気まぐれ流れ星二次小説

Open Door!

Track13『Open Mind』

~前回までのあらすじ~

『スマッシュブラザーズ』に選ばれ、それぞれの思いを抱いて、新天地に繋がる扉をくぐったファイター達。
しかし、彼らは目的地とは異なる灰色の世界に連れてこられ、1人、また1人と人形兵に討ち取られてしまう。

そんな中、プロロ島の風の勇者リンク(トゥーンリンク)と、タツマイリ村の少年リュカが出会う。
自分たちが数少ない生き残りであることも知らぬまま、彼らは少しずつ仲間を見つけ、この事件の真相を突き止めようとしていた。

エインシャントの手に落ち、何らかの方法で操られていたメタナイトも仲間に加えたリンク達は、
情報交換をし、互いの考えを語り合い、エインシャントの目的を突き止めることで一致する。
そして次なる目的地を、ピットを助けてここまで来る際にカービィが見たという大工場に定めるのだった。


  Open Door! Track 13  『Open Mind』


Tuning

心ひらいて

早朝、リンク達は荷物をまとめ、廃墟の街から出た。

灰色の砂漠が広がっていた方角とは違い、街を挟んで反対側、天球の浮かぶ方角には、
草に覆われたなだらかな丘陵地帯が広がっていた。

しかし、相変わらず草は淡い灰色で、まるで生命というものを感じられない。
風になびく様子も、草ではない異質な何かが真似事をしているようで空々しいのだ。

一方、一面灰色の世界の中で5人の色彩に富んだ姿は周囲から浮き、目立っていた。
かといって人目を避け丘のふもとを縫って歩くのも、かえって知らないうちに人形達に挟み撃ちにされる危険があったので、
5人は開き直って、工場へとにかく真っ直ぐに歩いていった。

朝もやに包まれた丘陵地帯の向こうから、大工場はゆっくりと、しかし着実に近づきつつあった。

敵の施設に近づいているのだから、歩哨の1人や2人とも出会いそうなものなのだが、
どこまで近づいていってもあたりは静かで、何の気配も感じられない。

敵の襲撃に備え、いつでも戦えるようにと気を張り巡らせていた5人は、かえってその静寂に不気味さを感じていた。

――
―――

不時着から8日が経った。

手持ちの非常食も尽きてしまった。
外には依然敵がうろついていたが、空腹と乾きに耐えかね、意を決して拠点としている部屋から出る。
何度か緑帽の見張りに見つかりそうになったが、物陰に隠れてなんとかやりすごした。

食料庫は予測していた通りの場所、地階にあった。
だが、奇妙なことに庫内は照明も切れ、埃がうずたかく積もっていた。
奴らはここを利用していないのだ。
かなり長い時間放っておかれたらしい。警備の兵さえも、この部屋には見あたらなかった。

食糧は真空保存されていて、腐敗・変質は起きていなかった。
いつのものか想像もつかないが、食べられるだけましだと思うしかない。
ともかく、これでまた数日は持ちそうだ。それまでにあれが完成すると良いが。

それにしても、奴らは一体なにで動いているんだ?

―――
――

天球の明るさから昼と判断した5人は、カービィのお願いもありひとまず一度休憩を取ることにした。

丘の陰に隠れ、ふもとではリンクとリュカが昼食の用意をし、カービィが期待に満ちた目でそれを見つめている。
頂上付近に身を伏せたピットはリンクに貸してもらった望遠鏡で大工場の様子を眺め、
少し離れたところでは、メタナイトが周囲の様子に気を配っていた。

昼食の用意が済み、リュカはピットを呼びに、丘を駆け上っていく。

彼の白い翼は、ぴたりとその背につけられていた。
向こうの衛兵に見つからないように用心しているのだ。

その背に声を掛けようとしたリュカは、
ピットの翼が獲物を見つけた鳥のそれのようにわずかに持ち上がり、羽の先までピンと力が入ったのに気がついた。

リュカが声を掛けるよりも先に、ピットが緊張した面持ちで振り返り、丘の下にいるこちらの姿を認めた。
彼は丘を駆け下り、リュカの手を引いて彼の言葉で何事か熱心に伝えようとし、
望遠鏡をリュカの手に押しつけて、丘の向こう、工場の方角を指差した。

何か見つけて、それをリュカにも見て欲しいようだ。
リュカはピットに手を引かれるまま丘の上に向かい、伏せて望遠鏡を覗き込んだ。

「"アンテナ"!」

ピットが小声で言い、指差したのは手前の小さなアンテナ― 大都市の廃墟に向けられている ―ではなく、
宙に開いた大きな穴から光を吸い込んでいる、奥の大きなアンテナ。

ずんぐりとした平らな傘のキノコを捻って形作ったような建築物で、くすんだ白色をしているが、
特にこれと言って妙なところはない。

一体何を見て欲しいのか、はかりかねてリュカはピットの目を覗き込む。
無意識に彼の心を探っていたリュカは、彼がアンテナではなく、その先を気にしているのに気がついた。

急いで望遠鏡に目を戻し、アンテナの先、宙に浮いた穴に視点を合わせる。
やがて光の流れの向こう、見えてきた光景にリュカは目を見はった。

「……!」

光の粒が流れ出す穴。空に開いた、縁のない窓。
その奥には、雲と光あふれる別の世界があった。

初めは宙に円形の巨大な絵が掛かっているように見えたが、よく見ると雲が風にゆっくりとなびいていくのが分かる。
柔らかな雲のいくつかはその上に、白く堂々と輝く古風な建物を載せていた。

あの世界は、きっとピットさんの故郷だ。
リュカはそう直観した。

「えっ……? アンテナの向こうの空に、ピットの来た世界とつながる穴が開いてるって?」

リンクは思わず大声を出し、はっと気づいて声を小さくして続けた。

「それ本当か?」

「うん、きっとそうだよ」

リュカは頷く。

リンクは、5人が後にした、光の粒となって絶えず溶けていく廃墟を思い出していた。
ピットがいた世界でも、同じ事が起こっているのだろうか。

「ピットさんはきっと、光の粒がこっちに吸い取られていくのを止めるために来たんだよ」

リュカも、真剣な顔をして言った。

そのとき、ピットがリュカの肩を叩いた。
膝をつき、彼は地面を示す。

むき出しの土に、ピットの描いた図があった。
ピットは、かつてルイージやピーチがそうやって、言葉が通じない自分に物事を説明してくれたのを思い出したのだ。

リンク達も集まり、5人は頭をつき合わせてその絵を覗き込んだ。

2つの大きな円があり、片方には雲の上に立つ女性が、
もう片方には前後に上半身を突き出した奇妙な生き物が描き入れられている。
特徴から言って、ピットが戦っていたという戦車の絵だろう。

女性が描かれた円を指し、ピットは「エンジェランド」と言った。彼の住む国の名前らしい。
次に双頭の戦車を指し、「デュオン」と言う。

リンク達4人が理解したことを確認し、
次にピットは、双頭がいる円の中にアンテナのようなものを描き入れ、2つの円を細い通路でつなげた。

ピットの手がエンジェランドの円周を払って消し、一回り小さい円を描いていき、それを繰り返した。
彼の世界、エンジェランドがどんどん小さくなっていく。

そこで、エンジェランドの円の中に、ピットは翼を持つ小さな人を描いた。
これは言われなくても彼自身のことだと分かる。

エンジェランドの円と、双頭がいる円をつなぐもう1つの通路が描き入れられ、
ピットを示す棒人間は、そこを通って双頭のいる世界 - この灰色の世界 - にやってきた。

最後にアンテナに向かって矢印を引っ張り、ピットはその手でアンテナの絵をぐしゃぐしゃっと消した。
そして、4人に真剣なまなざしを向ける。

「あれを……、あの大きなアンテナを壊したいんだ。
エンジェランドが……無くなる前に」

ピットの瞳が訴える心の声も、リュカの確信を裏付けていた。

「工場に侵入して、あのでっかいアンテナを壊す!
これにはみんな賛成だよな?」

リンクはそう言って仲間を見回した。

「うん!」「もちろん」

カービィとリュカが揃って頷いた。

「……異論はない」

メタナイトもそう言った。

エインシャントの勢力に属する建物に侵入し、施設を破壊することはすなわち、
エンジェランドの人々のためだけでなく、スマッシュブラザーズのためにもなる。

こちらを狙ってくる敵の勢力を削ぐことになり、
また運が良ければ、何かしらの情報を得ることも出来るかもしれないのだ。

「ところでリンク、ぼく、しつもんがあるんだ」

カービィが片手を上げ、こう続ける。

「工場にはどうやって入るつもりなの?」

「ん? そうだなぁ……あぁいうでっかい建物は、どっかに抜け穴でも作ってあるもんじゃないかと思うけど」

完全に、城に対する侵入方法の考え方でリンクが言った。

「でも、それを探している時間は無いよ。
早いところあの光を止めなくちゃ……!」

リュカが急かす。
図を描きながら説明していたピットの心は、エンジェランドの円にいた女性に対し強い敬愛を示していた。
誰かが家族ほど大切にしている人を失うのは、自分のことでなくても防ぎたかった。

あんな辛い思いをするのは、もう僕と父さんだけで十分だ。
彼はくちびるを噛み、心の中でそう言った。

だが、

「そりゃおれだってそうしたいさ。
でもなぁ、敵がどれだけいるか分からないとこに、真っ正面から突っこんじゃ勝ち目無いだろ?」

いつも無鉄砲に戦って、リュカをはらはらさせるリンクにそう言われてしまった。
しかし心を見なくとも、その顔にはリュカと同じ、思うようにいかないことへの悔しさがあった。
リュカは肩を落とし、リンクの言葉に頷こうとした。

その時。

「……1つ、試したいことがある」

2人に向かって、メタナイトが言った。

いくつか丘を越えて進んだところで、5人は探していたものを見つけた。

工場を見張る人形達。
すっかり見慣れた緑服の人形に囲まれて、小型の丸っこい戦車が3台、丘の向こうを横切っていく。
5人が今まで見たことのない敵だった。

「決して彼らに姿を見られないよう、この丘の陰に隠れて待て」

仮面の奥で瞳を一層鋭く光らせ、メタナイトは4人にそう言うと、音もなく風のように素早く丘を駆け下りる。
そして黄金の剣を携え、人形達の進路に立ちふさがった。

人形達の死角に隠れ、固唾をのんで見守るリンク達。

メタナイトの考えはこうだった。
自分の"洗脳"が解けて以来、エインシャントの手下には誰にも会っていない。
従って洗脳が解けたことは敵には知られていないだろう、というのだ。
彼らはまだメタナイトが仲間だと思いこみ、攻撃はしてこないだろう、と。

果たして人形達は。

明らかに剣を持ち、自分たちの前に立ち塞がるファイターを一瞥いちべつし……
そして、歩調すら変えず、まるで川の水が石を避けるような自然さで彼を避けてそのまま歩み去っていった。

しばらくして、丘の陰にて。

「なんだよ! おれ達に指くわえてここで待ってろって言うのか?!」

メタナイトの言ったことが信じられず、思わず大声を張り上げるリンク。
リュカ、カービィ、ピットも目を丸くし、対立する2人を交互に見ていた。

「彼らに見とがめられず、工場に入ることができるのは私だけだ。
早急にあのアンテナを破壊せねばならないのだろう?」

仮面の奥からリンクの目を真っ直ぐに見返し、メタナイトはこう続ける。

「仮にお前たちも行くとして、その侵入経路は考えてあるのか?
工場内の通路はまず使えないと思っていた方が良い。
あの規模の施設が抱える警備兵の数は、お前でも予想はつくはずだ。
……先程も言った通り、私が1人で行く。最善の策はこれ以外にはない」

「そんなこと……!」

反論しかけ、次の言葉が中々出ず、悔しそうに顔をしかめるリンク。
やがて、なじるようにこう続けた。

「……もし途中でバレちまったらどうするつもりだよ?
たった1人で、あの工場からどうやって出てくるつもりだ?」

対し、メタナイトはしばらく沈黙していた。

やがて、再びその目を開く。
リンクを真正面から見据えると、冷徹に言い放った。

「……言わせて貰えば、
お前たちが足手まといなのだ」

「はぁ……?!」

予想外の言葉に、リンクは絶句する。

リンクは、メタナイトのことを同じファイターとして、仲間だと思っていた。
しかし……彼にとってリンク達は、そんな存在ではなかったというのか。

彼が放った言葉が大きな亀裂を作り、彼と4人を決定的に引き離そうとした時、
それをつなぎ止めたのは、リュカだった。

静かな声で、こう言う。

「素直に言って下さい、メタナイトさん。
……僕らを危ない目に遭わせたくないからだ、って」

その言葉に、一瞬、時が止まる。

普段リュカは、人の心を見て知ったことをこんな風に言うことはしない。
それは失礼なことだし、厄介事を起こしてしまうのだと、小さい頃にすでに学んでいた。

それでも敢えて言ったのは、今はそれが必要だと判断したから。

本心を言い当てられ、メタナイトは驚いてリュカの方を向く。
なぜそれを。
彼の心はそう言っていた。

「……すいません。
あなたの心の声を聞いたんです」

リュカはすぐに謝り、そしてこう続ける。

「でも……そんな風に言うのは良くないです。
リンクやカービィは……ぼくだって、曲がりなりにもファイターです。
危ないのは十分分かってる。嫌だって言ってもついてく……一緒に戦いますよ。
……それに、ピットさんにはどう説明するんですか?
ピットさんはきっと、自分の手で解決するのでなきゃ納得しない」

半ば勢いに乗せて、リュカは語る。心を落ち着けたり、言葉を選んでいる余裕はなかった。
少しでも言葉に詰まれば、鋭い眼光に射すくめられて意気をそがれてしまいそうだったのだ。

それでも、伝えなければならなかった。
リンクの指摘したとおり、あんなに大規模な拠点にたった1人で潜入するなんて無謀だ。
いくらファイターに選ばれるほどの腕前があると言ったって、勝ち目があるとは思えない。

もちろん、それは彼自身も知っていた。知っていて、その上で行くつもりなのだ。
危険な目に遭うのは自分1人で十分だと、彼はそう考えていた。

本気でリュカ達のことを足手まといだと思っている訳がない。それは、多少の自信こそあれ、彼なりの気遣いだったのだ。

でも、それは間違っている。そんなことをされても、嬉しくない。やりきれない後悔が残るだけだ。
誰か1人が犠牲になるのではなく、もっと良い方法があるはず。
リュカはそう思っていた。いや、信じようとしていた。

こんなに本気で自分の気持ちを伝えるのは久しぶり――もしかすると、初めてなのかもしれない。
緊張で顔が熱くなっているのをかすかに意識しながら、リュカは何とかして方法を探そうとしていた。
彼を思いとどまらせるに足る、更に勝算の高い潜入方法を。

そして、閃く。

「方法はあります!
僕らは捕まったふりをしてメタナイトさんの後について歩いていけばいいんです」

勢いのまま、リュカはそう口にした。
それは、あまりにも急ごしらえな作戦。けれども、あながち的外れではなかったらしい。

リュカの言葉を、メタナイトは真剣に受け止めていた。
大人しく、控えめな少年。
そう評していたリュカの見せた思いがけない気丈さに、少なからず意外の念を覚えつつも、メタナイトは慎重に聞き返した。

「捕虜のふりをするというのか……?
しかし、そんな策が彼らに通用するだろうか……」

言葉の上ではそう言いつつも、彼はその策の勝率を計算し始めている。

「あの工場に入れさえすれば良いんです。
……どのみち正体が分かってしまうのなら、
その時に僕たちがいるのといないのとで、大きく違ってきませんか?」

そう。
1人では人形達にも倒されかけていたリュカは、リンクと協力してあの巨大な戦車、ガレオムを退けることができた。
それが、この5人なら。

そして、リュカは口を閉じた。
言うべき事は言った。後は気持ちが伝わることを願うだけ。
リュカは固唾をのんで、仮面を被った剣士の横顔を見つめた。

やがて、瞑目して考えていたメタナイトは、
こちらに背を向け、

「……ついて来るというのなら、好きにするが良い」

表面上はそっけなく、淡々と言った。

しかし、今度はリュカだけでなくリンク達もその真意を掴んでいた。

リュカはカービィ達と顔を見合わせる。
やがて、誰からともなく笑顔がこぼれた。

安堵の笑顔はやがて笑い声を生み、緊張を一気に解きほぐす。
リンクが、よくやったというようにリュカの肩を軽く叩いてくれた。

そして、工場に向けて足早に歩き出した仮面の剣士の後を追い、4人は我先にと丘を駆け下りていった。

工場への侵入方法は決まった。
だが、闇雲に突入するわけにはいかない。
どこから、どうやって侵入するか。作戦の細部に至るまで、慎重に練っていかなければならない。
一歩でも間違えれば、全員が捕まる。

5人はひとまず、一定の距離を守って大工場の周囲を視察し、建物の大まかな構造を頭に入れていった。

廃墟都市から見たとおり、まず中央には2台の巨大なアンテナが建つ。
それを四角く囲うように、大小の建物が城壁のように連なっている。
四隅の建物は他より高く、中でも東――天球のある方角に面したものはひときわすらりとそびえ立っていた。

「あれがきっと、こうじょうの一番かんじんなところだよ!」

カービィが言った。
肝心なところというのは、制御室がありそうな、という意味だろう。

「アンテナを壊さなくても、そこを制圧しちゃえばアンテナを止めることができるかもなぁ……」

リンクが希望を込めて呟く。
中心部のアンテナを狙うよりは、辺縁にあるあのタワーに侵入する方がたやすいように思えたのだ。

だが、冷静な指摘が入る。

「……あの建物に制御機構があると決まった訳ではない」

「わーかってるよ。言ってみただけだって」

リンクはしかめっ面を返した。

1時間ほどかけて大工場をじっくりと観察し、リンク達は元の丘に戻ってきた。
すでに時刻は夕方に差し掛かり、少しずつ夜の冷気が忍び寄りつつある中、5人は再び車座になった。
景気づけるように膝を叩き、リンクがこう切り出した。

「じゃ、作戦を立てるか!
……ま、そう言ってもだいたい、リュカの"ホリョ作戦"でアンテナを壊した後、どうやって逃げるかって話になるけどな」

「ちょっとまって!」

そこで、カービィが片手を上げた。

「ほりょのふりするのって、ぼくら全員?」

「ん? あぁ、そのつもりだけど」

リンクは軽く答える。
しかし、返ってきたカービィの返事は、彼の思いもよらないものだった。

「……ぼく、ちょっと考えてたんだけど、
きっといつかは人形さんたちに分かっちゃうんだよね? その時もし、アンテナのとこに着いてなかったら?」

「あっ……!
……そうか。一旦逃げたとしても、今度はもっと警備が厳重になるし、メタナイトのこともあいつらにバレちまう……」

また先ほどの偵察で、目指すアンテナは侵入口となる正門からかなり距離があることが分かっていた。
最短距離を進めたとしても、こちらが到達するより先に向こうの警備体制が整い、返り討ちに遭う確率が高いのだ。

しかし、それを指摘したカービィの顔には少しの焦りもなかった。
得意げににこっと笑い、こう続ける。

「でしょ?
だから、思いっきり人形さんたちをあわてさせれば良いと思うんだ!
そのあいだに別のほうから工場にしんにゅうすれば、そのひとたちはあんぜんにアンテナのとこに行けるはずだよ」

「別働隊を作る、というのか……」

メタナイトが要約した。

確かに、5人全員で一気に行けば発揮できる力も強力だ。
しかし同時に、そこに集中する警備の数も尋常ではなくなるだろう。

あの規模の工場ならば、相当な数の人形を抱えているのに違いない。
たった一度のチャンスを、足止めされて無駄にしてしまうわけにはいかないのだ。

だから、先に工場に侵入し人形達を引きつける別働隊、つまり撹乱部隊と、
警備が手薄になっているその間にアンテナを破壊する、真打ちの隊に分ける。

「人形を引きつける班は、ホリョ作戦で工場に侵入してった方が良いだろうな。
できるだけ長くやつらの注意を引きつけてほしいから……」

リンクはそう言ってメタナイトに同意を求める。
撹乱部隊に回ってくれるか、と。

「任せてくれ」

彼は頷いた。

「他には誰が行く?
つまりその、ホリョ役として」

リンクがそう言って皆を見回す。

「ピットさんはアンテナを壊す方に入れるから……」

と言いかけたリュカの横で、

「ぼくがいくー!」

カービィがとび跳ねて言った。

確かに、エインシャントの手下、デュオンに逃げるところを見られたのはカービィとピット。
メタナイトが連れて行くのに適当なのは、こちらに来ていることを知られていないはずのリンクやリュカではなく、カービィだろう。

「撹乱するにはある程度の経験が必要だからな……」

と言いつつも、渋々といった顔をするメタナイト。
リュカでさえその真意は測りかねた。
一体、この2人の間の温度差は何だというのだろう。

その後の話し合いは順調に進み、天球の光が陰り始める頃、ついに作戦の詳細が決定した。

決行は、休憩を挟んだ1時間後。暗くなるのを待ってから行動を始める。
撹乱部隊は正門から侵入し、可能であれば東の制御塔(?)に入り、情報収集をしつつアンテナ停止を試みる。
真打ち部隊は警備が手薄になった時を見計らって壁を破壊し、最短ルートでアンテナに向かい、破壊する。
最終的にアンテナのところで合流し、リンクの風のタクトによって脱出する。

ピットにも、絵や身振りを交えてアンテナを破壊することを伝えた。
中々苦労したが、5人が2つの班に分かれて行動することも理解してくれたようだ。

最後に、メタナイトはリンク達真打ち部隊にこう言った。

「人形が私達よりも先に来た場合は、逃げてくれ。
そして……私達が君達に襲いかかったときも」

それは、撹乱部隊が捕まり、洗脳を受けた場合のことを言っていた。
リンクとリュカは、真剣な顔をして頷く。

真打ち部隊に風のタクトを持つリンクを配し、リュカもそこに所属させたのは、
万が一の時に、エインシャントに対抗できるファイターを1人でも多く残すためでもあるのだ。

「捕まんなよ」

リンクは気丈に笑い、そう言った。

その横で、ピットは一心に平原の彼方を見つめていた。

彼の見る先にあるのは、大工場。
エインシャントの人形達が待ちかまえる巣窟が、現実感のない広さを持って広がっている。

そして、その真ん中に立つのは褪せた白色のオブジェ。
巨大なパラボラアンテナが、こうしている間にもピットの故郷"エンジェランド"を少しずつ削り取っていた。

天に開く、巨大な窓。
雲に見え隠れするその向こうには、光に包まれた懐かしい景色が垣間見える。
天空界は出立した時のまま変わらないように見えて、しかし着実に崩壊を始めていた。

ピットは、灰色の雲間から見える故郷に目を凝らす。

抜けるような青空は今や力無く霞み、天空界の大地を形作る雲海も頼りなくちぎれ、空の合間に漂うばかり。
古式ゆかしい神殿や家屋はどれも皆少しずつ傾き、白さを誇っていた石像達もくすみ始めている。

傷つけられた故郷を見つめ、決して目をそらさず、
彼は、ただ静かに神弓の柄を握りしめた。

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最終更新:2014-06-14

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