気まぐれ流れ星オリジナル小説

かくれんぼ

「い~ち、に~い、さぁ~ん…」

幼い女の子の声が、静かな部屋に響いている。

「く~ぅ、じゅう!」

そう言って女の子は振り向いた。

「もういいか~い」

女の子は、返事がないのを確認すると、午後の陽光のあたる廊下へと駆けだしていった。
その背中では巻き毛が楽しそうに跳ねている。

女の子は不意に立ち止まると、目の前の植木鉢をじっと見つめた。
そっと後ろに回り込むと、

「見つけた~!」

鉢植えの陰に隠れていたものはクスクス笑いながら出てくると、女の子のあとについていった。

女の子は、廊下に飾られた絵の裏を次々と覗いていった。
背の高い友達が彼女を肩車してやっている。

すると一枚の絵の裏から、灰色の薄っぺらいものがひらひらと舞い降りてきた。

「またここに隠れてたのね!」

女の子がそう言うと、それは翼のようなものをぱたぱたさせた。

女の子は順調に隠れている友達を探し出し、
見つかった友達は女の子のあとを歩いたり、転がったり、飛んだり、すべったりしてついていった。

「あと1人…きっとあそこだ!」

そう言って女の子が居間の方へ駆けていき、友達はそのあとに騒がしくついていった。

女の子は居間のシャンデリアを見上げて言った。

「見つけたよ~!」

すると光がシャンデリアから離れ、女の子のもとに降りてきた。

「今度はあなたが鬼ね!」

女の子ははじめに見つけた友達に言った。

その様子を、女の子の父親が隣の部屋からこっそり見ていた。

「なぁ、あの子は何と話していると思う?」

父親が言った。

「想像上の友達と、でしょう?」

母親は、ホットケーキの生地を混ぜる手を休めず、答えた。

「そうかな? やりとりがあの歳の子どもに考えられる域を超えていると思うんだが…」

「大丈夫よ、私も小さい頃は1人や2人『友達』を作ったものよ。小さい子は想像力が豊かなものじゃない?」

「でも、あの子があの『友達』と遊びはじめたのはここに越してきた頃からだ」

「だから?」

「……この屋敷、何かいるんじゃないか?」

「まさか!」

母親は笑いながら、ボウルの中の生地をホットプレートの上に流し込んだ。

「いまさら幽霊だの何だの、信じる人いないわよ」

「いやぁ、僕は信じない。いや、信じたくない…が、何か胸騒ぎがするんだ……」

「まぁ、そんなこと言って。ここに住もうって言ったのあなたじゃなくて?」

「確かに空気も良いし、ここからの景色は最高だ。それにこの屋敷の雰囲気も気に入っている。
でも何か取り憑いているとしたら…」

「考え過ぎよ、あなた」

母親はほほえんで、焼き上がったホットケーキを皿にのせていった。

そのとき、皿の上を何かがかすかな風を起こしてかすめていった。

最後の1枚を置こうとした母親は、ふと皿を見つめる。

――あら、気のせいかしら。でも確かに6つは置いたはずよね?

そう思ったが、
彼女は肩をすくめ、5つ重なったホットケーキの上にもう1つ、ホットケーキを重ねた。

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