Open Door!
Track08『Ruin』
~前回までのあらすじ~
灰色の世界に落ちたリンク(トゥーンリンク)は、自分が招待された団体"スマッシュブラザーズ"に何かが起きていることに気づき、
リュカと共にそれを突き止めようとする。
3年前に行方不明になった兄クラウスとリンクの無鉄砲さが重なり、及び腰になるリュカだったが、
自らの初心を思い出し、自分の意志で彼について行くことを決意する。
無事ピーチと再開を果たしたルイージは、すれ違ってしまったマリオを探し、山脈地帯のふもとに建っていた黒い塔に潜入する。
2人はその最上階で、フィギュアにされたマリオを見つけると共に、他の多くの仲間が捕らえられた絶望的な光景を目にする。
ひとまずマリオを助け出そうとした2人だったが、警報が作動し、逃げ場を失ってしまった。
途中までルイージ達と行動を共にしていたエンジェランドの天使、ピットは、目的としていた人形達の司令官を見つけ、彼らに追いすがる。
司令官デュオンにエンジェランドへの侵略の理由を問うが、しかし彼らは答えず、問答無用とばかりにピットに斬り掛かる。
危ういところまで追い詰められるピットだったが、突如現れた一筋の流れ星によって救い出されるのだった。
Open Door! Track 8 『Ruin』
Tuning
墓標
灰白色の砂漠。
砂の海は未明の薄明を照り返し、ビロードのように柔らかく光り輝いている。
その見渡す限りの平面を、たった2人きりで進む者があった。
プロロ島のリンクと、タツマイリ村のリュカ。
2人の少年はただ真っ直ぐに前を見つめ、ひたすらに歩き続けていた。
彼らの足並みに、迷いはない。
上空には、道しるべのようにして流れる光の川があった。
2人はその上流に向かって歩いているのであった。
彼らには考えがあった。
人形を形作る白い光。それを辿れば、何かしら彼らの拠点を見つけられるかもしれない。
そしてそこには、2人が求める答えもあるだろう。
なぜ自分たちは、人形達から狙われているのか。
なぜ、この寄る辺のない世界に連れて来られたのか。
そして、"スマッシュブラザーズ"に一体何が起こっているのか。
互いに助け合い、食糧をぎりぎりまで節約して歩き続けること2日、ようやく地平線に変化が現れた。
燃えさかる、白い炎。
初めに砂漠の向こうにそれが現れた時、リンク達の目にはそう映った。
炎の天辺からは粒子状の光が流れ
見比べるものがないことを差し引いても、その炎は大きく、地平に広く横たわっている。
思わず足を止め、口をぽかんと開けて見つめているリュカに、
リンクは手真似でついてくるように伝える。
不思議な眺めだったが、悠長に眺めている暇はない。
幸いここまでの道のりで人形に出くわすことはなかったものの、食糧も水も、どんなに切り詰めたところで今日一日分しか残っていなかった。
一刻も早く建物を見つけ、食糧を調達しなければならない。
リンクの目には、白い炎の向こうに建物のような影が見えていた。
敵の施設であろうとも、食糧くらいは置いてあるだろう。
「この距離か……。
リュカ、ちょっと急ぐけど大丈夫か?
昼になる前には着きたいからな」
リンクは後ろを歩くリュカを気遣うように振り返った。
朝早くに起きた2人は残り僅かな食料で朝食を済ませ、ずっと歩いてきた。
旅慣れた自分はともかく、そうでないリュカには厳しい旅だろう。
「うん。大丈夫」
リュカは真剣な表情で頷いた。
足にまとわりつく灰白色の砂は、まだ夜の露を含みひやりと冷たい。
その砂に足を取られないよう木の棒を杖代わりにしながら、リュカはリンクの後ろを早足でついて行く。
砂漠を進むにつれ、空の中で"天球"も相対的に昇っていき、気温が少しずつ上がってきていた。
"天球"。
天に浮かぶそれは、太陽でも月でも無い。この世界には太陽も月も存在しないのだ。
とてつもなく巨大な照明が、天の一点に静止し、時間と共に明暗を繰り返す。それがここの昼と夜を創り出している。
今はまだ早朝。天球の輝きは弱く、空も薄暗い。
だが、これから光量が増す日中になれば、ここまで天球に近づいた今、砂漠の気温はあっという間に上がるだろう。
事実これまでの2日間で、初めの凍てつくような寒さから比べ、あたりの温度はかなり上昇していた。
2人の額には、すでにうっすらと汗が浮かんでいる。
以前、山でリンクが汲んできた水が何本かあるとはいえ、炎天下の砂漠を進むのは自殺行為だ。
そのことを、リンクは冒険の経験から知っていたし、リュカにも想像のつくことだった。
◆
第1工場の深部。
むき出しの鋼鉄に囲まれた、暗く冷たい大部屋。
壁面に埋め込まれた無数のモニタが、複雑に入り組んだ工場の通路を映し出している。
時折巡回兵が横切る他、どこにも変化はない。
メインモニタに表示される稼働状況も、全て異常なしの緑字で示されていた。
四方のモニタから微かな光を受けて、大部屋の中央にはエインシャントの幻が浮かんでいる。
控えるデュオンに背を向け、呟くように唐突に、口を開いた。
『ふむ……エンジェランドの者がここへ……?』
「は。突然現れた星によって連れ去られてしまいましたが」「彼は再び、ここへ戻ってきます」「その時は必ず……」
デュオンは冷静な声の底に自信を込めて言うが、言葉半ばでふと口をつぐむ。
彼らの前に浮かぶエインシャントの映像が、身振りで彼らの言を遮ったのだ。
何事か考える者の目をして宙を眺めていたエインシャントだったが、やがてこう問うた。
『そやつは北の砂漠の方へ向かったと言ったな? 星に掴まって』
デュオンがゆっくりと頷くのを見て、エインシャントは続ける。
『……ならばお前達の出番は無かろうな。
すでに我が駒が反応し、北へと向かっている』
「駒とは……」「あの仮面の……?」
思わず面を上げ、ソードサイドの機械の目がエインシャントを見つめる。
背後のガンサイドも、はっとした様子で僅かに顔を上げた。
エインシャントは、そんな彼らに冷淡な眼差しを向ける。
『何を心配している? あれはすでに心なき人形。
あの戦いぶりならば、今ある我が軍を無駄に減らすことなくそやつを捕まえられるだろう。
助けたファイターもろとも、な』
デュオンは慎み深く視線を落としつつも、その言葉を複雑な心境で聞いていた。
彼らも、エインシャントとは別の形で彼の強さを知っていた。
彼らがプリム達の軍勢を指揮し、森で捕らえたファイターの1人が彼だったのだ。
反逆のおそれは無いと、分かってはいる。
そしてこれが、"予行演習"であることも。
しかし敵として現れた存在を利用することに、まだ彼らは疑念を捨てきれないのだった。
『それよりも、デュオンよ』
エインシャントの呼びかけに、デュオン・ソードサイドは再び顔を上げる。
『お前達は工場に向かってくるファイターに注意しておけ。
第5工場がついに、何者かによって爆破された』
「そこはガレオムが守っていた施設では?」「奴め、またしても深追いを……一体どう言い訳したのです」
一度ならず二度までも……。
デュオンは同胞の失敗に内心顔をしかめる。
そんなデュオンに、エインシャントは何の感情もない声でこう言い放った。
『あやつは破壊された』
その言葉に、デュオンの動きが固まる。
硬直した彼らの前に、もう一つの映像が浮かび上がった。
横たわる金属塊。ねじくれたパイプと寸断された装甲の向こうに、辛うじて胴体と頭が覗く。
エインシャントの拠点に運び込まれた、ガレオムの変わり果てた姿だと気がつくのに数秒かかる。
プリムたちが修繕にあたっているが、ここまで手ひどく破壊されたのでは、簡単に直せるものとは思えなかった。
デュオンは何も言えず、ただ唖然として同胞の幻を見つめていた。
釘付けになったように、微動だにせず。
――誰が。いや……なぜ、このようなことが?
いくら惨状をつぶさに眺めても、その理由が見つかることはなかった。
思わず嘆息をもらし、ついにデュオンはその目をつぶる。
その横に並んだエインシャントの瞳は、対照的にどこまでも冷静だった。
『あれほど怒りに流されるなと命じたというのに、愚かなやつよ。
"感情"などという下らぬものがあるばかりに……』
そう呟くように言って、彼はしばらく沈黙する。
やがて首を振り、こう続けた。
『……まぁよい。
駒の方が使えると分かったならば、研究所にある他のフィギュアもあと1、2体ほど、起動し配備しておけ』
デュオンは黙したまま深く半身を下げ、礼を返した。
静まりかえった部屋に、デュオンはしばらく立ち尽くしていた。
アイセンサを切り熟考していたが、やがて、何かを決意したように背筋を伸ばす。
そのまま彼らは、重々しい車輪の音と共に部屋を後にした。
◆
近づくにつれ、その建造物の詳しい様子が見えてきた。
白い炎と見えたものは、建物を囲む高い壁、そしてその縁から昇る光だった。
リンク達2人は、2人の記憶にあるどんな建築物よりも高い壁にも圧倒されたが、
所々壁が崩れ、無くなったところから覗く中の様子にも目を見張った。
壁の向こうには、石塔のようなものがいくつも建っていた。
それらは1つ1つがすらりと高く、信じられないほど密接して並び立っている。
まるで石で出来た森のようだ。
滅多に遠出したことのないリュカはもちろん、冒険家のリンクでさえ見たことのない風景だった。
外壁だけを見れば、恐ろしく背の高い砦に見えないこともない。
しかし、その中に匿われているのは城や拠点ではなく、木々のように密生した石塔群なのだ。
壁に近いところでは、その石塔からも白い光が昇っている。
ここから見ると、白い森が天まで届く炎を吹き上げ、燃えているようにも見えた。
人形達を倒すと現れる光。
その光のおおもとであるから、2人は工場のような施設を想像していた。
原料をそこで作り、空を介し別の工場に送って、あの人形を作っているのだろう、と。
しかし、2人の先にあるその巨大な構造物は、どう見ても工場とは思えなかった。
どちらかと言えば廃墟。建物の褪せた白さも手伝って、工場と言うよりは墓場と言った方が正しいように思える。
打ち棄てられた墓標の林立する、寂れた墓場。
歩いていく間にも天球はいよいよ輝きを増し、2人の肌を容赦なく熱し始める。
リンク達は汗をぬぐい、白い壁の隙間から、静かに崩壊していく廃墟の中へと走っていった。
数分後。2人は壁に背を預け、座っていた。
壁のこちら側では日光も遮られ、心地よい薄暗がりの中、ひやりとした空気が漂っている。
砂漠の強い日光で疲れた目を凝らし、2人は目の前の廃墟を見上げていた。
「変な塔だよなぁ……。
穴だらけだぜ? しかも妙に四角いし」
「うん……。僕、何だか落ち着かないよ」
周囲の建物を見回しつつ、2人は水を飲む。
「でもこの地面……見覚えあるな。
確か……そうだ、アスファルトっていうものでできてる」
リュカは、廃墟の一面を覆っている硬い地面を見て言った。
ごつごつとした濃灰色の固体。
それは、タツマイリ村の草を刈り、木を倒してどんどん伸びていく"道路"の材質と似ていた。
「アス……何だって?」
「アスファルト。
……タツマイリ村もそのうち、こうなっちゃうのかなぁ」
乱立する無機質な石の塔を眺め、リュカは寂しそうな顔をした。
2人の前に佇む廃墟は乾ききり、砂に白く汚れた姿をさらしていた。
高いところを、風だけがさまよっている。
隣で、事情がのみこめず目をぱちくりさせているリンク。
彼をよそに、リュカは次第に内に閉じこもった目になり、小さく呟いた。
「……みんな、おかしいよ。
どんどん今あるものを捨ててさ……」
故郷のことを思い浮かべ、リュカの表情がふと陰る。
いつものリュカであれば、しばらくふさぎ込んでしまうところだった。
しかし、あの夜の月光が彼の何かを変えたらしい。
リンクが何と声を掛けたものかと迷っているうちに、リュカはいつもの調子に戻り、リンクに笑いかけた。
「ごめん、こんなこと言ってもしょうがないよね。
……さ、食料を探しに行こう」
見上げれば首が痛くなりそうなほど高い石塔の群れ。
妙な形をした街灯。硬い地面。それらが傾いた日光に切り取られ、幾何学的な模様を作っている。
奇妙な光景ではあったが、2人が先日踏み入った"まがい物の町"よりは、まだわずかながら人間らしさがある。
だが、やはり人の気配は無い。
建物や道路の傷み具合、砂の積もり具合と言い、
ここに住んでいた人がはるか昔にここを捨て、どこかへ行ってしまったような印象があった。
2人は熱気を避け、石塔の間の日陰となっている側を進んでいた。
こつん、こつんと、2人の足音が辺りに反響し、どこまでも響いていく。
リンク達は、ひとまず食料を探していた。
新鮮な食べ物と水にはありつけないだろうが、昔ここに人がいたのならば、保存食くらいは残っているかもしれない。
あとはそれがどこに保管されているかだ。
行く先々に、色褪せた看板が現れる。
昔は何か書いてあったようだが、今となっては砂塵にこすられて文字かどうかすら判然としない模様が残るばかり。
石塔の壁から突き出ていたり、壁面に張り付いたりしている看板を1つ1つ熱心に眺めていたリンクだったが、
やがて、しっかりとした足どりで、ある石塔に向かい始めた。
その石塔は、1階部分が半透明の壁で出来ていた。
元々は水晶のように透き通っていたのだろう。
しかしこれも長い年月砂に削られ続けたために、壁は白っぽく煤けてしまっている。
室内に照明も灯っていないため、壁に顔を近づけなければ中を見通すことができない。
2人がそうして覗き込むと、すすの向こう側、薄暗い室内に棚が並んでいるのが見えてきた。
棚には様々な袋や箱が載っている。
いくつかの袋は何で出来ているのか中が見えるようになっており、食品らしきものが見えた。
「……きっと店だぜ!」
リンクが秘密めかし、小声で言う。
「なんでここに店があるって分かったの?」
素直な尊敬の眼差しを向けるリュカ。
「勘!」
と、リンクは得意げに短く答えた。
建物の前を歩き回り、2人は入り口を探していた。
数分後、壁を壊して入り口を作るか、このまま扉を探すかを半ば真剣に天秤にかけ始めた頃。
2人は、ようやく壁の一部が扉になっていることを突き止めた。
手始めに押したり、引いたりしてみる。
扉は小刻みに揺れるが、しかし開く気配はない。
「カギでもかかってんのか? ……んっ? もしかして」
扉の周りを探索していたリンクの頭に、次の手がひらめく。
扉のわずかな突起に手を掛け、横方向に力を入れる。
すると扉は、渋りながらもゆっくりと開いた。
「よっしゃ! 見たかリュカ!」
2人は嬉々として手を高く打ち合わせる。
「すごいよリンク!
それにしても、変わった仕掛けだね」
「あぁ。横に開く扉なんて聞いたこともないぜ。……ところで」
壁に背中をあずけ、リンクは腿をぽんぽんと叩いた。
「ちょっとおれ、ここで休むよ。
ずっとアスファルトの上を歩いてきたから足が痛くてさ」
建物の中は、冷たく乾燥した空気と、埃っぽいにおいに満ちていた。
そして残念なことに、袋の中の食べ物は、どれもボロボロに砕けて変質してしまっていた。
廃墟がずっと乾燥したところにあったためか、かびてはいない。
体に害は無いだろうが、しかしここまで古くては食べる気が起きない。
「ちぇっ、ついてねーなぁ……」
砂のようになった中身を地面にあけ、空になった袋を投げ捨てるリンク。
「長いこと放っとかれてるけど、食べ物はある……。
ということは……やっぱりここには昔、人がいたのかな?」
棚の隙間を回り、リュカが呟いた。
「んー、だろうけど、ここに住んでたわけじゃないと思うな。
きっとここは砦か何かだ。少なくとも村や町じゃぁない。
こんなの、人が暮らすとこじゃないぞ」
そう言い、1人で頷くリンクのもとに、リュカが戻ってきた。
両腕で3つほど、銀色の袋を抱えている。
「こんなのがあったけど、食べ物かな?」
袋には食品らしき絵が描かれていた。
「貸してみな」
リンクは袋を1つ受け取り、ひっくり返したり回したりして眺めた。
不思議な素材でできた袋だ。金属を薄く延ばしたようにも見えるが、金属よりもしなやかで軽い。
ほどなく、リンクは開け方を見つけた。
おもむろに袋の端に手を掛け、破る。
空気が吸い込まれる軽い音がして、袋が少し膨らんだ。
開け口に手を添え、袋を傾けると、中から丸く平べったいものが出てきた。
小麦色をした、質素な焼き菓子のようなもの。
リンクは用心深くにおいをかぎ、そして1つ口の中に放り込んだ。
穀物にも似た味が広がる。
食べたことのない味だったが、栄養はかなりあるようだ。
「……うん。食べれるな。クッキーみたいなもんだ。甘くないけど。
リュカ、これどこにあった?」
そう尋ねると、リュカは店の壁側を指差した。
そこに置かれた棚には銀色の袋の他、何かの機械、その他色々な小包が並べられていた。
頑丈そうな容器に入った水も、一番下の棚に置かれている。
「これ全部……きっと非常用の何かだったんだろうな」
腰に手を当てて立ち、リンクは真面目な顔をして言った。
ここにいた人たちは、相当文明が進んでいたのに違いない。
他の食品が朽ち、建物がぼろぼろになった後でも、新鮮さを保って食品を閉じこめる技術を持っていたのだから。
しばらくして、リュックを食糧でぱんぱんに膨らませたリンク達は建物を後にした。
店のカウンターらしきところに、リンクはルピーを、リュカは持ち合わせていたイルカの耳骨を置いて。
いくら人が居ないとはいえ、何のお代も払わず店を後にするのは2人の良心が許さなかったのだ。
荷物は増えたが、2人の顔は明るい。
「これならしばらく持つんじゃないか? 水の心配もとうぶんしなくていいし」
リンクの言葉に、リュカは笑顔で頷く。
リュカは、今までずっと食料のことが心配だったのだ。
食事をするたびに、リュックの重みが少しずつ軽くなっていく。
まるで自分の足を大地につなぎ止める重みが無くなっていくようで、心細さを感じないわけがなかった。
しかしリュカは何も言わなかった。言えなかった。
食糧の管理を請け負ったリンク。2人のリュックの中身を、毎晩彼は真剣に確かめていた。
彼の心からは焦りと不安が伝わってきて、でも……リュカは彼に掛けるべき言葉を見つけられなかった。
リンクは一人前の冒険家。それに引き換え、自分は何の経験もない。
そんな自分が何を言ったところでなぐさめにしかならないと思い、申し訳なささえ感じていた。
でも今のリンクからは、いつもの太陽のような明るさが感じられる。
リュカは尋ねた。
「次はどこに行く?
ここ、見たところ誰もいなさそうだよ」
「ああ。エインシャントもマスターハンドもこんなとこにいないだろうし、いてもきっと人形くらいだろうな。
他にしたって、手がかりはなんにも無さそうだし……」
その時、廃墟の中心部へと歩いていく2人の耳に、ふいに第3者の声が飛び込んできた。
背後、空を見上げた2人の目に映ったのは――
「……星?」
「まさかこんな昼間に……」
星はふらふらと揺れながら、こちらに迫ってきた。
黄色く光る五芒星。
あっけにとられる2人の頭上をそのまま低速で飛び越し、その先の広場へと向かっていく。
「おぉ~い! リンクぅ~! リュカぁ~~!」
星にしがみつき、こちらに手を振るひとが見えたかと思うと、
彼は傍らにいる人の手を引いて広場の茂みに飛び込んだ。
星はそのまま枯れた芝生に墜落し、キラキラという音と共に無数の星の欠片となって消えた。
目を丸くしてその光景を眺めていたリンク達だったが、はっと我に帰り、広場の方へと走っていった。
だが、そこには先ほどよりもさらに不思議な光景が待っていた。
かろうじて緑を保つ植え込みから、翼を持つ少年が顔を覗かせている。
年はリンク達より上だろう。
見慣れない、真っ白で優雅な服。走ってくるリンク達を、純粋な青色の瞳で見つめている。
そんな彼の下には、ピンク色の丸いクッションがあった。よく見るとそのクッションには手足がある。
と、有翼の少年が地面に降りた途端、
クッションは"ぽひゅっ"という音と共に縮んで、カービィの姿になった。
……いや、カービィが体を膨らませてクッション代わりになっていたのだった。
「あ~、おなかすいたぁ!」
開口一番、カービィは明るい声でそう言った。
思わぬひととの、数日ぶりの再会。
カービィには2人とも色々と聞きたいことがあったのだが、
今彼は無我夢中でリンク達のあげた食べ物を食べており、とても話のできる状態ではなかった。
仕方なく、リンクは隣に座る有翼の少年に声を掛けてみた。
「なぁ、あんたもファイターか?」
所々乾いた泥をつけ、くたびれた格好の少年は、声を掛けられて驚いたようにリンクを見つめ返した。
「……?」
「えっ、なんだよ……?」
たじろぐリンク。
その横でリュカが、少年の様子をじっと観察し、言った。
「もしかしたら、彼……僕らの言葉が分からないんじゃないかな」
「うん! ピットくん、ことばがつうじないんだよ。
名前だけはなんとか分かったんだけどね!」
リンク達の背後でくぐもった声がした。
「え、そうなのか……って、
おい! カービィ! おれのリュック漁るなよ!」
見ると、カービィがリンクのリュックに体を半分以上つっこみ、じたばたしていた。
リンクは慌ててカービィの丸い足をむんずと掴み、引っ張り出そうとする。
「え~ん、やめてぇ~!」
「やめてーじゃねぇ!
おれ達が飢え死にしても良いのかよ!
あれだけ食べてまだ足りないってのか?!」
「うん、たりない!」
「はぁ?!
お前の胃袋どーなってんだよ!」
大騒ぎしているカービィとリンクの隣で、リュカはピットとコミュニケーションをとろうとしていた。
「えっと……はじめまして、ピットさん。
僕は、リュカって言うんだ」
ピットは真剣な顔をしてリュカの言葉を聞く。
そして、繰り返した。
「……リュカ?」
「うん。
そして、こっちがリンク」
リュカは続けてリンクを指差す。
やけに静かになったと思っていたら、リンクはカービィの短く丸っこい腕を両腕ではさみ、羽交い締めにしていた。
「やだやだはなしてぇ~!」
もがくカービィ。
リュカがどうしたものかと迷っていると、隣でピットが動く。
真剣な顔をして立ち上がり、急いで2人のもとに行く。
手真似と共に、彼の世界の言葉で何事かを言い始めた。
リュカでなくとも、リンクをなだめようとしているのが分かる。
「だってこいつ、貴重な食料を食い尽くす気だったんだぜ?
……あぁもう、分かったよ」
ついにリンクは根負けする。
「もう
そう言ってカービィを放した。
「あーぁ。動いたらよけいおなかすいちゃったなぁ~……」
カービィはうらめしそうな顔で食糧の詰まったリュックを見るが、懲りたのか、それ以上の行動には出なかった。
そのリュックを背負い、リンクは立ち上がる。
「……しょーがない。
他の店を見つけに行くぞ」
むすっとした顔で、そう言った。
ひとまず店を探すまでの間、2人はカービィ、ピットと行動を共にすることにした。
店があると聞いてがぜん元気になったカービィが、へんてこな歌を歌いながら先頭を歩いている。
その後ろにリンク、リュカ、そしてピットが続く。
廃墟の外縁部で出会った4人は、そこから出発してひとまず中心部に向かっていた。
時折道路が地割れで寸断されていたり、石塔が崩れて道をふさいだりしていたが、回り道は探せばいくらでもあった。
ピットは人形達を警戒しているのか、時々後ろに気を配りつつ最後尾を歩いている。
そんな彼をちらっと見て、リンクは小声でリュカに言った。
「ピンク玉の次は天使か……。一体ここはどうなってんだろうな?」
リュカは笑いそうになるのを
リンクだって、リュカからすれば十分変わった格好をしているのだ。
そんなリュカの様子には気づかず、リンクは先頭のカービィに話しかける。
「そういや、カービィ。おれ達
カービィの歩みがはたと止まる。
振り返り、彼はリンクのもとに駆け寄ってきた。
「……えっ? 本当?! いつ? どこでっ?!」
先ほどの食事の時に劣らないくらい、必死な様子である。
「落ち着けよ。
それがさ……お前の言ってたメタナイトってやつだと思うけど、おれ達に剣を向けてきたんだ。
風のタクトを使って一旦逃げてきたから、今どの方角にいるのかは分からないけどな……」
「きみたちに……?」
カービィの目がいっそう大きく見開かれる。
「ああ。
……あいつって、そんなやつなのか?」
仲間を裏切るような……。
口には出さず、心の中でリンクは言う。
「……ちょっとしゅぎょう好きなとこはあるけど……。
でも、理由もなくかかってくるようなひとじゃないよ。
ほんとにそれ、メタナイトだったのかな……」
カービィはそう言って難しい顔をし、考え込み始めた。
「……リュカ!
ニン、ギョウ……ニンギョウ!」
ふいに、ピットが緊迫した声を上げる。
背後を見ると、通りの向こうに、久々に見る人形達の姿が現れつつあった。
すでにこちらに気づいたらしい。整然と隊列を組み、こちらに向かってくる。
人数は30体ほどだろうか。その中には、まだ見たこともない姿の敵もいた。
距離はあるが、しかし逃げ切れるほど状況は良くない。
「カービィ、お前つけられてたんじゃないか?」
リンクが言った。
ただし非難する風ではない。つけられてたなら仕方がない、といった様子だ。
そして周りを見渡す。
運悪く、4人は足場の悪い区域に差し掛かったところだった。
あちこちでひび割れ、不安定に傾いている地面。敵を迎え撃つには不向きな地形だ。
「ここじゃ戦いにくいな……向こうに行くぞ!」
その言葉で、4人は崩壊した石塔の合間を縫い、その向こうに開けた空間へと走っていった。
こだまする足音。呼応するように、背後でも敵が動き出した気配があった。
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最終更新:2014-03-23