気まぐれ流れ星二次小説

図書館ではお静かに

『スマッシュブラザーズ』の世界を創るにあたり
マスターハンドはファイター達の出身世界を理解するため、各世界の書物を集めた。

世界の構築が終わった後、それらの本が他の人に読まれることは無かったが
『DX』の時に、あるファイターの意見でそれらの本が貸し出されるようになった。

本が集められていた建物は『図書館』と名付けられ
様々な世界から集められた、素晴らしい作品を共有する場となった。

小説の棚の前で、一人の男が本を吟味している。
この長身でひげ面の男の名は、スネーク。
マスターハンドによれば、彼の世界は全ファイター中で最も“現実”世界に近いらしい。

『ニューヨーク1997』という本をめくっていた彼は
ふいに本を閉じ、片手を耳にあてがったが
苦笑しつつその手を下ろし、携帯電話を取り出した。

「こちらスネーク。
…マスターハンドか。あんたが連絡してくるとは珍しいな。

……何だって?
わかった。書庫に向かう」

図書館の地下にある書庫。
ここに収められた本は、様々な理由から貸し出し禁止となっている。
当然一般人の出入りは禁止されており、ザコ軍団が24時間管理している。

しかし今、そのザコ軍団は廊下のあちこちに倒れ伏していた。

「とぁ!」

剣が一閃し、大蛇の姿をした紫のポケモンが床に倒れる。

「…これで5体目だね」

そう言い、マルスは書庫の奥を見つめた。
隣にはキャプテン・ファルコン、後ろには出入り口を守るクッパがいる。

「しかし、奴は何匹手下を持っとるのだ?これではキリがないぞ」

侵入者は出口を塞がれたと見るや、書庫の奥に引きこもり
手持ちのポケモンをファイターに差し向け始めていた。

マルスやC.ファルコンが書庫の中を進もうとする度にポケモンが飛びかかり
2人を力づくで押し戻すのだ。

「レッドの話なら最大6体だが…」

そう言ったC.ファルコンの見る前で、蛇のポケモンが赤い光に包まれ、書庫の奥に消えていく。

「相手は恐らく回復手段を持っているようだな。
あの蛇はさっきも戦ったはずだ」

「くそぅ…この本棚さえ無ければ、我が輩が乗り込んで蹴散らしてくれるものを…」

そして、クッパは書庫の奥に向かってどなる。

「やい!正々堂々と戦ったらどうだ!姿を見せろ!」

しかし、返事はない。

書庫に侵入した人物を捕らえるよう、マスターハンドが告げた時
くれぐれも本に被害が無いようにと、各ファイターは厳重に注意されていた。

書庫の中は狭く、本のことを気に掛けないとしても
マルス、C.ファルコンは戦いにくさを感じており、再び突入したものかどうか迷っていた。

書庫の奥。
ひんやりとした空気の中で、1人の男が本棚の陰に身を潜めていた。
片腕には大ぶりの本を一冊抱え、空いた手でモンスターボールを握っている。
ボールには、ロケット団のイニシャルであるRの文字が書かれている。

――ちくしょう…
ファイターがあんなに強いなんて…
俺の見てた試合じゃあポケモンに倒されてたくせに、こいつぁどういうことだ…?

――だが、ここでいつまでもじっとしている訳にゃいかねぇな。

男は通信機を取り出し、何かの合図を送った。
そしてそっと立ち上がり、本棚の向こうを伺いながら手持ちのポケモンを4体全て繰り出す。
男は、彼らに自分の周りを守らせ、足音を忍ばせて書庫の中を走っていく。

ドッ

後ろで重い何かが倒れる音がし、男は驚いて振り返ったが
何が起こったのか見定める暇もなく地面に押し倒され、両手両足を押さえられてしまった。

「さあ、本を渡すんだ」

男の頭上で凄みのきいた声が言った。
声の主である大柄なファイターの後ろには、倒されたポケモンが見える。

――こいつ…サイドンを素手で倒したのかっ?!

だが、男にはまだ打つ手があった。

「ラッタ!」

男はポケモンの名を呼び、渾身の力で体をずらす。
すぐに大きな茶色のネズミが駆け寄り、男の体の下にある本をくわえ取ると全速力で走り出した。

スネークに任せ、出入り口付近で様子を見ていた3人は
何かがこちらに走ってくるのを見つけた。

「ネズミか?」

その後ろからはスネークが走ってくる。

「本はそいつが持ってる!捕まえてくれ!」

マルスが剣を振るい、C.ファルコンがパンチを繰り出したが
ネズミは驚異的なジャンプ力でそれらをかわす。
しかしその先には、拳を構えたクッパが待ち受けていた。

ドスッ

ラッタは思わず口を開け、本は前方に放り出される。

本はクッパの頭上を飛んで行き、別のポケモンに捕まれた。
大きな口を持つ、コウモリのような姿をしたそのポケモン、ゴルバットは細い足で本を掴み
廊下の向こうに飛び去っていく。

4人のファイターもそれを追って書庫から駆けだしていった。

図書館1階。
ゴルバットから本を受け取ったもう一人のロケット団員が、利用客を押しのけて走っていた。

と、男の前にメタリックな装甲に身を包んだファイターが立ちふさがる。

「……」

サムスは威嚇のため男に銃口を突きつけたが、
2人の間にゴルバットが割り込み、その隙に男は横の道に逃げていった。

男はついに、図書館のホールにたどり着いた。
しかし、出入り口にはC.ファルコンが既に先回りして立ちふさがっていた。
後ろからも複数の足音が迫ってきている。

遠巻きにしてこちらの様子を伺っている一般の人々に気づいた男はニヤリと笑い、
モンスターボールをそちらに投げつけた。

「動くな!」

赤い光と共に、ボールから紫色のゴツゴツした球体、マタドガスが現れた。
マタドガスは空中を漂い、利用客の間に浮かんだ。

男は後ろから来た4人の方を向き、不敵な笑みを浮かべて言った。

「あいつには“だいばくはつ”を覚えさせてある。
ファイターならどうかわからんが、普通の人間はひとたまりもないぜ?」

「何の関係もない者を巻き込むなど…」

と、クッパが前に出かけるが、スネークはそれを制し、男に聞いた。

「何が望みだ?」

「お前らに捕まった仲間と、俺を無事にカントーまで送り届けろ。
そうお前らのボスに伝えるんだ。もちろんこの本も一緒にな」

ホールにあるソファに深々と座り、くつろいでいる男の周りを彼のポケモンが囲み、
マタドガスの周りで固まっている利用客や、ファイターを見張っている。

「あぁ、それはもちろんだ。だが…」

会話が途切れる。

携帯電話を閉じ、サムスはスネーク達に言った。

「…そんな要求はのめない、ということだ」

「しかし、客はどうなっても良いのか?」

「客も無傷で救い出すように言っていた」

「どうやれというのだ?!」

クッパが思わず大声を出し、蛇のポケモンに油断のない目で睨まれる。
クッパは声を抑え、続けた。

「…これほど監視の厳しい状況で
相手に悟られずに無力化するなど、出来るとは思えんぞ」

マルス、サムスがスネークの方を見るが、スネークは「すまないが…」と首を振る。

「俺は今、全くの丸腰だ。
あのように開けた空間で、周囲をきっちり囲まれた男を
この状況で倒すのはまず無理だろう」

4人のいる場所はポケモン達から丸見えになっている。
武器を構える動きもすぐに見つかってしまうだろう。

「せめてネスやリュカのような、体を動かさなくても攻撃の出来るファイターが居ればな…」

「…そう言えば、ゼルダを見かけなかったか?」

サムスが3人に聞いた。

「いや、見なかったな。ここに来てるの?」

「ああ。マスターからの呼び出しをもらう前に会ったのだが…」

「広い図書館だし、迷ったのかもしれないね。
…時間稼ぎもかねて、僕があの男を説得してみるよ」

そう言ってマルスはホールに踏み出した。

「ん?話がついたのか?」

男はソファから体を起こし、ポケモンに囲まれている青髪の青年を見た。

「いや、今連絡しているところだよ。
僕は、君がなぜその本を欲しいのか知りたくて来たんだ」

鋭い爪を持つポケモンが横で威嚇しているにも関わらず、マルスは涼しい顔で言った。
怪訝そうな表情になった男に、マルスはこう続けた。

「僕ら5人のファイターでかかっても、君たちに敵わなかった。
全くすごい手口だよ」

「…ふん、当たり前だ。2ヶ月も前からこの計画のために準備してきたんだからな!」

そう言いつつも、男は優越感から来る笑みを隠せなかった。

「わざわざ図書館に来ているファイターまで調べたんだぜ。
今日なら邪魔は入りにくいと踏んだのさ」

「なるほど。そこまでやるなんて、余程の目的があるんだろうね」

「もちろんだとも。
全てはロケット団復興のため、そしてサカキ様のためなのだ。

5年前俺は、サカキ様直々の命令でオーレ地方に行き、スナッチマシンを探していた。
そのマシンはなんでも、トレーナーの持つポケモンを強制的に奪い取ることが出来るということだ。
そいつさえありゃ、ロケット団はカントーはおろか、世界征服だってできる!」

分からない単語がいくつか出てきたが、マルスは男が話すのに任せた。

「だが…俺がやっとの事で掴んだ情報で、マシンはもうこの世にないってことがわかった。
設計図もろとも、開発したシャドーって組織が潰れちまったんだ。
その上カントーに帰ってみりゃ、ロケット団まで潰れてた!

…俺は諦めなかった。仲間を集めて、マシンの情報を探し続けた。
そしてついに、設計図の複製がここにあることを突き止めたのさ!」

そう言って男は、抱えている本をぱん、と叩いた。

――同じ世界で使われていた技術の設計図だったのか。
厄介だな…

マルスは心の中で呟いた。

もし、男の盗んだ技術が異なる世界のものであれば、ほぼ間違いなく持ち帰られても正常に動作しない。
技術の基盤となる法則が元の世界と異なるためだ。
それでも万が一のことを考え、マスターハンドは技術に関する書物について貸し出しを禁じ、厳重に保管している。

「あとはこれを持ち帰って、サカキ様の元に行くだけ。
ロケット団は元通り…いや、前より強くなって蘇るのだ!」

拳を振り上げる男に、マルスは慎重に尋ねた。

「…そのスナッチマシンで、他人のポケモンを盗って君たちのものにするのかい?」

「ああ。それがどうかしたか?」

「僕が聞いた話だと、人とポケモンの関係はそんな一方的なものじゃないはずだよ」

「フン!ポケモンってのは世間の奴らが言うような“友達”じゃない。
ただの“道具”だ!
これからロケット団がそれを知らしめてやるさ」

「でも、君の計画はポケモン達が居なければ成り立たなかった。
敵に近づく危険を冒してまで本を運んだり、身を挺して君を守ったり…。」

マルスは、自分を慕って付いてきてくれた、多くの仲間を思い浮かべていた。

「そんなことは人と彼らの間に確かな絆がなければできないんじゃないかな。
彼らは君を信頼している。君だって心の底では…」

「う、うるさい!
お前みたいな青二才に何が…」

ふいに青白い電光が走る。
立ち上がりかけた男はその場に崩れ落ち、動かなくなった。

「全く…図書館では静かになさい!」

フロルの風で現れたゼルダが、魔法で男を気絶させたのであった。

ロケット団員2人はポケモンと共に、カントーから来た警察に引き渡された。
気絶した男の周りにはマタドガス含め、彼のポケモンが心配そうに寄り添っていた。

「何があったのか、どなたか詳しく教えてくれます?」

ゼルダが、警察を見送るファイター達に尋ねた。

「ん?マスターから聞かなかったのか?」

「いいえ、何も…。
あの通信機械、どうしても音の消し方がわからないので、図書館には持って行かないんです。

ホールの方が変に騒がしいので様子を見に行ったのですが
マルスさんのやり取りであの男が本を盗もうとしているのがわかり、駆けつけたのです」

「でも、良いところに来てくれました。
ちょっと雲行きが怪しくなっていたので…」

「ちょっとどころでは無いだろう?
遠くにいた我が輩にも、あやつの表情がわかったぞ」

と、クッパが突っこむ。

「まぁそれは言わないで。
…じゃ、ゼルダ姫。僕が詳しく教えましょう」

「しかし…こう見ると図書館には意外な面々が来てるんだな。
C.ファルコンは何を読んでいるんだ?」

「もっぱら他の世界で開かれるレースの雑誌だ。
……意外な面々ときて聞くなら、むしろクッパじゃないのか?」

「むっ…我が輩か?!
…無論マリオを倒す作戦を練るための本を借りとる!(…まさか子育ての本とは言えん…)」

追記
スナッチマシン (登場作品:『ポケモンコロシアム』『ポケモンXD 闇の旋風ダーク・ルギア』)

オーレ地方において、悪の組織シャドーが製作した機械。
この機械を装着することで、通常野生のポケモンしか捕まえられないモンスターボールが
“スナッチボール”となり、トレーナーの持つポケモンでも自分のものにすることが出来る。

シャドーはこの機械を、窃盗団であるスナッチ団に渡して優秀なポケモンを奪ってこさせ
人工的に心を閉ざすことで戦闘マシンのようになったポケモン、“ダークポケモン”を作り出した。
シャドーはダークポケモンの軍団を作り、世界征服を狙っていた。

しかし、この野望は二度にわたって阻止された。
一度目は元スナッチ団の青年と、ダークポケモンを見分ける力を持つ少女が、
二度目はポケモン総合研究所に住む少年がシャドーと戦ったという。

裏話

またもや自分の知ってる圏内(ポケモン)からの創作です。
知らないソフトのキャラクターも、一応それっぽくなるように頑張りました。参考のために、元のゲームのWikiとか攻略サイトとか見始めたのは、たぶんこの頃。
ちなみに冒頭でスネークが読んでいる本のタイトルは、メタルギアシリーズの発想元になったという映画『ニューヨーク1997』から。(小ネタ過ぎる)
この映画、偶然見たことがあるのですが、確かに主人公は黒い眼帯をし、単身潜入をし、しかも名前は"スネーク・プリスキン"という一致率でした。
"プリスキン"ってここから来てるのか!
まだまだ他にも、私の乏しい記憶力からこぼれ落ちた一致点があるかもしれません。

目次に戻る

気まぐれ流れ星

Template by nikumaru| Icons by FOOL LOVERS| Favicon by midi♪MIDI♪coffee| HTML created by ez-HTML

TOP inserted by FC2 system