気まぐれ流れ星オリジナル小説

十匹の子やぎ

ある静かな森の中、池の畔の小さな家に、母さんやぎと十匹の子やぎが住んでいました。
その森は空気も水もとてもきれいでしたが、あいにく街から遠いので、
母さんやぎは子やぎをおいて、毎日食べ物を買いに出かけなければなりませんでした。

「じゃあ留守番頼むわね」

「うん」

「気をつけてね」

「そうそう、母さんじゃない人には、決してドアを開けてはいけませんからね」

「分かってるよ」

「大丈夫!」

「心配しないで」

今日も母さんやぎは出かけていきました。

その様子を、お腹を空かせた1匹の狼が、樫の木の陰からじっと見ていました。

「しめしめ。今日はあの家を狙うとするか」

狼は、母さんやぎがいなくなったのを確かめて、家のドアに近づきます。
そしてノックをするとこう言いました。

「ただいま、母さんよ。開けてちょうだい」

すると、ドアの向こうで1匹の子やぎがこう答えました。

「母さんはそんながらがら声じゃないよ。お前は狼だろ?」

狼は舌打ちをすると一旦引き下がりました。

狼は森でハッカをたくさん摘んでは食べ、母さんやぎのような良い声が出るようにしました。
そして再び子やぎたちの家に来て、

「開けてちょうだい、帰ってきたわよ」

と言いました。
すると1匹の子やぎが、

「本当に母さんなら、手を見せてみろよ」

と言い返し、ドアをほんの少し開けました。

狼はこれ幸いとばかりにドアをこじ開けようとしましたが、
しっかりとチェーンがかけられて、腕一本しか通せません。
子やぎたちはその腕を一目見て言いました。

「ぼくらのお母さんはこんな茶色い手をしてないよ。お前は狼だな?」

子やぎたちはみんなで手を押し返し、ドアをばたんと閉めました。

狼はしばらく考えたあげく、パン屋に行って小麦粉を全身に振りかけて、
母さんやぎのような真っ白な体にしました。

そしてまた、子やぎたちの家に行くとドアをノックして言いました。

「ただいま、帰ってきたわよ」

「じゃあ手を見せて」

子やぎはそう答えて、またチェーンを掛けてドアを少し開けました。
狼は真っ白な手を差し入れます。

「白い手だ。母さんだよ。開けてあげよう」

1匹がそう言いましたが、兄さんやぎが止めました。

「待って、まだ開けちゃいけないよ」

兄さんやぎは奥の部屋から、朱肉と2枚の紙を持ってきました。
差し出されている手のひらに朱肉をつけ、白紙にぎゅっと押しつけます。
そしてそれを、もう1枚の紙とじっと見比べて、こう言いました。

「お前は母さんじゃないな。手形が母さんのと全く違うもの。開けてやるわけにはいかないよ!」

これにはさすがの狼もびっくりしてしまい、とぼとぼと森の奥へと引き下がりました。

「最近の子やぎはずいぶんと頭が良くなったもんだ。もう昔のようにはいかないな」

と、ため息混じりに呟いて。

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