気まぐれ流れ星オリジナル小説

人類の友

その日は、人類と地球外生命体とのファースト・コンタクトという記念すべき日になるはずだった。

人々は、この日のために建てられた会場である巨大なドームを遠巻きにして見つめていた。
人々の前では、千頭を超えるであろう大型犬が列をなし、威嚇している。
犬の列は何重にもなってドームをぐるりと取り囲んでいた。

ドームは犬に占領されていた。

下手にどかそうとすればドームの中にいる宇宙人が不審がり、事態がややこしくなりかねなかった。

気の遠くなるような時間の後、ドームから宇宙船が飛び立ち、青い空に吸い込まれていった。
と同時に、犬たちの間に張り詰めていた緊張が解け、
彼らはそれまで作っていた列を崩し、思い思いの方向に散っていった。

すぐに武装した警官がドームになだれ込み、まもなくドームに置いてあった記録機械から情報を手に入れた。
それは今朝、宇宙人から送られてきた翻訳機械につながれており、
すぐに衛星放送で流せるようあらゆる言語に訳す機能もあった。

話し合いの相手が現れず、しびれを切らす宇宙人の様子が記録されているだろう、という人々の予想を裏切り、
そこには犬と宇宙人の『会話』が残されていた。

それによると犬は、翻訳機械を通じて「自分が地球の支配者で、人類は自分たちの奴隷である」と言ったらしい。
他にも犬たちは、現実に反することを並べ立てていた。
それに対し、宇宙人は少しも疑っていない様子だった。

これを知り、人々はプライドを傷つけられたが、もう宇宙人は飛び去ってしまったあと。
ドームの辺りでまだうろうろしていた犬たちを、腹立ち紛れに放り出すことしかできなかった。

しかし、人類は知らなかった。

実は地球人との会見の前日、宇宙人たちは地球の様子を見に地上に降りてきていたのだ。
世界各地で人知れず、宇宙人の一行は地球の生物を観察していた。
その中でも彼らを驚愕させたのは、とある二足歩行生物…人類だった。

いかに愚かで残酷かということもあったが、一行はそれよりも、初めて見る人類の姿にショックを受けていた。
宇宙人は、人類を「奇怪で、とんでもなく醜い」と思ったのだ。
はるかな遠くから呼びかけてきた知的生物が、こんな醜悪な姿をしているはずがないとまで考えていた。
美的センスとはわからないものである。

宇宙人の訪問を察知し、その嫌悪の『感情』を感じとったのが、世界各地の犬たちであった。
犬たちの中には明日、その宇宙人と人類の会見が行われることを知っているものもいた。

地球の支配者が人類である、と宇宙人に印象づけられてしまえば、何が起こるか分かったものではない。
初めのうちは仲良くしていても、いずれ人類の見た目に嫌気がさす日が来るだろう。
見た目というものが行動をどれだけ左右させるかは、犬たちにもよく分かっていた。

そして、彼らはあのようなことをしたのだ。
友を守るために。

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