長旅
眼下には地球が広がっている。
私にとっては30年ぶりの地球だ。
通信が入ってきた。
『ハロー、ハロー。聞こえますか?』
良かった。まだ人間は生きているようだ。
私は安堵した。
なにしろここを出発してから、ずっと亜光速で宇宙を突っ走ってきたのだ。
私にとっては30年でも、地球の人々にとってはウラシマ効果でその何十倍もの時間が経っている。
上官が口癖のように言っていた。可能性としては、君が地球を去っている間に人類が絶滅していることもあり得るのだ、と。
私は向こうが指示してきた航空センターに船を着陸させた。
これが外の世界か…。
私は周囲を見渡す。ガラスを通さずに見る、
何しろ私は、生まれる前から宇宙飛行士となるべく育てられ、病原菌を取り込んでしまうのを防ぐため"外"との接触は許されていなかったのだ。
私のような人間は、ロボットの遠隔操作ができないほどの遠宇宙を詳しく探索するためにある。
無事に帰ってくる人が少ないことも、運命としてとうの昔に受け入れていた。
ウラシマ効果によって無駄な感傷を抱かないために、他の人との接触も制限されていたから、
任務を終えた後に解放され、他の人間と関われるようになる日をずっと心待ちにしていた。
ともかく、私は生きて帰ったのだ。
私が感動に浸っていると、航空センターの人がやって来た。
「長旅、お疲れ様でした。どこか具合の悪いところはありませんか?」
「大丈夫です。…強いて言えば空腹なことですですかね」
私の言葉を聞いて彼は笑った。
「では、すぐに食堂にお連れしなければ」
「あなたの送られたデータはさまざまな研究に役立っていますよ」
航空センターの建物を先立って案内しつつ、彼はそう言っていた。
彼の話を聞きつつも、私の興味は窓の外に移っていた。
遠くに街が見える。平野一面に広がり、よく発達しているようだが、
出発前の世界を直に見たことがなかった私は、あれからどの程度文明が進んだのか分からなかった。
そうこうしているうちに、食堂に着いたらしい。
「ここです」
彼が指し示した先を見て、私は目を疑った。
人がいる。
しかし彼らは、壁から伸びるコードを自分の胸につけている。
まるで…まるで充電でもしているかのように。
彼らを注意深く見た私は愕然とした。
妙に光沢のある肌。微動だにしない眼球。関節部に入っているわずかな筋。
そこにいるのはみな、ロボットだった。
「おや、もしかしてこのタイプの"食事"には合っていませんでしたか?」
隣のロボットが言った。
私はそのロボットの肩を掴んで必死に尋ねた。
「…教えてください。人間はどこにいるのですか?」
彼はこともなげに答え始めた。
「人間は、もういません。だいぶ昔の大戦争で人工ウイルスがばらまかれ、絶滅したのです。
…あぁそうでしたね、そのときまだあなたは宇宙にいて、知らなかったのですね。
大丈夫です。残された私達がデータベースを元にこうして世界を造り直しましたから。
……おや、バッテリーが切れたのですか?
おーい、君たち! この人を修理室に運んでくれ!」