風景#2
その物体はそれぞれ子供たちの手を離れると銀色の膜を広げ、ふわりと浮かびあがった。
まもなく小さなエンジンが起動し、それは銀色のタンポポの綿毛のように宇宙空間に漂いはじめた。
子供たちは急いで宇宙船に戻り、防護膜を脱ぐと窓に駆け寄った。
そこでは彼らの親たちが待っていた。
「ほら、あれあなたのじゃない?」
「ううん、違うよ。あっちのやつさ」
「あっ、わたしのが見えなくなっちゃった!」
「向こうに行ったんだよ。行こう、あっちの窓からきっと見えるさ」
親子がにぎやかにしている間にも、銀の綿毛は少しずつ速度を上げ、
1つまた1つと漆黒の宇宙に溶け込んでいった。
窓際にいる家族も少しずつ減っていく。
「ねぇ父さん」
「うん?」
「僕の、ちゃんと届くかなぁ」
「届くさ」
「本当に?」
「ああ、大丈夫だ。なにしろ宇宙には数え切れないほどの星があるんだからな」
彼らの種族はある時からずっと、この物体を宇宙に流し続けている。
それには自分たちの星や文化の紹介、科学などの技術の詳しい説明、
そしてそれを送る人のメッセージなどを記録した、球形の頑丈な装置がつけられていた。
年々1つの物体が運ぶことのできるデータ量が増え、内容も洗練されている。
彼らはこの行事を、他の星の人々も幸せにしようとして始めたのだが、
その損得は全く気にしていなかった。
その点、彼らは気楽な連中だった。
所変わって、ここは地球。
「大変です所長!」
「どうしたんだね、そんなに慌てて」
「地…地球に向かって何かが飛んできています!」
「ふむ…データを見せてくれ」
「…はい。こ、これです」
「隕石か…この距離ならばまだ迎撃できる。よし、政府に連絡してくれ」
「はい!」
実は、ミサイルで迎撃などしなくとも、それは地球に何の被害も起こさないように設計されていた。
しかし残念なことに、それは正確に飛んできたミサイルによって粉砕されてしまった。
銀の膜やエンジンはもちろん粉々になったが、贈り物が詰まった球形の装置だけは残った。
装置はそのまま太陽系を漂い続けている。
それが見つかることは、おそらくないだろう。
もう少し、少しだけでもそれについて地球人が調べていたら、それが何であるか分かったかもしれなかった。
その点、彼らは気の毒な連中だった。