気まぐれ流れ星オリジナル小説

ある平凡な一日

小鳥が鳴いている。いたってのどかに。
その底抜けに楽しそうな歌声は、こう僕に言っているようだ。

「そこの君、なんでそんなに浮かない顔をしているんだい?
せっかくの良い天気なんだし、外に出てみないか?」

僕はその呼びかけを無視した。
たしかに僕が浮かない顔をしているのは退屈だからだが、
かといって、もう外に出てはしゃぐような年でもない。

*

壇上では、1人の科学者が話している。

「この計画は将来、第2の地球となる星を探すための画期的な計画です」

聴衆がひしめくホールはしんと静まりかえり、科学者の声だけが響いていた。

*

暇だ。

僕は何気なくベッドから起き上がった。
小鳥は相変わらず歌っている。

僕は1階に降りてみた。時計は9時を指していた。
案の定、父さんも母さんも仕事で家にはいなかった。

暇だ。

何かすることはないだろうか。
僕は居間を見渡した。
居間の奥の方にキーボードがあった。でも、僕は弾けない。

小さいころ、母さんは僕をピアノ教室に連れて行った。
が、数分も経たないうちに僕は教室から走り出てきたそうだ。
やはり人には向き不向きがあるのだ。

キーボードには楽譜が置いてあった。
『ソナタ 月光』。そう書いてある。
作曲者は…これは何と読むのだろう? ベートーベン…だろうか?
そういえばそんな人がいたように思う。

*

「目的の星まで行くのには、亜光速ロケットで行くという方法もあります。
しかし、それはその目的地の座標が正確に分かっていればの話。
現在、太陽系外惑星を見つけることはできるようになりましたが、
その惑星に人類が住めるかどうかを正確に判断するのはまだ難しいでしょう。
候補を絞ったとしても、その1つ1つに当てずっぽうで高価なロケットや優秀な人員を送り込むことはできません」

科学者はそこで一呼吸置き、ホールを見渡した。

「私達が提案するもう1つの方法は、長期的な宇宙探査です」

*

僕はその楽譜をひらいてみた。
そこには訳の分からない記号が列をなしてひしめいていた。
何だ、これは。どこまでも線や黒丸が続いているだけにしか見えない。

この楽譜はきっと妹のだ。
そういえば…いつもなら休日のこの時間には、妹がキーボードを弾きまくっているはずだ。
きっとまだ寝ているのに違いない。
まぁ、無理に起こすこともないか。寝起きの妹はかなり機嫌が悪いし…。

次に僕は、テレビの存在を思い出した。
つけてみたが、休日のこの時間帯だ。特に面白いものはやっていなかった。

*

「それに使われる宇宙船は巨大なため、おそらく宇宙空間で建設されるでしょう。
その宇宙船は機体を回転させることで重力をつくりだし、エネルギーは全て近隣の恒星の光などでまかないます。
中には完全な地球の生態系が再現され、四季も天候も全てコントロールすることができます。
外壁にはアルミ、鉄鋼、チタンなどを使用し、さらに宇宙船などから船内を守るため、シールドをはります」

*

僕は台所で簡単な朝食を済ませ、しばらく1階でぶらぶらしていたが、本当に何もすることが見つからなかった。
なので上に行って寝ることにした。
僕にとって二度寝とはとても暇なときの最終手段だ。

*

「船内は居住区域、農業区域に分かれ、居住区域にはおよそ1万人もの人が住むことができます。
工業生産は別のドッキングモジュールで行われ、生活に必要な物資を作り出します。
つまり、地球上とほぼ同じ生活を送りつつ、宇宙を旅できるのです」

科学者は再びホールをゆっくりと見渡しながら、こう締めくくった。

「私はいつの日か、人類がこの"スペースコロニー"で、地球という名のゆりかごから旅立つことを願っています」

*

正午。
目覚まし代わりのラジオからニュースが流れてきた。

「――私達の乗る『セカンド・アース・コロニー』は、あと2年ほどでおおぐま座47番星系に到着します」

うるさいなと思ったが、ラジオを止めに布団から出るのも何だか面倒くさいような気がし、そのままにしておいた。
布団を被ってしまえば、寝られないこともないだろう。

「おおぐま座47番星系は私達の故郷、太陽系と似ており…」

ラジオの向こうでは誰だか分からない人が熱心に話していた。

*

広い宇宙空間。
暗く、どこまでも静かだ。

その沈黙の中を、紡錘形の宇宙船が進んでいく。50光年もの距離を旅してきた船だ。
まわりでは、宇宙船よりもはるかに大きな惑星が回っている。

ゆっくりと、しかし確実に船が向かう先には、青く輝く美しい星が待っていた。

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