ノストラダムス
1999年7月。
世界中どこへ行っても、ノストラダムスの予言のことが話題にのぼっている。
テレビで、ラジオで、雑誌で、そのことが取り上げられ、様々な人が自分の意見を戦わせていた。
「そんなに古い予言があたるはずがない」という人も確かにいたのだが、ほとんどの人は予言は当たると言っていた。
またその人達の中でも「空から来る大魔王」を巡ってさらに細かいグループにわかれ、対立していた。
7月に入り、その論争はますます激化していき、予言を悪用した詐欺までも現れ始めた。
そんなある日のことだった。
夜空に1つの光る点があらわれた。
はじめに気づいたのは誰だったのかはわからないが、外に出ていた人々はその点を見つめ、その場に立ち尽くした。
真夜中であるにもかかわらず、道という道に人があふれていく。
点はみるみるうちに大きく広がっていった。
人々はパニックに陥り、その物体からなんとかして逃れようとしはじめた。
押し、押され、倒され、突き飛ばし、つかみかかり…。
しかし、もう手遅れだった。
白銀に光るその物体は街を真昼のように白く浮かび上がらせ、全天を占め、そして…
「聞いてくれよ…」
「なんだよ?」
「オレ、また事故っちまったんだ」
「なんだい、またか?お前は一体いくつ事故を起こしゃあ気が済むんだ」
「それだけじゃねぇんだ。オレは…あの船も失っちまったんだ」
「なに、この前やっと買ったやつか?銀色の?」
「そう…それだよ…」
モニターの向こうの人物はそうため息混じりに言った。
「何があったんだ?」
「それがな、オレがこう銀河のはずれを突っ走ってたら、船のエンジンが急にいかれやがって暴走しはじめたんだよ…」
「お前…ニセモノつかまされたんじゃないのか?」
「あぁ、そうかもしれねぇ。
それでオレは慌てて脱出したんだ。
そしてオレの船はその先にあった惑星の集団に入っていって、そこの星のいくつかを粉々にしたあげくに、
恒星に突っこんで爆発しちまったんだよ…」
「下手したら死んでたな」
「だけど…船がなきゃオレはどうしたらいいんだよ…」
「船なんて、また稼げばいつでも買えるさ。
それまで俺の船を貸してやるよ。だが、事故だけは起こすなよ」
「あぁ…。すまねぇな」
「じゃあ、もう遅いから、俺は寝るぞ。船は明日渡すからな」
そういって彼はモニターのスイッチを切った。