気まぐれ流れ星二次小説

Open Door!

Track03『Ant and Giant』

~前回までのあらすじ~

"風の勇者"リンク(トゥーンリンク)は、マスターハンドからの招待を受け『スマッシュブラザーズ』に繋がる扉をくぐる。
しかし、そこに広がっていたのは灰色に塗りつぶされた無人の地。
そこで仲間になった少年リュカと共に、リンクは襲い来る謎の人形から身を守りつつ、マスターハンドの"城"を探して山脈へと向かう。

一方、人形達に捕まってしまったピーチを追っていたマリオルイージ
立ちはだかる、圧倒的な人形の軍勢。乱戦の末に2人ははぐれてしまう。


  Open Door! Track 3  『Ant and Giant』


Tuning

柔よく剛を制す

夜が明け、モノトーンの大地が徐々に闇の中から浮かび上がる。

灰色の岩がたたずむ中、1つだけ、鮮やかな色彩を伴った点があった。
人形に見つからないよう岩陰に立てられている、緑色のテント。

「こらぁー! 起きろリュカぁー!」

こぢんまりとしたテントの中では、リンクが毛布のかたまりを揺さぶり、どなっている。
毛布にくるまっているのはリュカ。頭までかぶり、「うぅ…ん」とうなっている。

「いつまで寝てんだよ! 置いてくぞ!」

そう言って、リンクはさっさとテントを片付け始める。
日が昇ってしまった今、いつまでも一所ひとところにとどまっているのは危険だった。
ただでさえリンク達の色彩豊かな姿は、この殺風景な大地の中で目立ってしまうのだ。

支柱をたたみ布をまとめると、あれだけ大きかったテントはリンクのリュックに魔法のようにすっぽりと収まった。

「ほら起きろって!」

続いてリュカの毛布 ―元はリンクの持ち物である― を力ずくで引っぺがしたリンクは、
現れたリュカの髪を見て怒っていたのも忘れ、ぷっと吹き出した。

「…はははっ! 何だよその髪型ー!」

元々くせのある髪をしていたが、寝癖によってリュカの金髪は更に無秩序になっていた。
あちこちツノのように跳ねて渦を巻き、かと思えば反対側が平らにつぶれ…まるで今しがた嵐の中を潜り抜けてきたかのように見える。

その笑い声にリュカはやっと目を覚まし、起き上がる。
寝ぼけ顔でリンクの笑っている様子をぽかんと見ていたが、やがてその理由に気が付いて照れくさそうに笑い、跳ね放題の髪をなでつけた。

辺りは依然として灰色に沈み、生命の欠片すら見あたらない。

朝もやなのか、白い霧が遠くの地平に佇んでいるためあまり遠くの景色は見えなかった。
しかし、見えたとしてそこに面白いものがあるとも思えない、そんな予感がするほど、世界は無愛想に沈黙していた。

それでも高低差のある地域にさしかかったことで、少しは自然な光景が現れ始めていた。
2人がテントを立てた付近に流れる沢も、その1つである。
その水はどこまでも透明で魚1匹棲んでいなかったが、昨日リンクが調べたところでは特に何の変哲もないただの水だった。

テントを片付けた2人は沢の近くに腰を下ろし、出発の前にまず朝食を取る。

「へぇ、リュカもこーゆーの食べてんだ…」

リュカに手渡されたこのみパンをしげしげと眺め、リンクは意外そうな声を出す。
向かいに座ったリュカが不思議そうな顔をした。

「いやぁ、おれ達別々のとこから来てるだろ?
格好もずいぶん違うし、食べてるものも変わってるのかなーって。
…うん、うまいなコレ!」

「リンクは僕がどんなもの食べてると思ってたの?」

リュカは、パンにかぶりつくリンクに尋ねた。
リンクが差し出した"チュチュゼリー"という原色のゼリーを、やはり少し心配そうにつつきながら。

「え?
うーん…上手く言えないけど、こう…なんかスゴイものかな?
茶色の木の板みたいなやつとか、ものすごく色とりどりなやつとか…あ! 笑うなよ、ひどいなー!
これでもマジメに考えてたんだぞ」

「ごめんごめん…あんまり面白くてさ」

笑いを堪えようとして、でも出来ていないリュカに、しかめっ面をしていたリンクだったが、

「でもさ、そういう顔してた方がいい。笑う門には福来たるって言うだろ?」

そう言って、自分もにっと笑って見せた。
それから、ふいに何かを思い出した様子で膝をぽんと叩く。

「そうだ! そういやさ、まだ聞いてなかったよな。
リュカってどこから来たんだ?」

「僕? えっと…タツマイリ村。ノーウェア島の」

リュカがそう答えると、リンクは目を輝かせて身を乗り出した。

「島ってことは、海とか近いのか?」

「うん。村から少し歩けば、海岸に出るよ」

「ほんとか!
おれも島から来たんだ。プロロ島ってとこでさ。
しかし奇遇だなぁ~、おなじシマグニ出身だなんて。
じゃあ、もしかして船とか乗ったことあるのか?」

「船?」

目を瞬き、そして黙って首を横に振る。
リュカにとって船とは、自分に関係のない、遠い世界のものだった。

「そっかぁ、じゃあここから帰れたら乗ってみなよ。
船は良いぞ! 風に乗ったらまるで滑るみたいに海の上を走ってくんだ。
波をかき分け風を切りさいて、はるかむこうの島まで一直線!」

まるでちょっと遊びに行くのにも船を使っているような慣れた調子で、リンクはそう言った。
リュカは思い切って、気になっていたことを聞く。

「リンクって…冒険家なの?」

「ああ、冒険家っていうとちょっと大げさかもしんないけど…まぁ、色々とあったんだよな。
怪物の島に行ったり、トライフォースを集めることになったりさ」

「うわぁ、すごいなぁ…!」

リュカは目を輝かせ、素直に賞賛する。
"トライフォース"が何なのかは分からなかったが、怪物の島に行ったことと言い、かなりの難行に違いなかった。

今にも、その困難を極めたであろう冒険について質問し始めそうなリュカを先に制し、リンクは慌てて腰を上げる。

「…ま、詳しいことはまたいつか話すよ。
おれ、水汲んでくるから!」

そして、足早に沢の上流に向かっていった。
同い年の相手に尊敬されるなんて、やはり何となく居心地が悪かったのだ。

リンクの成し遂げたことを認めて、マスターハンドは『スマッシュブラザーズ』へと招待してくれた。
手紙にはそういうように書いてあった。あれが届いた日から何度も読み返したから、間違いない。
ということは、リュカも何かを成し遂げたのだろう。値するような何かを。

だから、彼には「すごい」なんて言われたくない。
同じ高さに立って欲しかった。

2人が歩く道は次第に傾斜を増し、気づけば山道と言っていいところまで来ていた。

――なんだか殺風景な山だなぁ…

リュカは歩きながらそう思っていた。

適当に大岩を削って作ったかのような山脈が、行く手に無愛想にせり上がっている。 
上まで眺めてみても木は1本も無く、草は石の隙間からひょろひょろと顔を出すだけ。

山道があるということは、少なくともこの山を上り下りする何かがいる、ということである。
しかし、今のところあの人形達の他に、ここを行き来する者がいるとは思えない。

いずれにせよ何とも味気のない山だが、次の目的地を探すため登るしかなかった。

2人は何も言わず、ただ黙々と歩を進めていた。
リンクは剣を、リュカは木の棒を携えていたが、あの奇妙な人形がやってくる気配はない。

靴が石を踏みしめる乾いた音が、辺りの山肌にこだましていく。

先に沈黙をやぶったのはリンクだった。
さっさと剣をしまい、リュカの隣にやってくる。

「まいっちゃうよな、こんなに曇ってたら」

組んだ手に頭をもたせ、雲が低くたれ込める空を見上げて、そう切り出した。
リュカもつられて、視線を上にやる。

雲はその灰色の腹を下に、ゆるやかなでこぼこを作って空を覆い尽くしていた。
高さを比べるものが無くとも、雲の高さは不思議となんとなく感じられる。
今にも落ちてきそうだ。この山の頂上に登ったら、その腹に手が届くかもしれない。

憂鬱、そんな言葉を思わせる曇り空をしばらく眺めて、リンクは次にこう言う。

「やっぱ晴れてんのが一番だよ、空って。
そう思うだろ?」

急に意見を求められて、リュカは面食らったように目を瞬かせる。

「そ…そうだよね」

「だよな。
だって、空は青いのが一番だ。
見てると跳び上がりたくなるくらい、走り出したくなるくらい青くなきゃ。
雲ばっかこんなにあったって、面白くもなんともない。風に乗って、青い空に浮かんでるのが良い」

きっぱりと断定するリンク。
リュカはそんな彼の横顔を見ながら、心の底から不思議に思っていた。
この明るさはどこから来るんだろう、と。

いきなり灰色の世界に落とされて、奇妙な人形に襲われて、訳も分からないまま戦って。
今も、右も左も分からない。それなのに、のんきに空の話をするなんて。
さっき自分の隣に来たときの彼の様子も、暇を持てあまして、といった感じだった。

やっぱり勇者だから?
リンクは自分と違うから?

そんなリュカの視線には気づかず、リンクはこう続けている。

「だいたい木が一本も無いなんておかしいよな。
あんなにきれいな水があるのに、緑がちっともない。
魚も動物もいないし…あの変な人形みたいなやつらは生き物じゃなさそうだし」

ため息を一つつき、ぐーっと伸びをする。

「…あーあ!
ここが『スマッシュブラザーズ』だってんなら、おれは帰るぞ。
さっさと城を見つけて、マスターハンドってのに言ってやるんだ。
こんなぱっとしないとこに呼ぶんじゃないってさ。なっ?」

リンクが意気込んでそんなことを言ったので、リュカは思わず笑ってしまった。
たしかにここは、"ぱっとしない"ところだ。
早くも、帰りたいという気持ちもある。

でも、"帰る"ということは、おそらくはリンクと二度と会えなくなるということだ。
それはリンクも分かっているようだった。

たった1日。
ここに来てから一緒に過ごした時間はそれだけだ。
だがその短い間に、2人の間には何か、同じ危機を乗り越えようとする連帯感のようなものが生まれつつあった。

闇に閉ざされた森があった。

朝が来たというのに、その森は暗く沈んだまま。
なぜなら、木々が炭のように黒く立ち尽くし、密生しているからだ。

山火事があったわけではない。
その木々は、ちゃんと葉をつけている。不気味なほどに、黒い葉を。

そんな森の中を、とぼとぼと歩く男がいた。
くたびれた緑の帽子、砂埃にまみれた紺色のオーバーオール。
疲れ切った様子でほとんど足を引きずるようにして歩いている彼は、ルイージ。

亡霊と鉢合わせし無我夢中で逃げてきた彼は、気がつくとこの森の中にいた。
夜通し急いで兄のもとに戻ろうとしたが、焦って走るうちにかえって森の奥へ奥へと入り込み、すっかり迷ってしまった。

風すら吹かず、森は全く生気を失って立ちつくしている。

何度ついたか分からないため息をつき、ルイージは立ち止まった。
もはや自分が疲れているのか、そうでないのかすら分からなくなってしまった。
ぼんやりと森を見回す。

――……兄さん…どこにいるんだろう…

ふと、彼の視線が一箇所に向けられる。

枝葉にまぎれ、木に引っかかっているピンク色の何か。
辺りが黒一色に塗りつぶされている中、久々に見る鮮やかな色彩。

それを見るとも無しに見ていたルイージの目が、徐々に意志の光を帯びる。

やがてはっと息を吸い、目を瞬く。
疲労などどこかへ吹き飛び、今や彼は完全に目を覚ましていた。
急いでそれがいる木に駆け寄ると、一生懸命揺さぶり始める。

間もなく数枚の葉と共にピンク色の何かが落ち、地面で跳ねた。

「うぅん、いたいなぁ…」

ボールに丸っこい手足を持たせたようなそれは、もごもごと眠そうな声で言った。
そんな彼に、ルイージはひしと抱きつく。

「カービィーっ!」

「…あれ? ルイージ…?」

寝ぼけまなこのカービィは、事態が飲み込めていない様子で、不思議そうに呟いた。

「ふーん…そんなことがあったのかぁ…」

ルイージから、ここに至るまでの顛末を一通り聞かされ、カービィは目を丸くした。

「ぼく、こっちに来てからずっとねてたみたい。
そんなことがあったなんて知らなかったよ」

「君が無事で見つかって良かった…。
あの妙な連中が何を企んでいるか知らないけど、狙いは姫だけじゃなさそうだった。
僕や兄さんにも大勢かかってきてさ…。
あぁ…兄さん、無事かなぁ……」

ルイージがすっかり落ち込んでいる一方で、
カービィはここに来るまでの経緯を思い出そうとして、歩き回っていた。

「わあぁ…」

ルイージはカービィの声で我にかえった。

「……何かあった…?」

彼は急いでカービィのもとへ行く。
森の中に唐突に開けた土地。カービィはそこにいた。

目を丸くし、立ち尽くすカービィ。
ルイージは、そこから彼の見る空き地へと視線を移し、その光景にはっと息をのむ。

それはただの空き地ではなかった。

戦闘の跡。
黒い森の中でも、そこは一層暗く沈んでいた。
生い茂っていたはずの木々が荒っぽく切り倒され、草むらはあちこち焼けこげている。
ただ、空気に焦げ臭さが残っていないことからすると、ここで戦闘があったのは今日のことではないだろう。

「ここでも…」

ルイージは落ちていた黄色いブーメランを取り上げ、呟いた。
あの人形達の武器だ。
そんな彼に、カービィが急き込んで尋ねる。

「…ルイージ! ここに来るまでほかにだれかと会った?」

「えっ? いや…」

常ならぬカービィの真剣な様子に、やや気圧されつつルイージは首を振る。
その答えに、カービィは一層表情を緊張させ…いきなり駆けだした。

「あ、カービィ!」

待ってと言う間もなく、カービィは空き地の向こう、うっそうと茂る漆黒の中へと消えていってしまった。

暗い森に1人取り残され、差し伸べた手を力無く下ろすとルイージは寂しくため息をついた。

意味をなさないつぶやきを上げ、岩陰から人形達が襲いかかる。
しかし、緑服の人形はもはやリンクにとって強敵ではなかった。
束になってかかってきても、彼らの動きは単調で、しかも集団で協力することさえない。ただ闇雲にかかってくるだけなのだ。

囲まれても、剣で斬り飛ばし爆弾で牽制することでその包囲は呆気なく破れた。
あとは再び取り囲もうとする彼らを1体1体倒していくだけ。
戦いのさなかだったが、リンクの顔には余裕の色があった。

一方リュカはというと。
リンクがたった1人で人形達を翻弄し、光の粒に帰していくその騒ぎから距離を置き、立ちつくしていた。
自分も戦った方が良いと、分かってはいる。

でも、怖いのだ。虚ろな目をした人形達の中に飛び込むのが。

なぜリンクが平気で戦えるのか。リュカには、彼が勇敢だからとしか思えなかった。
それに、自分無しでもリンクは十分戦えている、かえって自分は足手まといになるという思いもあった。

立ちすくみ、迷っている内に辺りは静かになった。
終わったのだ。

余韻のようにして立ちのぼる光の中、リンクが厳しい顔をしてこちらを見ていた。

「なんで戦わないんだよ」

むすっとして、彼は言った。

「……ごめん」

「だから謝るなって。おれは"なんで"って聞いたんだ。なぁ、なんでだ?」

「………」

うつむき、黙ってしまったリュカの様子に、やがてリンクはため息をつく。

「…さっきからおれしか戦ってないじゃんか。お前もファイターなんだろ?」

そう言って、再び歩き始める。
置いて行かれそうな気がして、リュカも慌てて後を追った。

"お前もファイターなんだろ?"
そう言った彼の言葉が、重く響いていた。

あくまでリンクは、自分を同じ目線で見ている。仲間として見てくれている。
だが、それが重荷だった。
リンクに比べれば、リュカには"戦いの経験"というものがほとんど無いのだ。

詫びや言い訳を考えていたリュカだったが、山頂に着くまでにはリンクの機嫌も直っていた。

「よっしゃぁ着いたぞー!」

今リンクは、空に向かって拳を振り上げている。
リュカも後ろを振り返り、自分たちが登ってきた道を、高みをしみじみと見やっていた。

リンクは早速リュックから望遠鏡を取り出し、石に片足を乗せて、海賊さながらの格好で構える。
しばらく黙って辺りをくまなく調べていたが、「おっ!」と声を上げた。

「建物見っけた!」

「本当?」

「ほら、あの山の陰にあるやつ」

そう言ってリンクはリュカに望遠鏡を渡し、場所をずれる。
このまま山を下りた先、ふもとから少し離れたところにそれはあった。
城下町らしき建物群に囲まれてはいる。しかし城というには装飾が少なく、箱のような建物だが…

「あれがマスターハンドさんの『城』なのかなぁ…」

「まぁどうか分かんないけど、ともかく一番近いのはあそこだ。
建物には必ず人がいるだろ? マスターハンドについて何か分かると思うな」

「…でも、あの人形達の基地だったらどうするの?」

望遠鏡を返し、リュカは不安から思わずそう聞く。
聞いてしまってから、またリンクに臆病だと言われるのではないか、と気づいたが、
リンクは目的地が定まったことに上機嫌になっているようだった。

「その時はその時。むこうに着いたら様子を見て考えようぜ!」

彼は、明るい声できっぱりと言った。
望遠鏡をカシャッと音を立てて片付け、それを合図のようにしてこう続ける。

「じゃ、あの建物に向けて出発だ!」

山を下り始めて数十分後。
リュカは地面が揺れているのに気がついた。
下を見ると、小石が振動に揺さぶられて次々と斜面を転がり落ちていく。

「リンク…?」

ささやくように、名を呼ぶ。
応えて、リンクは小さく頷いた。

「あぁ。…何か来てるな」

立ち止まり、動物のようにとがった耳を澄ませている。
…と、リュカの腕を引き、飛び込むようにして近くの岩の陰に隠れた。

地響きはますます大きくなり、2人が隠れた岩も少しずつ揺れ始める。

間もなく、先まで2人が歩いていた道を、妙な形をした巨大な戦車が轟音と共に駆け上っていった。
白銀のボディに、異国の文字を思わせる紫のライン。装甲の隙間からは無骨な金属が覗いている。
そして驚いたことに、小山ほどもあるその戦車は車輪を持たず、地面から浮き上がって走っていた。
2人の目がその姿を捉えたのも一瞬のうち、戦車はそのまま山頂へと走り去るかに見えたが―

しかし、それは山頂近くで急カーブを描き、再びこちらに戻ってくる。

戦車は身構える2人の前で停まった。

「侵入者…発見ーッ!」

凄まじい排気音と共に戦車・・はそう言い、変形した。

「うわぁっ…!」

リュカは思わず小さく悲鳴を上げる。リンクもぎょっとして剣を構え直した。
それほどまでに、相手は巨大だった。

まず目につくのは、アンバランスなほど大きな前腕。
比べて脚は貧弱で、変形した戦車は片手をついて、鎧で防護された頭部や背部のミサイルポッドの重量を支えていた。

変形前よりも高さが増した人型機械は、2人を見おろしている。

「2人も捕まえられるなんてラッキーだ。エインシャント様も喜ぶぞ」

鋼の巨人は、きしむような不快な音を立てて笑った。

「ちょっと待てよ!
お前ら一体何なんだ!
お前もあのヘンテコな人形の仲間なんだろ? 何が目的なんだ!」

リンクは怯まず、人型戦車に向かって怒鳴る。

「だいたい侵入者って何だよ、おれ達はただ人を探してるだけだ!」

一言ずつに、人型戦車の拳が震え、固く握りしめられていく。
リュカは、リンクに注意を促そうとした。
だが、それより早く、人型戦車が吼える。

「だだ、黙れーッ!
ここの土を踏んだ以上、キサマらは侵入者なのだ! 大人しく捕まれッ!!」

怒りに任せ、とてつもない重量を持つ腕を振り回す。

「へへーんだ! 誰がお前みたいなデカブツに捕まるかって!」

そう言い、リンクはリュカを連れて背後へ、山道の脇に広がる岩場へと走り込む。

「デカブツではないガレオムだ! バ、バカにしおってーっ!」

少年の背丈をゆうに超える岩を乱暴に蹴散らし、ガレオムは猛然と2人を追いかけ始めた。

リンクの背を追いかけて走るうち、リュカはあることに気がついた。

「リンク…! …あれと戦うつもりなの…?」

明らかに、リンクの走る様子には逃走の気配が無いのだ。
果たしてリンクは頷く。

「あぁ!」

ちょっと振り返り、笑みさえ浮かべて。

「そっ…そんな……無茶だよ! 絶対敵わないよ…!
あいつでかいし、変形するし、強そうだし…」

必死でリンクに考え直すよう促すリュカだったが、リンクはそれを遮って言う。

「だけどどうするつもりだ?
逃げようったってアイツは変形して追いかけてくる。そうなりゃおれ達、あっという間に捕まっちまうぜ?」

リュカははっとしてリンクの後ろ姿を見つめた。
彼の言うとおりだった。

リンクは決して、無謀な挑戦をしようという訳では無かったのだ。

「でも…どうやって戦うの?」

「それをこうして今考えてんだ」

飄々として、リンクは言った。

「今…?!」

うわずった声で繰り返したリュカの背後で、爆音が上がり、彼は思わずびくっと肩をすくめる。
間もなく、頭をかばった腕にぱらぱらと小石が降ってきた。

ガレオムに追いつかれまいと、そしてリンクに置いて行かれまいと、リュカはがむしゃらに腕を振って走った。

「フハハハハハッ! 逃げても無駄だ!」

破鐘のような声でそう言い放ち、追いかけるガレオム。
少年達は逃げまどい、点在する岩の陰を縫って走り回る。
ガレオムは破壊を楽しむかのように、邪魔な岩をいとも簡単に拳で砕き、足で蹴散らしていった。

と突然、進行方向にあった岩がはじけ飛んだ。
リンクが通り過ぎざまに仕掛けておいた爆弾が爆発したのだ。

舞い上がる粉塵。
ガレオムは虫でも追い払うように、勢いよく腕をなぎ払う。
視界はすぐに晴れたが、あの2人の姿がない。

焦って辺りを見回すガレオム。
その顔面めがけ、すぐ横の岩陰から何かが飛ぶ。

 "ボン!"

派手な音を立て、爆弾が炸裂する。

「よっしゃあ!」

拳を振り上げるリンク。
しかし、煙の中から現れたガレオムの顔にさほどダメージが無いのに気がつき、腕をそろそろと下ろす。

ガレオムは首を動かさず、ぎらつく目だけをゆっくりとリンク達に向けた。

「…やっべ」

リンクとリュカが大急ぎで駆け出すのと同時に、2人がさっきまで隠れていた岩が一瞬で塵と化す。 「ゴォオオオッ!」

ガレオムの咆吼が山を揺るがした。

「リュカも何かやれよ!」

想像以上に相手の装甲が硬かったためか、リンクの顔から少し余裕が減っている。
真剣にあの"ガレオム"を倒す方法を考えている顔だった。

いきなり作戦の立案を振られ、リュカは慌てふためく。

「ええっ? そんな、む…」

「無理は、なし!」

ぴしゃりと言った。

「でもあいつ強すぎるよ…!」

「確かに力じゃ敵わねーけどさ、アイツにも弱点くらいは……」

苛立ちの色を浮かべ、前方を睨みつけるリンク。
だが間もなく、その瞳にきらっと光が灯った。

「……そうだ!
リュカ、何かバクハツ的な魔法、あったよな?」

「魔法…PSIのこと?
爆発するものって言うと……PKフリーズかな」

眉を寄せるリュカに、リンクはこう言った。

「それ、あいつに当ててくれ」

「えっ…!」

思わず絶句するリュカ。呼吸するのすら忘れていたかもしれない。
どうやって? どこに? …どうして?

また「無理」と言いそうになったリュカを遮り、リンクは真面目な顔になって言った。

「これが出来るのはお前しかいないんだ。リュカ、お前だけ・・・・なんだぞ」

それでも不安の色が消えないリュカに、リンクはにっと笑ってみせ、こう言った。

「大丈夫、ちゃんと作戦があるんだ。耳貸しな!」

「おい、ガレオム!」

ガレオムの前に、緑のとんがり帽子を被った少年が現れる。
声のした方向に疑わしげに目を向け、その姿を認めるとガレオムは鼻で笑うような音を立てた。

「なんだもう降参か!
オレ様の強さに恐れ入ったのか!」

「あーぁ、お前は確かに強い。でもよ…」

そこでリンクは間をおき、横の大岩にちらと目を向ける。

「いくら力持ちのお前でも、このでっかい岩を持ち上げるのはムリだよなぁ?」

「むっ? これのことか」

ガレオムは、リンクが示した岩を見る。
それは戦車状態のガレオムよりも一回り大きい、いかにも重そうな大岩だった。

ガレオムが躊躇っていると、リンクが挑発するような声音で言った。

「持ち上げられないのか?
なーんだ、大したことないな」

この言葉で、ガレオムの目に炎が燃え上がった。

「よーし見てろっ! こんな石ころなど…」

ガレオムは岩の下にごつい手を差し入れ、足を踏ん張った。
排気音が一層高まり、機械で出来た体が嫌な音を立てて軋み始める。

 "グググ、ググ…"

小山のような岩が、少しずつ持ち上がっていく。
体重を移動させ、排気煙を盛大に吹き上げて…ガレオムはついに大岩を担ぎ上げた。

「どうだ小僧…   ……なッ?!

次の瞬間。
ガレオムの視界が白く弾けた。

負荷がかかった右腕に最大出力のPKフリーズを受けたガレオムは、バランスを崩し、自らが持ち上げた岩の下敷きになった。

岩や金属がぶつかり合う鈍く低い音が、辺りにこだましていた。
もうもうと立ちこめていた土煙は時間と共に収まり、岩の下で動かなくなっているガレオムの姿があらわになる。
それを目の当たりにしても、リュカは自分たちが成し遂げたことがすぐには理解できず、目を瞬いていた。

「た…倒した……」

やがて、ほとんど呟くように、そして、

「…倒せたよ!」

思わず笑顔がこぼれる。
言葉にして初めて、やっと実感が湧いてきた。

一方リンクは足場にしていた岩からぽんと飛び降り、ガレオムの大きな頭部、光のない目を覗き込んで笑う。

「思った以上におバカだな、お前!」

ガレオムは気絶しているらしかった。
だが機械で出来た彼のことだ。またいつ目を覚ますとも分からない。

うつぶせに倒れ伏す巨人。その背中には、大岩がのしかかっている。
その重量に負け、ガレオムの身体のあちこちから青白い電光がほとばしっていた。

彼はぴくりとも動かなかった。
しかし、依然としてその身体は巨大だった。

「ねぇ、もう行こうよ。リンク…」

リュカは心配そうに声を掛けた。
そんな彼に、リンクはにっと笑って応える。

「わかったわかった! そんな恐がるなよ」

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最終更新:2014-01-17

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