気まぐれ流れ星二次小説

グッド・モーニング グッド・モーニング

様々な世界の交差点に位置する『スマッシュブラザーズ』。
ここでは個性豊かな“ファイター”達が時に戦い、時に食事を共にし、
賑やかに…騒がしく暮らしている。

今日も、そんな彼らの1日が始まる。

深い眠りに閉ざされたジャングル。

やがて空が白みはじめ、木々に色を与えていく。

オレンジ色の太陽がゆっくりと昇り、その光が一軒のツリーハウスに差しこんだ。

ツリーハウスの主、ドンキーコングはベッドから起き上がり、
たくましい腕を振り上げて伸びをすると窓辺に立った。

緑豊かな朝のジャングルに彼のドラミングが響きわたる。

「あにきぃ、こんな朝早くにどうしたんすかぁ?まだ朝食の時間じゃないでしょー…」

ドンキーに連れられ、不満げな声を出しながらディディーがジャングルを走っていく。

「いーからついてこい!」

ドンキーはそんな相棒に笑顔でただそれだけ言うと、巨木の洞に入っていった。

洞を抜けると、そこは“城”の10階ホール。
地面は草地からなめらかなタイル張りになり、2人は足をぺたぺた鳴らしながらエレベーターに乗り込んだ。

「1階に行くぞ」

ドンキーがそう言い、ディディーがパネルを操作する。

この“エレベーター”は各階に1つずつしかないが、いつでも待たされることなく乗り降り出来るようになっている。
これはマスターハンドが各階分のレールと箱をその空間に収めているからなのだが、
建物内にありながら日の昇るジャングルと同じく、その仕組みはドンキーにとってはどうでも良いことである。

「ほいっ、バナナ詰め合わせ5箱!お待ちどおさん!」

城門前に止められたトラックから次々と大きな箱が下ろされていく。

「うわぁ~!これ全部バナナ…?!」

「そうとも!驚いたか?」

ドンキーは木箱を1つ開けてみせる。

「しかもドルピック産の特上のやつだ。
おれは『スマブラ』に呼ばれたらこいつを頼もうと思っててな!」

「でもあにき、こんなに多くの箱運べるんすか?」

目を丸くして箱の中を覗き込んでいたディディーは兄貴の方を振り向く。

「うーん、おれが3箱、ディディーが2箱…」

「お、おいらそんなに持てないっすよ!」

「じゃあ1箱として…何箱あまる?」

「1箱っす」

「1箱かぁ……ここで食べてくか!」

「ええーっ?朝食前なのに??
またご飯残してルイージさんに注意されちゃいますよぉ!」

「大丈夫、バナナは別腹だ!それにほら、こんなにウマそうじゃないか」

ドンキーはディディーによく熟した1本を差し出した。

「うー…確かにそうっすね」

少しためらった後、ディディーは笑みを浮かべ、バナナを受け取った。

7階 リュカの部屋。
いかにも子供部屋といった感じで、こぢんまりとした素朴な部屋である。

小さな寝息を立てるリュカの耳に、ノックの音、そして友達の声が聞こえてきた。

「リュカー、起きてるー?」

「うーん…」

「今日は朝ご飯作る日だよー」

「……!」

リュカはその言葉でガバッと起き上がった。

「そうだった…ごめん、ネス!今着替えるから!」

ベッドから飛び降りて普段着の赤と黄色の縞シャツ・青いズボンに着替え、リュカは鏡を見た。
いつもの寝ぐせがついている。

寝ぐせをなでつけつつ外に出ると、ネスが待っていた。

「おはよう、リュカ。早起き特訓、1日目は大成功だね!
…さっ、厨房に行こう!」

1階。

ネスとリュカはエレベーターから降りると、ホールの方から誰かが歩いてくるのに気がついた。

「ドンキー、ディディー、おはよう!」「おはようございます!」

2人は声を掛ける。

「おぉー、ネスにリュカじゃないか。おはようさん!」

両手で2個、頭の後ろに1個の箱を乗せたドンキーが応えた。

「おはよう!2人とも早起きっすね…あっ、今日の朝食担当なんすか?」

抱えた箱の横からディディーが顔を出す。

「うん、そうなんだ。今日はレッドさんのとこの料理らしいよ」

リュカがドアを押さえ、ドンキーとディディーはエレベーターに乗り込んだ。
ところがブザーが鳴り、パネルに『重量超過』の文字が出る。

「ん、何だ何だ?」

「重すぎるっていうことっすかね…あにき、1箱置いてきましょう」

「また取りに戻るのか?面倒だなぁ…また1箱ここで食べてくか!」

「あれだけ食べてまだ入るんすか?!
…だとしても、おなかに入れたって重さはごまかせないっすよ!」

「そうか…じゃ、ここに置いとくか」

ドンキーは廊下に1箱置き、エレベーターに戻った。
今度は『重量超過』の表示は出なかった。

厨房には既にルイージ、Mr.ゲーム&ウォッチ、レッドを中心に担当のファイターが集まっていた。

「あら、2人ともおはよう!」

と、手を振ったのはピーチである。

「これで全員揃いましたね」

そう言ってゼルダは2人にエプロンを渡し、ルイージの方を見た。
ルイージは頷き、「じゃあレッド君、説明よろしく!」と声を掛けた。

「あっ、はい!
えっと…今日の献立は白飯、味噌汁、おひたし、野菜炒め、卵焼きで
果物はモモンを付けます」

「モモンってそのカゴに入ってるフルーツかしら?」

ピーチが桃色の果物の入ったカゴを指した。

「ええ、そうです。とても柔らかいので、むくときは気をつけてください」

「大丈夫よ。私、よく似た名前のフルーツをいつも食べてるもの。
そうだわ!このフルーツは私に任せてくださる?」

ピーチは、ホワイトボードに各品の担当者を書いているMr.ゲーム&ウォッチに聞いた。

「はい。適材適所…ということで」

「レシピや担当は今ゲーム&ウォッチさんが書いているホワイトボードを見てください。
あと、わからない所があれば遠慮無く僕にどうぞ」

そう締めくくり、レッドはルイージに頷きかけた。

「よし、それじゃあみんな、始めようか!」

ルイージは腕まくりをし、宣言した。

11階。

ファイターの居住フロアとして最上階であるこの階のホールに、3人のファイターが集まっていた。

階段を背にピットが立ち、その前にカービィとデデデが並び立っている。

「えぇっと…
これより、『第1回グルメレース スマッシュブラザーズ大会』を始めます」

ピットは、デデデの部下、バンダナワドルディから渡された紙を読み上げている。

「プププランドの伝統的なスポーツであり、由緒正しき…」「そこは飛ばしてしまえ!」

と、早くもデデデが拳を振り上げる。

「えっ?」

「わしはもう腹が減ってしかたないのだ!さっさとレース始めるぞ!」

「…でも、ルール説明はすべきじゃないでしょうか?」

ピットは紙の束をめくりつつ言った。

「うむ…それもそうだな。場所も変わったことだし…。
よし、早いとこ済ませてしまうのだ!」

「はい、ではルールを読み上げます。
スタートは11階ホール、ゴールは1階食堂で、朝食を早く完食した方の勝ちとなります。

その他のルールとして、
1、エレベーターは使わない
2、道具も使ってはいけない
3、負けても恨みっこなし…

…あっ、これだけですね」

ピットは紙の束をまとめ、階段の前から退いた。

カービィとデデデがスタートラインにつき、ワドルディがクラッカーを持つ。
ピットはカウントダウンを始めた。

「3、2、1…」

パーン!!

クラッカーが鳴り響くと同時に、2人は派手に足音を立てて階段を降りていった。

ピットが2人の意外な足の速さに驚いていると、スネークがホールに走り込んできた。

「どうした、敵襲か?!」

彼は片手に手榴弾を持っていた。

「あっ、スネークさん。
いえ、カービィさん達が“グルメレース”をしているだけです」

「銃声かと思ったが…そのクラッカーの音か」

「驚かせてしまってすいません」

「いや、君が謝る必要はない。こちらこそ邪魔したな」

スネークは表情を和らげ、自分の部屋に戻っていった。

「…ところでバンダナワドルディさん、食堂の方には誰か記録を取る人がいるんですか?」

ふと、ピットは隣にいる青いバンダナをしめたワドルディに聞いた。

「えっ?…さぁ、どうでしょう…」

9階 ホール。

お馴染みの宇宙服を着たオリマーを先頭に、色とりどりのピクミンがぞろぞろとホールに現れる。
ピクミンは何匹かずつで、大きなガラスビンや古びた機械などを抱えている。

「これを運び終わったら休憩にするぞ」

オリマーはそうピクミン達に声を掛ける。
ピクミン達は、それが理解できたのかは分からないが、頭の葉やつぼみ、花を嬉しそうに揺らして応えた。

オリマーの自室の隣の部屋にはあの星の環境が再現されており、
彼は普段、そこにピクミンを住まわせている。

そこには動物が全く居ない上、ピクミンのエサとなる大地のエキスが休むことなくわき出ているため
オリマーは安心して外出することができるのだ。

オリマーが運ばせている品物は、一見ガラクタにしか見えないが
彼の出身であるホコタテ星では、珍品として高値で売れる。

この仕事は彼が所属するホコタテ運送の社長から言われたものであったが
オリマーは売り上げのいくらかを報酬としてもらう契約を取り付けていた。

――ホコタテに帰ったら、新しい宇宙船を一隻買うかなぁ。
そして休暇を取って宇宙旅行に出て…

オリマーが想像を膨らませていると、ピクミン達のざわめきが耳に入った。

――何だ?
…上か!

彼はピクミン達の様子から瞬時に判断し、笛を鳴らした。
それに応えてピクミン達はホールの壁際に退避する。

ドーン!!

と、まもなく、
先程までピクミン達が居たホール中央に、上の階の吹き抜けから誰かが落ちてきた。

「あっ…デデデさん…?!」

大丈夫ですか、と尋ねかけたオリマーの背後で

「吹き抜け使うなんてずるいよーっ!」

という声が聞こえた。
口をとがらせ、階段を駆け下りてきたのはカービィである。

「ズルではないぞ。“吹き抜けを使ってはいけない”というルールはないのだからな!
だーっはっはっは!!」

豪快な笑い声を残し、デデデは吹き抜けを通って8階へと落ちていった。

「あーっ、待ってよーっ!」

カービィもデデデを追って落ちていき、ホールに残されたファイターは1人、
…いや、この顛末を見ていたファイターがもう2人いた。
デデデの落ちてきた音を聞き、部屋から出てきたポポとナナである。

「朝から追いかけっこなんて、どうしたのかなぁ?」

「理由はよくわかんないけど、何だか面白そうだな!
僕らも追いかけよう!」

「でも階段から行こう…」

と言うナナの前で、ポポはさっさと吹き抜けに飛び込んでしまい、
ナナも「危ないでしょー!」と言いながら彼の後を追った。

1階。

食堂に続く廊下に、4匹のファイターがいた。
対『食いしん坊ファイター』防衛班のプリン、ゼニガメ、フシギソウ、リザードンである。

“最初”の砦としてホールに近い側にいるプリンは、厨房のドアを守る3匹にこんな事を言っていた。

「残念だけど、今日はあなた達の出番は無いわよ!
あなた達はそこでワタシのやり方をしっかり勉強しておきなさいね~っ!」

「はぁーい!」

元気よく返事をするゼニガメの横で、リザードンはフンと鼻を鳴らした。

「な~に先輩風吹かしてんだよ。どうせ『うたう』やるだけだろうが」

3匹とも『うたう』の届かない距離にいるため、この悪口はプリンには届いていない。

「でもリザードン、彼女がここの古株だというのは確かだし…
まぁ、ああいう性格なんだと思って、あまりムキにならない方がいいよ」

フシギソウはそう言ってリザードンをなだめた。

一方厨房では、朝食の準備が着々と進んでいた。
ファイター達が忙しく立ち回り、油がはぜる音、水を流す音で厨房の中は賑やかである。

野菜炒めを大皿にあけ、一息ついたルイージは果物とも違う甘い香りが漂っているのに気がついた。
香りはマリオ、ヨッシーが担当する味噌汁の鍋から来ているようだ。

「あ、ルイージさん!ボクつまみ食いなんてしてませんよ~」

つまみ食い防止マスクの中からヨッシーはもごもごと言った。
マリオ、ヨッシーのこの2人は、人手不足のためルイージがかり出してきた人員である。
本来なら防衛班に阻止される側であるヨッシーが朝食班にいることからも、余程手が足りなかったことがわかる。

ヨッシーの横で鍋の中を覗き込んでいたルイージは、彼に尋ねた。

「ヨッシー…ちゃんとみそ入れたの?これ…」

「入れましたよ。冷蔵庫にあったので良いんですよね?」

ヨッシーはそう言って何かの包み紙を手渡した。

「…これはチョコレートだよ」

ルイージはその包み紙を広げて、ヨッシーに見せた。

「あ~っ!本当ですね!」

「ハハハ!チョコレートとみそなんて一文字も合ってないな!」

マリオが吹き出したが、ルイージは落ち込んだままである。

「チョコレートとカレーのルーを間違えるならまだわかるよ。
…でもなんでみそと間違えるかなぁ…。

……兄さんも何で止めなかったのさ?」

「俺はヨッシーのつまみ食いを止める担当なんだ。な、ヨッシー?」

「そうです。で、ボクが味噌汁担当なんです」

「でも、何かミスを起こしそうだったなら止めるべきじゃない?
たとえそれがつまみ食いじゃなくても…」

恨めしげな目で見てくる弟に、マリオはようやく笑うのを止めた。

「…しょうがないだろ、俺みそなんて見たことないし。そんなの分かるわけないだろ」

他のファイターも手を止め、2人の方を見はじめた。

「第一、料理オンチな俺を連れてきてまで、こんな手の込んだ朝食作る意味無いだろ?
…朝なんてコーンフレークとキノコだけで良いんだよ!」

「それじゃあ栄養バランスがなってないじゃないか…!
今日は試合の予定がたくさん入っているから、持久力のあるものを取らなきゃダメなんだって!」

「あーもう!お前の家庭科の授業は聞き飽きた!」

この険悪なムードをのほほんと見ているだけのヨッシーに、レッドが小声で聞いた。

「ヨッシーさん、止めなくて良いんですか?」

「大丈夫。ケンカするのも仲が良いってことですよ~」

この言葉にはマリオとルイージも同じ事を突っこまざるをえなかった。

「誰のせいだと思ってるんだよ?!」

11階 ホール。

食堂に向かうためホールに出てきたマルスは、エレベーターの前でアイクに出会った。

「おはよう、アイク!」

と、マルスはいつもの爽やかな笑顔を見せるが、
アイクは大して興味のない目をして「ああ」と答え、さっさとエレベーターに乗っていった。
下手をすると置いて行かれそうな空気を感じたマルスは、急いでエレベーターに乗り込んだ。

『スマッシュブラザーズX』が開かれて2週間くらいが経った頃であるが、
同じような世界から来たにも関わらず、マルスとアイク、この2人はあまり気が合わない様子だった。

エレベーターに乗った後の2人の間には全く会話がない。
アイクは扉の方を向いて立ち、マルスは少し退屈そうな顔をしていた。

と、エレベーターが微かにきしみ、止まった。
モーターの音も止まり、2人の沈黙が一層目立ち始める。

「止まった…ね…?」

先に口を開いたのはマルスだった。少し間があり、

「…誰か乗るんだろ」

と、アイクが振り返らずに言う。

「それにしては、ドアが開くのに時間がかかってるよ」

マルスがそう言った直後、エレベーターが嫌な音を立てて斜めに傾ぎ、滑りはじめた。

6階。

近未来的なデザインのフロアに、ノックの音が響いている。
フォックスがファルコの部屋のドアを叩いているのだ。

「おい!ファルコ!起きてるのか?お前今日は第1試合入ってるだろ!」

「…なんでお前が知ってんだよ…」

ドアの向こうで眠たげな声が答える。

「おいおい、試合表見てないのかよ…。あれは他のやつの予定も載ってるんだ」

「…zzz」

「全く…
起きろ!ファイターはお前1人じゃないんだからな!」

フォックスが声を張り上げると、ようやく部屋の中でファルコが起き上がる音が聞こえた。

「はいはい、起きるよ起きるって…」

「また夜更かししたんだな…」

やれやれと首を振り、フォックスはエレベーターの方へと歩いていった。
やがて彼の視界に、吹き抜けを挟んで向かい側にあるウルフの部屋が入ってくる。

フォックスはふと立ち止まり、その扉を見つめた。

――同じ世界の出身とはいえ、こいつと同じ階に部屋を置くなんて、
マスターは何を考えてるんだろうな…。

再び歩き始める。

――…しかし、これでリンクとゼルダの不安が理解できたな。
あのときは軽く流してしまったが…。

――だが、マスターも考えなしにあいつを呼んだわけではないだろう。
たとえもしもの事が起きたとしても…。

フォックスはエレベーターのボタンを押した。
しかし、いつもならすぐに開くはずの扉は、いっこうに開く様子がない。
上のパネルを見ると“故障中”と出ている。

「珍しいな…」

初代の頃からこの世界に来ているフォックスでも、数えるほどしか出くわしていない現象である。

――まぁ、たまには階段で降りるのも良いか。

フォックスはそう思い、下り階段へと向かいかけたが、慌ただしい足音を耳にして立ち止まった。

上り階段からやってきたのは、相変わらず暑そうな格好をしたデデデである。
彼はそのままホールに駆け込むと、吹き抜けの前で立ち止まった。

「うーむ、狭くて通れんな…」

この階の吹き抜けは奥に向かって細長い長方形となっている。
手すりを掴み、躊躇するデデデの横を、ゴムまりのように跳ねていくものがあった。

「お先にー!」

カービィは小さな手を振り、吹き抜けに落ちていく。

「うおぉっ!しまったっ!」

デデデは慌てて下り階段に駆け込んでいった。

「…何事だ…?」

デデデを避けて壁に張り付いたままの格好で、フォックスは呟いた。

抜きつ抜かれつ、カービィとデデデは騒々しく階段を駆け下りていく。
2人はついに3階にたどり着いた。
ここにある吹き抜けは1階ホールまで続いている。

「落ちるのはわしの方が速いぞ!」

デデデは早くも勝ち誇り、吹き抜けに飛び込んでいった。

2階。

朝のランニングを済ませ、トレーニングルームから出てきたソニックの前で、
2人のファイターが吹き抜けを落ちていった。

まずデデデが、そしてそれを追うカービィがストーンとなって1階に落ちていく。

「へぇ、レースやってんのか。面白そうだな!」

ソニックは、同じくトレーニングルームから出てきていたリンクに言った。
それに対し、リンクは首を振る。

「ソニックさんがやる類のレースじゃないと思うな、あの2人がやってるレースなら…」

1階 ホール。

ストーンに変身したことでデデデを追い抜いたカービィは、地面に着く直前で変身を解除し、走り始めた。

「わっ!」

しかし、彼はいきなりの強風に煽られ、ホールの噴水まで飛ばされてしまった。

「ははは!悪く思うな!」

着地で風を起こした張本人、デデデはそう言い残し、ドタドタと廊下の方へ走っていく。
ずぶ濡れになりながらもカービィはめげずにそれを追いかける。

走る2人の前に、1人のファイターが立ちはだかった。

「来たわね!ワタシの『うたう』を受けてみなさ~いっ!」

廊下の真ん中に立ち、プリンはそう言って大きく息を吸い込んだ。

「そうはいかんぞ!これを食らうのだ!」

対し、迫るデデデは懐から何かを取り出し、彼女に向かって勢いよく投げつけた。

「キャアッ!」

ワドルディの頭突きを受けてプリンは大きく弾み、廊下に置かれてあった箱にぶつかった。
箱は横倒しになり、中に入っていたバナナが廊下にあふれ出る。

「何いっ?!これもトラップか?!」

「わぁ~!もったいないなぁ~!」

すべったり転んだり、2人は大騒ぎしながら廊下を走っていった。

「あらっ?2人ともー!厨房はそっちじゃないわよー!
…食堂から行ったら遠回りじゃないかしら」

目を回しているワドルディの横で、プリンはない首を傾げた。

朝食が出来たと知らされた3匹のポケモンは、配膳を手伝うため食堂に戻っていた。
朝食班のファイターも各テーブルにトレーを置いていっている。

「このずいぶん盛ってあるのは誰の分だ?」

大きなトレーを渡されたリザードンが、ゼルダに聞いた。

「それはカービィさんの分です。席は向こうのテーブルにありますよ」

ゼルダの答えに、リザードンは目を丸くした。

「朝からこんなに食べるのか?!
大食いだとは聞いていたが、とんでもないやつだな…」

「ホントだね!大王さんのとほとんど変わんないよ!」

そう言うゼニガメはフシギソウと協力して、デデデのトレーを掲げている。

早くも食堂に2人のファイターが駆け込んできた。

デデデとカービィは自分の席に座ると、
山のように盛られたご飯、大皿に入った野菜炒め、ピーチが丁寧に皮をむいたモモン…
朝食の全てを吸い込みで食べてしまった。

警戒して寄ってきたファイター達に、2人は口々に尋ねた。

「ねぇ、どっちが早かった?」

「もちろんわしだな?」

「ぼくの方が早かったよね?」

「いいやわしだ!…おお、あんなところにロボットがいるではないか!
あいつなら公平に判断を下すぞ」

しかし、充電中のロボットは先を読み、素早くアイセンサの光を消して“寝たふり”に入っていた。

「誰も見ておらんのか?
…まぁいい。今回は引き分けということにしよう!」

「そうしようそうしよう!」

満腹になった2人は仲良く肩を並べて食堂を出て行った。

「ほんと、作るより食べるのはあっという間って言うけどさ…」

遠ざかっていく2人を見ながら、ルイージはため息をついた。

エレベーター内。

ようやくエレベーターの動きが止まったが、相変わらず扉は開かず、箱は傾いだままである。

マルスはエレベーターのパネルを操作したり、電話をいじったりして外部と連絡を取ろうとしているが、
対するアイクは、目を閉じて壁に寄りかかったままである。

何回目かの呼び出し音がエレベーター内に響き、途切れた。

「だめだ…。
…アイク、君もつったってないで何かしてよね」

マルスは携帯電話を閉じ、ややいらだちを含んだ声で言った。

「連絡がつかないなら…」

アイクは顎でエレベーターの扉を指し、続けた。

「…この扉を壊して脱出すれば良いんじゃないのか?」

「全く…単純だね君は」

マルスは首を振る。

「この“エレベーター”はそんな簡単なものじゃないんだ。
マスターの話では、これは準転送装置で、エレベーター同士は互いにかち合わないように
それぞれ違う空間を通っているというんだ」

「…どういうことだ?」

「僕だってよくはわからないよ。
…ただこれだけは言える。今ここで扉を壊したら、十中八九変なところに出るってね。
壁の中に埋まるか、海に落ちるか…」

マルスはため息をついた。

「…今頃みんな、朝ご飯食べてるんだろうな…」

1階 食堂。

ポポとナナが重い足取りで食堂に入ってきた。

「疲れたぁ~…」

「…あっ、フォックスさん!カービィ見かけなかった?」

ナナは、食器のカゴの所にいたフォックスに聞いた。

「あぁ、カービィならもう朝食済ませたらしいぞ」

「そっか~……登るのなら得意なんだけどなぁ~…」

自分の席に向かうフォックスは、ヨッシーが何か甘そうなものを飲んでいるのに気がついた。

「ヨッシー、何飲んでるんだ?」

「あ、フォックスさん、おはようございますー!これはですね、チョコ汁ですよ」

「チョ…チョコ汁?今日の献立にそんなのあったか?」

「これはボクだけのメニューです。
ルイージさんがボクに全部くれたんですよ。これがなかなか美味しくて…。
…フォックスさんも飲みます?」

「いやいや、やめとくよ」

フォックスは、隣の大鍋からチョコ汁を掬おうとするヨッシーをとどめ、自分の席についた。
向かいにはヘルメットを外したサムスが座っている。

「フォックス、遅かったな」

サムスはあらかた食べ終わっている。

「ああ、ちょっと射撃訓練に時間がかかって。
まぁエレベーターが止まっていたのもあるかもしれないが…」

「あんたの所も止まっていたのか?」

「ん?サムスの所もか?」

「ああ。
…もしかすると他の階でも故障が起きてるのかもしれないな」

サムスは食堂を見渡した。確かに寝坊と言うには不自然なほど、ファイターの姿が少ない。

「でも今まで、3つ以上の階でエレベーターの故障が起きたことは無かったぞ」

「だからと言って全く起きないとは限らないだろう?
…ちょっとマスターに話をしてくる」

そう言うとサムスはヘルメットを被り、席を立った。

「エレベーターといい、廊下のバナナといい…今日は変な日だな」

フォックスは呟き、フォークを手に取った。

「フォックスさんっ!今何て言いました?!」

と、突然ヨッシーが大声を上げた。

「えっ…?“今日は変な日だな”って」

「その前ですっ」

「前?…エレベーターとか、廊下のバナナとか」

「それです!廊下のバナナって何ですか?!」

「あぁ、廊下にバナナが大量に落っこちてたんだよ。危うく転ぶ所だった…」

「ボクが片づけてきます!」

ヨッシーは真剣な目をして立ち上がった。

「片付けてくるって…お前今チョコ汁食べたばかりだろ」

「ボクの辞書に“満腹”の文字は無いッ…のです!」

そうヨッシーは拳を握りしめて力強く言った。

しばらくすると、やっと食堂に人が増え、いつもの賑やかさが戻ってきた。

食堂の入り口近くのテーブルには人数分のスプーン、フォーク、箸の入ったカゴが置かれている。
見慣れない箸のカゴに多くのファイターが集まっていた。

「レッドさん、この木の棒は何に使うんですか?」

オリマーが通りがかったレッドを呼び止めた。

「これも食器の1つで…こうやって使うんです」

レッドは木の棒を2本取り、片手で持って見せた。

「でも、スプーンやフォークでも食べられるので、無理をしなくても…」

とは言われたものの、カゴの近くにいるファイター達は見よう見まねで箸を持ってみる。

「持つには持ったが…ここからどうするのだ?」

そう言うガノンドロフの右手には、半ば隠れるようになって箸が握られている。

「こう…挟ませるんです」

レッドは右手を掲げて箸を動かして見せた。

「…?」

ガノンドロフは眉間にしわを寄せ、その動きを真似ようとする。

レッドを中心に、姿も年齢も様々なファイターが箸に苦戦している様子を、
離れて見物していたウルフは、肩をすくめ、自分の席へと歩いていった。

「いやぁ~、マスター部屋替えしてくんないかなぁー!」

「急にどうしたのさ、トゥーン」

隣のピカチュウが首を傾げる。

「ほら、おれの部屋がある階ってオトナしかいないだろ?」

「リンクさん、ゼルダさん、ガノンのおじさん……確かにそうだね」

「おれとしてはピカチュウとかポポとかと一緒の階に住みたいんだよ」

トゥーンリンクはスプーンをくるくる回しつつ言った。

「うーん、そうなったら楽しいだろうけど…。
今回の部屋割りって、出身地で大方決まっちゃってるらしいからね」

「マスターはカタいなーっ!
…あっ!カタいと言えばあいつだよあいつ!」

頬杖をついていたトゥーンリンクはガバッとピカチュウに向き直った。

「えっ?だ…誰?」

「リンクだよ!おれじゃない方の。あいつホントにカタいよなーっ!」

「そうかなぁ?一番初めの『スマブラ』で、ゼルダさんがまだ来てなかった頃は
リンクさん、そんなにカタい人じゃなかった気がするよ。
根は活発なんじゃないかな?」

「でも“お姫様”の前じゃあんな態度だろ?
あーあ、おれはあんなつまんないオトナにはなりたくないなー…」

「トゥーンはどんなオトナになりたいの?」

ピカチュウは味噌汁を吹き冷まし、聞いた。

「そりゃもちろん!アイクみたいなオトナだな!
アイクは、ゼルダやピーチみたいな“お姫様”にも、
おれ達みたいな子供にも同じように話すからな」

「対等にってことだね。…それよりトゥーン、ご飯冷めちゃうよ」

「ん?ああ」

トゥーンリンクはスプーンを持ち直し、白飯を一口食べると話を続けた。

「それにさ、アイクって剣も強いんだ。何回かトレーニングルームで手合わせしたけど…
…うわ、今日の朝めし野菜が多いなぁ。
…ピカチュウ、食べるか?」

「え?…ダメだよ、食べなきゃ!」

「そうだぞ、トゥーンよ」

向かい側に座って2人の話をさりげなく聞いていたクッパが頷いた。

「お前が尊敬するアイクも、好き嫌いせず食べたからこそ強くなれたのだ」

クッパは重々しく言った。

「ん~…そうか…」

これにはトゥーンリンクも、渋々ながら野菜炒めを食べるしかなかった。

「しかし大世帯になったものだな…」

呟いたC.ファルコンにMr.ゲーム&ウォッチが反応した。

「『スマッシュブラザーズ』が、ですか?」

「ああ。初めは12人だったのが今じゃ…確か35人か?まだ名前も覚えきれてない」

「私は全員言えますよ。例えばあそこに座ってる金髪の子はリュカさん…」

Mr.ゲーム&ウォッチはそう言い、
ネスやピカチュウと一緒に、トゥーンリンクの話を楽しそうに聞いている少年を指した。

「今走っていったのがソニックさん…」

と、指す先で、空になった皿を残して青い風が食堂を去っていった。

「そして向こうに座っているのがウルフさん…」

離れたテーブルで1人、ウルフは難しい顔をして、手に持った箸を動かそうとしていた。

「すごいな。覚えるコツとかあるのか?」

「いえ、試合予定を組んでいれば自然と覚えますよ」

「そうか、君はスケジュール組みを任されてたな」

「ファルコンさんもやります?」

「いや…遠慮しておくよ」

いつものように朝食のトレーを持って、食堂を出て行こうとしているメタナイトを見たマリオは
同じテーブルに座るリンクにこう聞いた。

「そういやあいつ、絶対に食堂で食べないよな?」

「あいつ…?あのメタナイトさんのことですか?」

ゼルダのいる前という事もあり、リンクは敬語で答えた。

「食べるときは流石にあの仮面を外すからじゃないでしょうか」

ここでワリオも話に入ってくる。

「乱闘中にも食べ物は出るが、他人の食べるのなんて気にして見てねぇし…
だが、本当に外してんのか?」

「試してみなきゃわかんないな」

「だめですよマリオさん!」

と、ピットが割ってはいる。

「彼は素顔を見られるのが嫌だから、人前で絶対に仮面を外さないんだと思うんです!
そこを無理に見るなんて…」

あんまりです、と言おうとしたピットの見る前でピーチが席を立ち、メタナイトの方へと歩いていった。

「…!ピーチさん?!」

立ち上がりかけたピットは、肩をリンクに掴まれる。

「ピット君…これは“スマブラX”の解くべき謎の1つです」

リンクは静かに言った。

ピーチに呼び止められ、彼女を見上げたメタナイトは、その手にケーキの皿があるのに気がついた。
(どこから出したのか、というのも『キノピオガード』と同じく“解くべき謎”の1つであるが、それはまた別の話。)

「はい、プレゼント!」

ピーチはそう言ってピンク色の大きなケーキが載った皿を差し出した。
一旦トレーをテーブルに置き、メタナイトはその皿を受け取った。
彼には絶対にそぐわない、ずいぶんとメルヘンな装飾がついたケーキである。

「これはかたじけない…(…プレゼント?一体何の日だと言うんだ)」

ピーチはすかさずこう言った。

「“ここで”食べていって下さいな」

そこで彼は、彼の方をさり気なく、だが真剣に見てくる何人もの視線を感じた。

――そういうことか。

彼は、仮面の奥で黄色く光る目をそのテーブルの方に向けた。そして

バサッ

「あーっ!“ディメンジョンマント”使いやがった!」

「そういう手がありましたか…」

騒ぐファイター達の前に再び現れたメタナイトが持つ皿は、見事に空になっていた。
彼の仮面やマントにはクリーム1つついていない。

ふと彼は横を向き、呟いた。

「甘いな…」

「…えっ?ケーキが?それとも俺達が…?!」

1階。

「あ~あ、第1試合かぁ…。ったく面倒くせぇなぁ」

半分夢見心地で朝食を済ませ、やっと食堂を後にしたファルコは待合室のドアを開けた。
転送装置にはまだ光が灯っていない。

「ん…?早くついちまったか?」

ファルコは呟き、ソファに腰を下ろした。

オフホワイト一色に塗られたこの部屋は、置かれたテーブルやソファも真っ白である。
広い部屋では、数人のファイターが思い思いの格好で、転送装置が動くのを待っていた。

十数分後。
暇をもてあまし、ブラスターをいじるのも飽きたファルコは誰かに話しかけようと思い、部屋を見回した。

――ロボット…は話せねーし、
…ああ、ガノンドロフは論外だ。またあん時みたいにはなりたくねぇぞ。
サムスは…誰かと電話中か。話しかけられそうにない雰囲気出してるぜ…。

と、彼の視線は、近くのソファの上で足を組んでいる青い犬に止まった。

――ん…?
あいつは確か新入りの…そうだルカリオってやつだ。
そういやまだ話したこと無いな。どんなやつなんだ…?

ファルコが口を開きかけたとき、ルカリオが目を開け、向こうから話しかけてきた。

『私に何か用か?』

口を全く動かさずに彼は言葉を発した。

「おお?!びっくりした!
…そーか、あんたテレパシーできるんだっけな」

『まぁその類のものだ。
…用件は何だ?…えぇと』

「ファルコ、だ」

『ファルコか。まだ全員の顔と名が一致していなくてな』

「オレだってわからないやつがいるさ。
…ところでよぉ、なんか待ち時間妙に長くねぇか?」

『妙にかどうかはわからんが…確かに長い』

「なんかアクシデントでもあったのか…。へっ、試合中止になんねぇかなぁ」

ファルコは背もたれに寄りかかり、腕を組んだ。
対してルカリオは眉をひそめ、

『試合中止…?それは困る。
私はこの試合のために、朝から山に行って準備運動をしていたのだからな…』

と言った。

「へぇ、マジメだな。そんなにがむしゃらにやってたら体が持たねぇと思うぜ、オレは」

『…』

ルカリオは難しい顔をして黙りこくってしまった。

――ちぇっ、固いやつだぜ。

ファルコは天井を見上げた。が、間もなく別の話を切り出す。

「ルカリオ、あんたここには慣れたか?」

『…まぁ、少しは。
人は多いし、人工物には囲まれるが、バトルの腕を磨くには絶好の場所だ』

「オレは前に開かれた『DX』の時からここに来てるんだが、
今回もまた個性的な連中が来たもんだ。
例えばお前んとこのレッドって坊やだが、“戦わない”ファイターなんて初めて見たぜ」

『私のところではトレーナーとはああいうものだ。人はポケモンに指示し、戦わせる』

「へぇ、そうなのか。楽なもんだな。

…ああ、レッドと言やぁあいつ、
初めてあったときオレやフォックスのことおっかしな顔して見てたんだが、ありゃ、どういう訳かわかるか?
本人に聞いてもはっきりしたこと言わねぇんだ」

『フフ…それはきっとお前達がポケモンに見えたんだろう』

ルカリオは初めて笑みを見せた。

「ポケモン?!オレが…?!
オレは雷なんか出さねぇぞ?
…まぁ炎なら出るが、あれはここに来てるときだけだ」

『わざではない。外見がそうさせるんだ』

「外見…あぁなるほど…」

ファルコは改めてルカリオの顔を眺めた。

「…いや、でもしっくり来ねぇなー…。
あんたをオレ達のとこに連れて帰ったら、絶対ポケモンだなんてバレねぇと思うぜ」

『お前の世界には人はいないのか?』

「人…っていうか、オレやフォックスのようなのがフツーの“人”だな。こっちの世界じゃ」

『そうなのか…』

ルカリオは意外そうな声を出した。

『…だがお前達の世界には行きたくはないな。機械に囲まれているのだろう?』

「あぁ、まあな」

『ここに来てさえ、“城”から出て森や山で過ごすことの多い私のことだ、
そんなところでは息が詰まるだろうな。
まぁ“城”をよく離れるのにはまだ理由があるが…』

「ん?どんな理由だ?」

『…先程話に出てきたレッドという少年から逃げるためだ。
彼はここに来て、ポケモンと話が通じるようになって以来、彼のポケモンだけでなく
私や、ピカチュウ、プリンを質問責めにするのだ』

「へぇ~、どうやって技を出すんだ、とかか?」

『ああ。流石はここに呼ばれるだけのことはあるが、ちょっと熱心すぎて困っている』

「へへっ、お互い苦労するな!」

「クシュッ!」

1階 厨房。
空になった皿を片づけていたレッドは、急にくしゃみをした。

「おっ大丈夫か、レッド」

トレーを持って入ってきたマリオが声を掛ける。

「…はい、大丈夫だと思います」

5階 デデデの部屋。

デデデは、1人分の割には広い、天蓋付きのベッドに大の字になり、いびきをかいていた。
そんな彼を、ベッドに乗って揺すっているひとがいる。

「大王様、大王様!起きて下さい!」

彼の部下、バンダナワドルディだ。

「む~…誰だ、わしの安眠を邪魔するのは…」

ようやくデデデが目を開ける。

「ぼくですよ、大王様!」

「なんだお前か…。
わしは今走り疲れてグロッキーなのだ。昼飯の時間になったら起こせ…」

「あーっ!寝ちゃだめですってば!もうすぐ試合なんですよ!
起きないと遅刻しちゃいますよーっ!」

バンダナワドルディの必死の声に、デデデは再び重いまぶたを上げた。

「誰の試合だ…?」

「誰のっ…て、大王様のですよ!
カービィとタッグ組むんじゃなかったんですかー?!」

「むおっ!そうだった!」

デデデが勢いよく起き上がり、バンダナワドルディはベッドから転げ落ちた。

「…もうこんな時間ではないか!なぜもっと早く起こさんのだ?!」

デデデは壁に掛けてあるハンマーを取り、ドアへと急ぐ。

「だいぶ前から起こそうとしてましたよ…」

デデデがはね除けた布団に埋もれたバンダナワドルディは呟いた。

「ええい、こうしてはおれん!カービィ、カービィは起きておるか?!」

数分後、デデデはカービィを抱え、急いで階段を降りていた。

「全く、まだエレベーターが直っていないとは…!これで階段を使うのは3度目だぞ」

彼が階段を1段1段駆け下りるたび、背中のハンマーが重そうに揺れた。

「えへへ…ぼくまだまだ食べれるよぉ…」

脇に抱えられたカービィが寝言を言っている。

「まだ寝ているのか?お前ほどのんきなやつはいないぞ」

自分がバンダナワドルディに起こされたことを棚に上げ、デデデはそんなことを言った。

「しかし…わしもお人好しだなぁ」

エレベーター内。

マルスはもう携帯電話を手放していたが、まだ何か打つ手はあるはずだ、と考え事にふけっていた。

「…その歩き回るの、止めろよ」

しばらくしてアイクが言った。

「うるさいな、僕は今考え中なんだよ。
こんな狭いところに閉じこめられて…歩きでもしなきゃ頭が働かないんだ」

マルスの声にはいらだちがあった。
八方塞がりの状況で、その矛先はアイクに向かう。

「だいたい何だよ、その態度は。君は僕のことが嫌いなのか?」

「お高くとまってるのが気にくわない」

「…はっきり言ったね。
しょうがないだろ、僕は一国の王子なんだ。でも…これでも抑えてるつもりなんだよ」

「じゃあ王子。何か策は思いついたのか?」

アイクにそう問われ、マルスは答えに窮する。

「…いや、全く、何も。
……そう言う君は何か思いついたの?」

そう問う声には大して期待がこもっていない。
アイクは無言でラグネルを構え、その剣先で扉を指した。

「…君…。
人の話ちゃんと聞いてた?」

マルスは携帯電話を開き、アイクの鼻先に突き出すと続けた。

「“圏外”。
この表示が出るのは『スマブラ』の通常の空間ではあり得ないんだ。

君がここで扉を壊して変なところに出るくらいなら、
多少待ったってマスターに見つけてもらう方が数百倍ましだよ」

アイクはマルスの手を退け、その目をまっすぐに見た。

「ここを壊せば変なところに出る、というのは分かってる。
だが、電話でさえ不通になるこの場所にいる俺達を見つけるのに、どれくらいかかると思う?」

「それは…」

この世界を維持するため、昼夜問わず忙しく飛び回るマスターハンドの姿が、マルスの脳裏をかすめた。
表裏含めれば、彼の舞台は気が遠くなるほど広く、複雑なはずだ。

「俺は出せる限りの力で、この扉だけでなくその先の空間も斬り開く。
…正常な空間に繋がるまでな。

…これが俺の策だ、マルス」

アイクは腕組みをし、マルスの答えを待った。

「…何というか、君の策は単純で運任せだけど…」

マルスは目を閉じ、少しの間何か考えていたが、頷き、アイクを見据えた。

「今はそれしかないのも確かだ」

「よし…じゃあ下がっていてくれ」

マルスがエレベーターの反対側に行ったのを見届けてから、
アイクはドアに向かってラグネルを構え直し、気合いをためはじめた。

1階 待合室。

今や待合室には、第2試合以降に出るファイター達も集まり、騒がしくなっていた。

「やれやれ、やっと着いた…」

「うーん…あれっ、ここどこ?」

「おお、起きたかカービィ!わしのお陰でどうやら遅刻は免れたようだぞ!」

と、胸を張るデデデの横で、スネークが腕を組み、こう言った。

「とっくにお前達の試合が始まる時間になってるぞ。
…ただ、転送装置が動かないから試合が始められないんだ」

「おいゲーム&ウォッチ!これはどういうことなのだ?」

クッパは待合室にやって来たMr.ゲーム&ウォッチを捕まえ、聞いた。

「私にも分かりません。
ステージにも異常は無し、転送装置にもこれといった故障はない…。
それなのに装置が働かないのです。」

Mr.ゲーム&ウォッチはお手上げのポーズをしてみせる。
と、そこにサムスが来た。

「クッパ、今マスターと連絡がついた。
詳しい話は彼が着いてから聞いてくれ。」

『…ここまで来ると異常だな』

ルカリオは待合室を見渡し、言った。

「ああ。こりゃ絶対何かあったんだな」

もう口には出さないものの、ファルコは確信に近い形で『試合中止』を望んでいる。

『…?!』

と、ルカリオがふいに右を向いた。転送装置の列がある方角である。

「…?どうしたんだ?」

『…わからない。が…何か来る』

ルカリオは波動の出所に神経を集中させた。

『…!伏せろ!』

ルカリオとファルコがテーブルの陰に隠れた次の瞬間、

ガキ ィイイン!!

奇妙な金属音が鳴り響き、続いて爆風が吹き抜けた。

テーブルから顔だけ覗かせたファルコは、宙に開いた穴から、見慣れた2人が出てくるのを見た。

その後、やっと到着したマスターから今回のアクシデントについての説明があった。

マスターは昨日の夜、僕らの階のエレベーターを修理していたのだが、
その時、エレベーターが通る“路線”を元に戻し忘れていたらしいのだ。

そのため、僕らが乗ったエレベーターはいつも通りの“路線”を通ろうとして“脱線”し、
他のエレベーターの“路線”も引っかき回したあげく、転送装置の“路線”に乗り上げて止まった…
マスターはそう例えて言っていた。

お陰で、試合を見に来てくれた人たちには迷惑を掛けちゃうし、僕らはエレベーターに閉じこめられるし、
マスターもとんでもないミスをしたものだけど…まあ無事に帰れたから良いか。

「おはよう、マルス、アイク。今朝は大変だったね」

「朝ご飯温めなおしておきました」

食堂でルイージとMr.ゲーム&ウォッチが出迎えてくれた。
僕は2人にお礼を言って席についた。アイクも隣に座る。

アイク、君には無愛想なところもあるけど、今回は君がいなかったら
エレベーターから脱出するのにもう少しかかっていただろうな。
ちょっと悔しいけど、君には僕にない強さがあるよ。

「おい…マルス」

そんなことを考えていると、アイクが僕を呼んだ。

「何?」

「お前…野菜食うか?」

「…え?」

裏話

何か面白いものが書きたいと思ったら、こんなに長くなってしまった。ギャグは短いのが良いのに…。
しかもタイトルはThe Beatlesの楽曲名から勝手に…! 今思うと恥ずかしいばかりです。
一応原曲に因んでみた部分はちょこっとあります。

読み返してみると、文章は(今のも)青臭いですが、この後に続く読み物の持つ雰囲気が出てき始めてるような気がします。
何てことはないですが、キャラの性格傾向と、ハッピーエンド主義…というか。
そして、キャラクターの性格を(自分の中でも)はっきりさせるために、この話では全ファイターをむりやり出しました。
シークがいないのに、バンダナワドルディが来ているのは秘密。
ちなみにデデデ大王は、自分の世話係として部下のワドルディ達を連れてきている、という設定を持たせちゃってます。
ワドルディは"亜空の使者"のムービーでちょこっと出てきてますし、最後のきりふだにも出てくるので、良いかな…と。
でもバンダナワドルディを出したのは良かったのかなぁ……まぁ良いか。

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気まぐれ流れ星

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