨房を後にした。

裏話

前の作品からさほど経たないうちに思いついた短編。…なかなか思いつかない今とは大違いです。
また、初めて感想を頂いた思い出深い短編でもあります。しかも、二次創作を始めるきっかけになった作者様から…

タイトルの由来は見ての通り…ガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』。(偉大な作品が台無し…)
曲それ自体も大好きですが、ディズニーの『ファンタジア2000』(だったかな…)での、アニメーション作品も好きです。
あのくらいピアノ弾けたら楽しいだろうなぁ…
蛇足:カレーライスにバナナを投入するドンキーコングの行動は完全にネタ…のつもりだったが、
   この後とあるレトルトカレーにバナナが原料として入っていることを知る。

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