気まぐれ流れ星オリジナル小説

汚れ役

夜、街の裏通りを1人の男が歩いていた。
身なりはお世辞にも良いとは言えない。

時々鼻をすすりながら歩いていた彼はふと、小さな宝石店の前で立ち止まった。
彼はその窓ガラスを覗き込んだ。

しかし、彼にはそれを買ってやるような女もいないし、そもそもそんな金は持っていない。
彼に宝石を買う気はなかった。

『これを盗めば…』

彼の心にそんな考えが浮かぶ。

『売って金にできるぞ…。
……いやいや、そんなことは考えるな』

しかし、そこで彼は未練がましく左右を見る。
夜中の、しかも寂れた通りなので、人はほとんどいなかった。

『しかし、うまくするとやりおおせるかもしれないな。
さて、どうやって忍び込むか…』

と、彼が窓ガラスに目を戻すと、
そこには、恐ろしい形相をした顔があった。

男をその両の目で睨みつけている。
角を生やしたその顔は、紛れもない悪魔のものであった。

男は肝をつぶし、その場にへたり込んでしまった。
驚きすぎて声も出ず、ただ顎がガクガクと震えるばかり。

そんな彼を、窓の向こうの悪魔はなおも睨んでいる。

『お前も地獄へ行きたいのか?』

そう言っているようにも見える。

男はへたり込んだ姿勢のまま後ずさりし、やがて弾かれたように立ち上がると一目散に逃げていった。

彼が去ったのを見届け、悪魔は消えた。

「いやぁ、助かるよ」

天使は悪魔に声を掛けた。

「なに、お安いご用さ」

悪魔は笑って答えた。
そんな悪魔に、天使は申し訳なさそうにこう言った。

「最近は信心の浅い人間が増えて、私が出て行ってもあまり効き目がなくてね…。
何度も同じことを繰り返す。全く困ったものだよ」

悪魔は軽く肩をすくめる。

「苦労するのはお互い様さ。
こっちでも罪人があふれすぎて困ってる。少しでも新入りを減らせってお達しが来てるんだ。世も末だよな」

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