気まぐれ流れ星二次小説

Open Door!

Track16『Get up, Stand up』

~前回までのあらすじ~

『スマッシュブラザーズ』に選ばれ、それぞれの思いを抱いて輝く扉をくぐったファイター達。
しかし、彼らは目的地とは異なる灰色の世界に連れてこられ、得体の知れない人形の軍勢によって1人、また1人と捕らえられていく。
そんな中、プロロ島の風の勇者リンク(トゥーンリンク)と、タツマイリ村の少年リュカが出会う。
自分たちが数少ない生き残りであることも知らぬまま、彼らは少しずつ仲間を見つけ、この事件の真相を突き止めようとしていた。

カービィメタナイトそしてピットを仲間に加えたリンク達は、潜入した大工場(第一工場)で目的を達成できないまま包囲され、
5対多という、圧倒的に不利な状況で戦うことに。
諦めず戦い、突破口を探すリンク達だったが、デュオンの張り巡らせた緻密な策略に陥り、リンクは動かぬ銅像と化してしまった。
それを目の当たりにしたリュカ。衝撃を受ける彼は、その感情のうねりに彼自身も知らぬ莫大なPSIを発動させ、
人形を殲滅、そればかりでなく大工場とアンテナまでもを破壊し尽くすのだった。

だが、彼らの受けた損害もまた大きかった。
全てが終わったとき、その足で立っていられたのはリュカとメタナイトのみ。
カービィはリンクと同様銅像化し、彼を守っていたピットも力尽きてしまう。

そんな彼らの前に、一隻の船が現れる。


  Open Door! Track 16  『Get up, Stand up』


Tuning

マイナスからの出発

橙色の、どこか甲虫を思わせる円盤。

地平の彼方からやってきたその小型の乗り物は着陸脚を出し、静かに地面に降り立った。
すぐに底部にあるハッチが開き、船内から2人の人物が降りてくる。

先頭を走ってくるのは、ひげを生やし緑の帽子を被った若い男。
もう1人は、日傘を差し桃色のドレスを着た高貴な女性。

彼らの姿には、既視感があった。
あれは確か、カービィが友達だと言っていた、"キノコ王国"の2人では……?

メタナイトは剣の切っ先を2人から逸らして下げ、しかし用心を残したまま、こう尋ねた。

「ルイージ……そして、ピーチ姫だな?」

もし彼らが"駒"ならば、言葉は返してこないはず。
万が一の用心ではあったが、彼はまだ十分距離があるうちに確認の言葉を掛けたのだった。

果たして、ルイージ、と呼ばれた男は頷く。

「そういう君はメタナイトだね。カービィからよく話を聞いてたよ」

安心させるように親しげに少し笑みを返し、彼は応じた。
メタナイトは黙って頷き、剣を背に掛けて道をあけた。

5人のそばまでやって来て、ルイージはこう言った。

「……ところで僕らは、君達を探してたんだ。
その後ろの2人は、エインシャントに……何かされてないよね?」

問われて、メタナイトは後ろを振り返る。

そこにいるのは、放心したままのリュカと横たえられているピット。
そして、くすんだ銅色に変じ動かない2人。

どちらのことを言っているのか。
察しかねて、とりあえずこう答える。

「4人とも操られてはいない。
ただ……2人は」

そう言って、銅像のようになってしまったリンクとカービィを手で示す。

リンクの側から離れようとしないリュカと、わずかに声に憔悴の色をにじませるメタナイトの様子を怪訝そうに見ていたルイージは、
やがて合点がいったように頷いた。

「……そうか。君たち、カービィから聞いてなかったんだね。
まぁ本当はマスターから聞く話なんだけど、今ここにはいないし……。
少し長い話になるけど、僕から説明するよ」

そしてルイージはカービィのそばに跪き、一息置くと、その銅色の体に手を添えてこんなことを話し始めた。

「僕らは知っての通り、いろんな世界から『スマブラ』に集められる。
『スマブラ』というのは何というか……特別な世界で、ファイターはみんな、そこで闘うための特別な姿になっている。
この姿はそんな僕らが力尽きて、"フィギュア"になった状態なんだ。
フィギュアって言うのはつまり――」

説明しかけて、彼は首を振る。

「とりあえず話すより、見てもらった方が早いね」

そしてルイージはおもむろに、カービィの足元にある丸い台座に軽く触れた。
途端に、カービィの"フィギュア"がまばゆく光を放つ。

「ふあーぁ……」

光の中から聞こえてきたのは、カービィのあくび。
現れた彼の姿は、元通りのピンクと赤。いつの間にか足元の台座も消えていた。

目をこすり伸びをしてから、彼はようやく辺りを見回す。

「あれ……ぼく寝てたのかなぁ」

すっかり瓦礫の山となってしまった工場跡地を眺めて、カービィは呑気にそんなことを言う。
そんな彼の言葉を正すこともなく、メタナイトはただ信じられないというように目を瞬いていた。

一方、ルイージはリンクの元へ行き、こう続けていた。

「ファイターである僕らはみんな、力尽きるとこんな風にフィギュアの姿になって動けなくなる。
でもそれは一時的な状態で、他の誰かがその台座に触れることで"起こす"ことができるんだ。
……やってごらん」

ルイージは、目を丸くして聞いていたリュカに、優しく促した。

リュカは恐る恐る手を伸ばす。
今まで、怖くて触れることができなかったのだ。
もし金属の冷たさを感じてしまったら、彼が本当に銅像になってしまったことを認めなければならないから。

でも、今横にいるファイター、ルイージはそれが一時のものだと言った。
実際に、カービィを元に戻して見せた。

それが本当なら……。
リュカは心を決め、その手を銅色の台座に乗せた。

次の瞬間、リュカは驚いて手を引っ込めた。
フィギュアの内側から、強い光が放たれたのだ。太陽のように明るい、わずかに暖かみをもった輝きが。
カービィの時も起きたことではあったが、やはりその現象はリュカの常識の域を超えていた。

やがて光の中から、がばっとリンクが半身を起こした。

荒く息をついていた。髪が、風になびいていた。
全て、元通りだった。

「えっ…………。
……あれぇっ?」

目をみはり、忙しく辺りを見渡す。
無理もない。彼にとっては、一瞬前まで浮遊兜からピットを助けようとして駆け寄っていった途中だったのだ。

やがて自分の意識が途切れていたらしいと気がつき、傍らのリュカにこう問う。

「……なぁリュカ、一体何がどうなって――」

最後まで言い切ることは出来なかった。
リュカが、ひしと抱きついてきたのだ。

「よかった……生きてたんだね!」

そんなことを涙声で言うリュカに、戸惑うリンクはただ目をぱちくりさせていた。

問題は、エンジェランドの天使。
意識を失うほどのダメージを受けたならば、ファイターはとっくにフィギュア化している。
やはりピットは、ファイターではないのだ。

寝かされたピットの様子を一目見て、ルイージの表情に先ほどまであった安堵と余裕が消える。
駆け寄り、傷の程度を確かめて、

「早くマザーシップに連れて行かないと……向こうじゃないと治せない」

そう呟くように言って、ルイージはピットを抱え上げた。
そのまま今にも船に連れて行こうとする彼を、

「ちょ……ちょっと待ってくれよ」

リンクが慌てて呼び止めた。

「マザーシップって……何のことだ?
おれ達をどこに連れてこうっていうんだよ?」

目を覚ましたら、いつの間にか工場はどこにも無くなっていて、
見たことのないファイターが自分たちの仲間を軽々と抱えて、どこかへ連れて行こうとしている。
事態について行けずリンクは戸惑い、少し不服そうに眉をしかめていた。

彼に答えたのは、ピーチだった。

「大丈夫。私達についてきて。
何があったのかは、船の中で話すわ」

初めて口を開いた彼女の声は、優しくも、凛と響きわたった。
日傘の下から、真剣な面持ちでこう続ける。

「今は、エインシャントの兵が来ないうちにここを離れなくては」

彼女の声は、優雅なドレスに金のティアラ、そういった目に見える装いに劣らない静かな威厳を持っていた。

その言葉にリンクは引き下がったものの、戸惑ったようにリュカと顔を見合わせた。
彼女の言うことはもっともだった。しかし、何もかもがあまりにも急にすぎるのだ。

そんな彼らの横をカービィが真っ先に駆けていき、船のハッチに飛び込んでいった。
それで2人の心も決まった。

元々円盤は1人用の乗り物だったらしい。
外見からは7人が余裕で乗り込めるように見えたのだが、
船内のスペースは装甲に削られており、思っていたよりも狭かった。

円盤を運転するルイージの他は、
前部の操縦室か後部の搭乗室に分かれ、立つなり中腰になるなりして何とか船の中に収まっていた。

ピットには操縦室の半分が場所として与えられていた。
横たえられた彼のそばにリュカがついて、"ライフアップ"を試みている。
だが、ピットの顔には血の気が戻らない。微かな胸の上下で、息があることだけは辛うじて分かるような状態だった。

操縦室に入りきれず、隣接する搭乗室にいるカービィは心配そうに身を乗り出し、ピットの顔を覗き込んでいた。
工場での激戦中、フィギュア化した彼が人形達に連れて行かれないよう、ピットはカービィのことをずっと守っていたというのだ。

リンクは問おうとしていたことも忘れ、キツネにつままれたような顔をして窓の外を眺めていた。
円盤はいつの間にか灰色の平原を抜け、褐色の峡谷を駆けていた。
だがその速度があまりにも速いためか、通り過ぎる岩肌はまるで川が流れるようにぼやけ、波打って見えるのだった。

静まりかえった船内。
そこに、不意に電子音が響く。柔らかで単調な信号。
その調子から言って危険を示すようなものではなさそうだったが、リンクは驚いて振り向き、音の出所を探した。

運転席に座ったルイージが、宙に表示された操作盤の上で手をさまよわせていた。
やがて、こう尋ねる。

「姫……通信機のボタンはどれでしたっけ?」

「そこの青いボタンじゃないかしら? 書いてあるはずよ」

ルイージは礼を言い、そのボタンに触れた。

船内にかすかなノイズが流れ、その向こうから声が形を取って現れてくる。

『――どうした、何かあったのか』

凛と響くアルト。女性の声だった。
船内に流れた第3者の声にリュカも思わず顔を上げ、天井の辺りを見上げた。
しかし、どこを見ても声の出所は分からなかった。

ルイージが答えるよりも先に、その声はこう問いただした。

『船の座標が予定コースよりも大幅にずれている。
今朝、君たちに頼んだ探索領域はそこではないはずだ。何かトラブルでもあったのか』

「いや、トラブルじゃないよ。むしろ良い報せがある」

詰問する調子の声を相手に、運転席のルイージは安心させるように言った。

どうやら、ルイージはここにはいない誰かと船の機械を使って話しているらしい。
言葉が通じるということは、相手もまたファイターなのだろうか。

「生き残っていたファイターを見つけたんだ。それも4人。
遠くの空が光るのを見つけて、思わず駆けつけて……あんなに強い光、人形たちが出せたとも思えなくてさ」

そう弁解する。
対し、天井の声は少しの間沈黙していた。
静かなノイズが流れ、そしてようやく、口を開く。

『4人……。本当に見つかったのか』

呟くように。それから声を改めて、こう続けた。

『いや、聞くまでもないことだったな。
そうか、ともかく……よくやった』

冷静な声に、かすかに安堵の色が混じっていた。

「ずっと探した甲斐があったよ」

そして顔を引き締め、ルイージはこう続ける。

「ピット君も見つかったんだけど、ひどい怪我をしてて、目を覚まさない。
そっちに戻ったらすぐ治療室に運ぶよ」

『分かった。
帰路も十分注意するように。今まで通り、人形に見つからないよう行動してくれ。
私は今、船を離れているのだが……そうだ、君たちもこちらに来てくれないか?
塔からフィギュアを運び出す』

「サムス……!
今、塔に行ってるのかい?」

『ああ。偵察に。
……だが、塔の人形にどうも妙な動きが見られる。
マザーシップに着いたらピットを治療室に寝かせ、塔に向かってくれ。
手遅れになる前に彼らを救出する。
船には1、2人の見張りを残しておくように』

「……わかった」

音声のみの通信ではあったが、ルイージは真剣な顔をして頷いた。

通信が終わり、船内には再び沈黙が戻る。

リンクは何か問いたげな目でピーチとルイージの背中を交互に見つめ、
リュカも治療に集中しつつ、時折視線をちらと向けていた。

リンク達の知らないところで続いていた、エインシャントへのもう1つの静かな抵抗。
ほぼ何の説明もなしにそこに巻き込まれたリンク達には、問いたいことが山ほどあった。
だが、簡単にそれを口に出すのをはばかられるような緊張が辺りにぴんと張り詰めていた。

先に口を開いたのは、ピーチだった。

そっと息を吸い、目をつぶって言葉を選ぶと、こう切り出した。

「……今、すでに20人を超えるファイターが、エインシャントに捕まっているの」

静かに、しかしはっきりとした口調で。

「20人?!」

リンクが素っ頓狂な声を出す。
新たなファイター2人が現れて、空を飛ぶ奇妙な乗り物でどこかへ連れて行くと告げた。
しかも彼ら以外にもまだ1人、先ほどの"サムス"というファイターが捕まらずにいて、待っているというのだ。
今まででも十分混乱していたのに、ピーチが言った言葉はそれより途方もない言葉だった。

20人と言えば、この場にいるファイターの総数よりも多い。

リンク達は互いに顔を見合わせる。誰の顔にも、戸惑いと驚きがあった。
状況が良くないことは予想していた。漠然と、最悪の想定もしていた。
だがそれが声として発せられた時、避けることのできない現実的な重みを持って心に響いたのだった。

ピーチは頷き、続けた。

「エインシャントは『スマブラ』へ向かう途中の私達をさらい、自分の意のままに動く駒にしようとしている。
この船の持ち主であるファイター、サムスはそれを知り、エインシャントの狙いを阻止するためにあちこちで工場を壊し生き残りを探していたの。
私とルイージは、危ないところをサムスに助けてもらったのよ――」

――
―――

 ファイターを捕らえていた奇怪な塔。
 最上階にあるのは、黒曜石をくりぬいて作ったような暗く冷たい部屋。

 侵入者を示す回転灯が灯っていた。
 赤い光が、部屋の中央に立つルイージとピーチ、そして2人を取り囲む人形達を交互に照らしていく。
 冷気は相変わらず足のあたりをなめるように流れていたが、人形達の人ならぬ人いきれが室内の温度を上げているように感じられた。

 退路はない。
 たった一つの出入口は、居並ぶ人形の隊列に完全にふさがれていた。

 どこか遠くでサイレンが鳴り響いていたが、2人の閉じ込められた室内は不気味なほどしんと静まりかえっていた。
 人形兵は身じろぎせず、それぞれの武器を構えてファイターの動きを待っている。

 ルイージは拳を、ピーチはフライパンを構え、互いに背中を守って四方に油断無く視線を送る。
 そんなルイージの片腕には、フィギュア化した兄が抱えられていた。

 静寂を破ったのは、ルイージでもピーチでも、また人形でもなかった。

 不意に、2人の間にあった床のパネルが鈍い音を立てて沈み込んだ。

 手をつき体を引き上げて真四角の穴から素早く姿を現したのは、メタリックオレンジのパワードスーツ。
 久しぶりに出会う、遠未来の戦士。

「サムス……?」

 意外な人物のあまりにも唐突な登場に、目を瞬くルイージ。

 対し、彼女は振り返らず手短に言った。

「2人とも、ダクトに避難するんだ」

 周囲で、人形達が動きつつあった。
 数に任せ、乱入者もろともファイターを捕まえようというつもりらしい。

 問い返す暇も、考えている暇も無かった。
 ルイージ達は急いで、サムスの開けたダクトの入り口に飛び込む。
 視界の端で、サムスが素早くパネルを戻すのが見えた。

 急いでルイージがダクトの奥へと姫を押し込んだ頭上、厚い鋼鉄の上で何かが炸裂した。

 2人は慌てて耳を塞ぐ。
 まともに爆音を聞いてしまったら、しばらく耳が聞こえなくなるだろう。

 直後、ダクトに強烈な衝撃波が走った。
 耳を塞ぐ手の向こうで雷鳴のような音が轟き、腹の底に響くような振動が続く。

 一陣の風がダクトの奥まで吹き抜け、あたりが静かになった。
 しかし、しばらくの間ルイージ達はかがんだまま動けなかった。

 やがて、軽い振動に振り向くと、サムスがダクトに降り立ったところだった。
 人形達の気配は消えている。
 先ほどの強力な爆弾、"パワーボム"で一掃されてしまったのだ。

 ルイージ達の側をすり抜け先頭に立ったサムスは、2人についてくるよう手振りで伝えた。

 細長いダクトに、足音が幾重にもこだまする。
 天井に頭をぶつけないよう、3人はわずかに腰を落として走り続ける。

「サムス! ……他のみんなは助けないの?」

 足早に進むサムスにピーチが追いすがり、声を掛ける。
 しかし彼女は足を止めぬまま、断言した。

「不可能だ。
 私達3人では、運べる人数が限られる」

脇目もふらずダクトを駆け、こう続ける。

「また、今のサイレンで我々の侵入が伝わってしまった。今は脱出することが先だ」

 彼女が言っているのは、ルイージ達が作動させてしまった警報装置のことだろう。

 そこでルイージははっと気がつく。
 塔の壁面に開けられていた、抜け穴の意味に。
 自分たちよりも先に、サムスはこの塔に侵入していたのだ。それはおそらく、捕らえられたファイターを助けるため。

 最上階に警備が全くいなかったのは、サムスがどうにかして人形達の注意を逸らしていたからではないのか。
 自分たちは、知らずにサムスの邪魔をしてしまったのか。

 前を走るパワードスーツの背中を見つめ、しかし、何も言えないルイージ。

「それに……」

 サムスは何かを言いかけ、少しの間黙り込む。

「……いや、このことは後だ。
 君たちは建物の外に出ろ。私が船で迎えに行く。
 ここを真っ直ぐ行き、突き当たりのダクトを降りればすぐ外に出られる」

 そう言い残し、彼女は曲がり角の向こうに消えた。

―――
――

ピーチの声が、静かな船内に響く。
小型船に乗り込んだ誰もが、真剣な顔をして彼女の話に耳を傾けていた。

わずかに伏せられた姫の瞳は、うれいを含む。

「言うとおり、私達は外に出た。
……他のみんなを置いてきてしまったのが気がかりだったのだけれど、
私達はすぐに、置いてくるように言ったサムスの意図を知ることになったの。
とても……悲しい形で」

――
―――

 警報を聞きつけたのか、建物の外には早くも人形達が集まりつつあった。

 以前ルイージ達が平原で対峙した人形軍団より、その数は少ない。
 しかし、大きな鎌を振りかざすずんぐりとした球形の敵に、全体が黒い影でできた両腕に刀を持つ人形……
 あのときよりも、見るからに手強そうな人形が多いのだった。

 抜け穴から出てきたところで人形に遠巻きに包囲され、2人は立ち往生していた。
 まだ、上空にサムスの船は見えない。

「まずいな……」

 ルイージは顔をしかめて呟き、兄を抱え直す……と、気づいた。
 兄を復活させれば、こちらの戦力も増える。

 ルイージは急いで兄を地面に立たせ、その台座に触れる。
 間もなく光の中から現れた兄に、ルイージは言った。

「兄さん、一緒に――」

 はっと息をのみ、体を反らす。

 一瞬遅れて、今までルイージの顔があったところに炎が弾けた。

「兄、さん……?」

 反射的に回避したものの、自分の目が信じられずルイージは目を瞬く。

 外見は、いつもと変わらぬ赤い帽子の兄。
 しかし、その目は虚ろだった。

 目の前にいる2人を見てはいるが、認識していない。
 そんな目つきをしていた。

「ルイージ……」

 ピーチは、立ちすくむルイージの腕を引いた。
 その声はわずかにこわばっていた。

 マリオは明らかに様子がおかしかった。
 いつもそばにいる彼だから、その異変がよく分かる。

 逃げなくては。彼女の勘がそう言っていた。

 突き出した手の平に炎の残滓をまとわせ、
 赤い帽子の男の目が、気味が悪いほどゆっくりとピーチの方に向けられた。

 ルイージはピーチの手を引き、必死に走っていた。
 黒い塔の北に連なる、山岳地帯へと。

 あてがあるわけではない。
 だが、走らなければ追いつかれる。捕まるのだ。

 追ってくるのは、人形達を引き連れたマリオ。
 2人に次々とファイアボールを浴びせ、足止めしようとする。

 ルイージは合間を縫って振り返り、こちらからもファイアボールを放つ。
 弾むような音と共に、火の玉が宙で相殺される。

 しかし何発かは受け止めそこね、オレンジ色の火球が2人の背をそして足を襲う。
 その度に、熱と共にわずかな痛みが走った。
 ファイターである今、痛みは和らげられていても、2人ともそれが自信の身に蓄積する着実なダメージとなっていることは分かっていた。

「やめて! マリオ……!」

 ピーチが懸命に声を掛ける。
 しかしその言葉は空しく灰色の大気に吸い込まれ、彼に届くことはない。

 その時。
 不意に空が陰った。

「2人とも、これに掴まれ!」

 その言葉と共に、見上げた空から太いワイヤーが降りてきた。

 上空を飛んで2人に追いついたのは、小型の宇宙船。
 サムスがそのタラップに掴まり、船内の機械から繰り出されたワイヤーを支えていた。

 考える間もない。
 ルイージは姫を抱え、空いた手でワイヤーをしっかりと掴んだ。
 すぐに、2人はワイヤーごと引き上げられる。

 ピーチの片手がすがるように、遠ざかっていくマリオに差し伸べられる。
 ルイージも兄の姿を、沈んだ顔をして目で追っていたが、ついに耐えきれなくなり目を背けた。

 2人を収容した小型船は追っ手を避けるため森林地帯に入り、山脈に沿って飛び続けた。

 30分ほど飛行すると不意に行く手が開け、山肌に埋もれるようにしてひっそりと口を開けた洞窟が現れた。
 船は、迷わずその中へと飛び込んでいく。

 一瞬の暗闇。

 すぐに船のライトがつき、滑らかな鍾乳洞が浮かび上がる。
 銀灰色の牙の群れ。彼らはそのただ中にいた。
 狭く入り組む鍾乳石の迷路を巧みにくぐり抜け、船は洞窟の奥へと突き進んでいく。

 やがて空間が開けた。
 その先に現れた光景を見たルイージは、はっと息をのむ。

 サムスのマザーシップ。
 橙色の浅い半球を伏せたような形をした宇宙船が、かつて『スマブラ』で見たそれとは全く異なる姿でそこに佇んでいた。

 前の方、操縦室のあるあたりは何とかオレンジ色の装甲を保っている。
 しかし後ろから半分は、みすぼらしい黒鉄色を晒していた。外部装甲がまるっきり失われているのだ。
 被害は特に後部エンジンで著しく、一基はあらぬ方向を向いてねじれ、ノズルまでひしゃげている。

 機能美に満ちたシンプルなシルエットを持ち、あまたの星々を悠々と駆け巡った宇宙船。
 それが今やその面影もなく、湿気と冷気に満ちた洞窟の中にただ力無く横たわっているのだった。

「誰が……」

 思わず呟いたが、その答えはルイージも薄々分かっていた。
 あの人形達の軍勢。それしか考えられない。

 いつの間にか小型船のライトは消えていたが、洞窟の中は薄ぼんやりと明るくなっていた。
 広大な洞窟の床に、所々陽の光が落ちているのだ。

 光の出所を探すと、それはマザーシップの背後にあった。
 大きな岩が荒く積み重なってできた岩肌。そこに点々と隙間が空いている。
 暗さに目が慣れてくると、それは元々あったもう一つの入り口が崩落した跡だと分かった。

 船の向きから想像すると、おそらく損傷したマザーシップはあの元入り口からこの洞窟に飛び込んだのだろう。
 その不時着の衝撃によって一部の岩盤が崩落して、天然の隠れ蓑となったのだ。

 エインシャントの軍勢に襲われ、船に致命傷を負わされて。
 必死の思いで洞窟へと逃げこむマザーシップの様子が、まざまざとルイージの目に浮かんだ。

「マリオが君たちに……?
 やはりそうか……」

 マザーシップの操縦室。

 まだショックを引きずり言葉少ないルイージとピーチから、何とか一部始終を聞き出し、
 サムスはそう言ってモニタに向き直った。
 言葉こそ素っ気ないが、彼女なりに落胆しているのは声色で分かった。

 しかし、それをルイージ達と共有する様子はない。
 船のシステムを使って何かを調べ始めたようで、振り返らずこう言う。

「通路に出て右に、仮眠室がある。2人とも休んでいてくれ」

 わずかな駆動音の響く船の中、忙しげに仮想パネルを操作するサムス。
 だが、2人とも操縦室を出ようとはしなかった。
 やがて、ルイージが声を掛ける。

「……サムス、一体何が起きてるんだ?
 君なら……何かつかんでるんじゃないか?」

「……」

 背中で沈黙を守り、サムスは答えない。

「サムス……?」

 聞こえなかったのかと思い、ルイージは遠慮がちに名前を呼んだ。

 サムスの手が止まった。
 だが、やはり振り返らずにこう言った。

「……すまないが、今は忙しい」

 落ち着いた、そしてわずかに突き放すような声。
 共に『スマブラ』で長い時間を過ごしたルイージでなくとも、彼女が振り返らないのは話をこれで切り上げたいというサインだと分かる。

 気圧されて、口をつぐむルイージ。

 ふと、その視界にピーチが映った。

 壁際に、彼女は1人でぽつんと立っていた。
 すっかり放心した様子でうつむき加減に床の一点をぼんやりと見つめ、彼女は何も言おうとしなかった。
 いつもは太陽のように明るい人であるだけに、その姿はよけい痛々しかった。

 そんな姫を見て、ルイージは改めて兄を失ったことを痛感させられる。

 いつもの彼なら、自分の心を内に閉じこめ、大人しく引き下がるところだった。

 だが、ルイージは自分の手を見つめる。
 兄を抱えていた、左手を。

――兄さんなら……どうする?
   こういうとき、兄さんは……。

 意を決し、顔を上げる。

「サムス……君は、捕まっていたみんなを助けるために、あの建物に潜入していたんだね。
 そうとも知らず、僕らがうかつに装置に触れてしまって……。
 本当に、すまなかった」

「……。
 謝ることはない。
 知らなかったのだから、仕方のないことだ」

 そうは言ってくれたものの、その声にはいまだ距離が感じられる。
 物理的にはそれほど離れていないはずなのに、ルイージにはサムスの背がひどく遠く思えた。

 その距離に戸惑い、彼は続ける言葉を見失ってしまった。

 今のサムスの様子。『スマブラ』では見せたことのない態度だった。
 もちろん、彼女は元々なれ合ったりふざけあったりするような性格ではないが、顔見知りに対してここまでよそよそしく振る舞うことはなかった。

 それを思い返し、ルイージは踏みとどまる。
 何か理由があってのことなのだ。

 今は状況が違う。仲間のほとんどが捕まり、こちらには決定打も切り札もない。孤立無援。圧倒的な無力。
 それに考えてみれば、そもそも『スマブラ』では今までこれほどの事件が起きたことはないのだ。
 窮地にいたり、1人で全てを解決しようとするこの姿勢も、また彼女の一面なのかもしれなかった。

 そう考え、その上で気を奮い立たせるとルイージはもう一歩踏み込んだ。

「あの部屋には、兄さんの他にもたくさんのファイターが捕らえられていた。僕らの、仲間が。
 スマッシュブラザーズに、何かが起きているんだね?
 サムス……僕らも、みんなを助けたい」

 操作盤を叩いていたサムスの手が、止まる。
 だが先を制し、ルイージが続けた。

「もちろん、僕らを連れて行けとは言わない。
 僕らは、忍び込んだり工作したりするのはそれほど得意じゃないから。
 でも、僕らにしかできないこともあるはずだ」

 サムスは今や振り返っていた。
 バイザーの奥から、冷静な瞳がこちらをじっと見据えていた。
 確かめるように。見定めるように。

 ルイージはその目を真摯に見つめ返し、こう締めくくる。

「だから僕らも、僕らに出来ることでみんなを助けたいんだ。
 同じ"ブラザーズ"として。……君と一緒に」

 長い静寂の向こうから、やがて返事が返ってきた。

「……わかった」

 サムスはそう言った。

 "これは君1人だけが抱え込む問題じゃないんだ"
 言外にルイージが伝えた言葉、差し伸べた手に対する返答として。

―――
――

「そしてサムスは、知っていること、分かっていること、そしてそこから推測していることを私達に話してくれたの。
大まかにはさっき言ったとおり。
"エインシャント"と名乗る人物がファイターを捕まえ、自分の言いなりにしようとしている。
他には、あちこちの工場で途方もない数の人形兵が作られていることや、捕まったファイターは既にみんな操られているらしいこと……」

そこで束の間、ピーチは目を伏せる。

「ルイージの話で、少なくともカービィは捕まっていないと分かっていたから、
フィギュアにされてしまった仲間の救出はサムスに任せて、私達は生き残りを探しに出たのよ。
捕まっているみんなは、助けても"起こす"ことはできない。だから、まだ捕まっていない仲間を探す。
そうすることで、少しでもエインシャントに立ち向かうだけの力をつけようと決めたの」

彼女は片手で船内を示し、続ける。

「この小型の船は、サムスから借りたもの。母船が動けない今のところでは、唯一の移動手段なのよ。
そして今、私達が向かっているのが、母船である"マザーシップ"よ」

峡谷、森、山間……
込み入った狭い道を地面すれすれの高さで飛んでいくため、船の窓からの景色はひどく目まぐるしく移り変わった。
様々な明度の灰色が流れ、混ざり、溶けあい、絶えず奇妙な模様を描き続ける。

眺めているうちに酔いそうになり、リンクは船内に目を戻した。
文句は言わなかった。
こういった込み入った道を低空飛行するのは、人形に見つかる危険を減らすためと分かっていたからだ。

これだけの速度を出しているにもかかわらず、船内はしんと静まりかえっている。
移動には風や波の音が伴うものだという常識を持っているリンクには、ひどく落ち着かない船だった。

話すものもいない。
リュカは疲れた顔をしつつもピットの治療に集中しているし、ルイージは背中を緊張させて運転中。
ピーチやカービィはピットの肩に手を置き、心配そうな顔をして黙っている。
メタナイトは、搭乗室に1人で立ち窓の外を眺めて何か考え込んでいるようだった。

そして彼らの周りには、ピーチの語った事実、その重々しい余韻が残っていた。

船内は再び静けさに包まれていた。
ただ1つの音は、エンジンの立てるらしいかすかな唸りのみ。
その音に何とはなしに耳を傾けていたリンクだったが、不意に、聞きたかったことを思い出す。

「……なぁ、ピーチ。
さっきおれ達は『スマブラ』へ行く途中でさらわれたって言ってたよな。
そうすると、つまり……ここは『スマブラ』じゃ、ないんだな」

ピーチは静かに頷いた。

「ええ」

「やっぱりそうだったのか……」

うすうす予想はついていたので、リンクはそれほど衝撃を受けなかった。
だが、さすがに少し肩を落とすリンクに、ピーチは首を傾げつつこう続けた。

「ただ、サムスの調べたところだと、ここはかなり『スマブラ』に似た世界らしいの。
でも『スマブラ』がここと同じく殺風景と言うわけじゃなくって…何というのかしら。
近い、と言うのかしら……?
……詳しいことは、やっぱりサムスから直接聞いた方が良いわ」

その頃、荒野を走るものがあった。
双頭の戦車と、1機の輸送プレート。
長方形の形をしたその飛行物体は、その上に50体ほどの人形兵を載せていた。

それが、第1工場のわずかばかりの生き残りだった。

輸送プレートはそこかしこに傷があり、時々不穏な煙を吹き出している。
双頭の戦車もあの流星群を受けて無傷というわけにはいかなかったらしく、
車輪が岩を噛んで車体が揺れるたび、くすんでしまったボディーからわずかに青白い電流がもれ出ていた。

双頭の戦車デュオンの横、頭の高さには青い光が浮いていた。
彼方の居城に住まう彼らの主、エインシャントの虚像だ。

「申し訳ありません。我らが主」「完全に、我々の想定不足です」

デュオンはただひたすらに、沈痛な声で謝罪した。
彼らに曲げる腰があったなら、平身低頭していたことだろう。

何しろ、彼らが失ったのは第1工場。
エインシャントの軍勢を支える生産工場の中でも、最も大規模なものだったのだ。
それだけではない。彼らは4人ものファイターを取り逃がしてしまった。それも、あと一歩の所まで追い詰めていながら。

だが、返ってきた主の言葉は意外なものだった。

『そんなことはどうでもよい』

そこには、少しの怒りも含まれていなかった。

「そんなこと……?」

目を見開き、問い返しかけてデュオンは口をつぐむ。
浮かぶ青い光は、ちらちらと瞬いていた。主は、静かに興奮していた。
こんなときに口を挟み主の思考を邪魔すれば、たちまち烈火のような怒りに曝されるであろうことは目に見えている。

いったい、第1工場を失うことよりも主を夢中にさせることとは何なのだろう。
慎ましく沈黙を守りつつ、デュオンは訝しげに待つ。
やがてエインシャントは、遠い彼方の居城から問いかけた。

『それよりも、デュオンよ。第1工場を壊滅させたのは空から降ってきた星だ、と言ったな?』

その言葉に、デュオンは渋々といった様子で肯定した。

「は。我々が見たのは、まさしく」「……しかし、未だに信じることができないのです。おそらく主も――」

『私がいつ、信じぬと言った?』

エインシャントは、きっぱりと言い放った。
デュオンは唖然として沈黙し、そして用心深く問い返した。

「我らが主……?」「しかし、教えてくださったのは他ならぬあなた様ではありませんか」

「奴らがファイターを連れてくるとき、そこには補正が掛かると」「全員の能力が平均してある範囲に収まるように。対等に闘えるように、と」

『それはその通りだ。奴らもその原則を変えてはいないだろう。
だが状況を見れば明らかだ。昨夜のあの流星群、ファイターの他に誰が成し得たというのだ?』

答えることができず、デュオンは沈黙する。
しかし彼らはまだ納得できていなかった。

エインシャントはくつくつと笑い、彼らの心を見透かしたように言った。

『それほどの力を行使できるのなら、なぜ初めから使わないのか。そう思っているな?』

デュオンは無言のうちに頭を下げ、肯定する。

『答えは簡単だ。彼らにはコントロールできないのだ』

「コントロールできない大技……」「一体、何のために……?」

『ふむ、言うなれば"切り札"だろう。追い詰められ、万策尽きた後の大逆転。
まことに奴ららしい。何とも夢と希望にあふれたシステムではないか』

夢と、希望。
それらの輝かしい言葉を、エインシャントは侮蔑し、吐き捨てるように言った。

しばらく1人で嗤っていたエインシャントはふいに真剣な口調に戻り、こう続けた。

『だが、私ならば意のままにしてみせる。
奴らのことだ。切り札を使えるのがたった1人とは限るまい。
ファイターにあれほどの能力が隠されているのならば、それを使わぬという手はないだろう』

静かにきらめく、青い光。
その光を、主の面影を眺めつつ、デュオンはようやく理解していた。
つまり、主はファイターの可能性……いや、"駒"の可能性に心を躍らせているのだ。

"駒"さえあれば、工場などいくら潰されても構わない。
当然だ。人形兵は元から、主の計画に適うだけの力を持ち合わせていないのだから。

しかし。

「我らが主――」

デュオンには、まだ報告していないことがあった。

「本当に、意のままにできるとお思いですか……?」

その静かな口調に、彼方の居城で振り返るような気配があって、

『それはどういう意味だ?』

口答えした非礼も咎めないまま、エインシャントは鋭い眼差しを向ける。
その瞳を真っ直ぐに見つめ返して、デュオンは言った。主の目を、現実に引き戻すために。

「昨晩、侵入したファイターの中には」「あの"駒"も含まれていたのです」

『……』

息をのむような音があった。
構わず、デュオンはとどめの言葉を放つ。

「いえ、正確には"元"駒だった者、と言った方が宜しいでしょうか……」

長い沈黙を経て、ようやくエインシャントは言った。呟くように。

『……馬鹿な』

そこにはもはや、先ほどまでのようなぎらつくような自信は無くなっていた。

『駒の自我が……解放されていた、というのか』

半ば呆然として尋ねる主に、デュオンは目を伏せて答える。

「はっ。間違いありません」「プリムを斬り、言葉も発し……」「あれはもはや、あなた様の支配を免れていました」

『……信じ難いが、しかし……。
なぜ……いや、どうやって…………』

ぶつぶつと、独り言のような言葉を漏らす。
思案するように青い光も瞬いた。

エインシャントは動揺していた。
第1工場が破壊され、そこに控えていた大部隊が壊滅したと聞いたときよりも、はるかに。

確かに兵達は替えがきく。
最大の生産力を持つ第1工場と、最大の供給源となっていた"エンジェランド"への通路を失ってしまったのは痛手だが、
各地に点在している廃墟を取り壊して他の工場に回せば、まだ兵士の生産は続けられる。
生産力が落ちるのは致し方ないが、残りのファイターを捕らえるには何とか間に合うはずだ。

それに引き換え、一方の"駒"は代わりがない。主の悲願、念入りに練った計画においての要である。
もし、彼らまでもがその手を離れようとしているのなら、計画は根底から崩れ去ってしまう。

だがそうは言っても、
同じ創造主を持つ者として、デュオンは、心配さえしてもらえない兵達にわずかに同情めいたものを覚えていた。

そんな腹心の心も知らず、エインシャントはこう命じる。

『……一刻も早く、研究所の我が駒を城に運べ。
再調整も含め、残りの作業はこちらでやる』

その声はいつもの冷淡さを取り戻していたが、その言葉の端には未だ隠しきれない動揺があった。

「はっ」

伝えるべきことを伝えきったデュオンは、忠信をこめて返答した。
すぐさま別の通信回線を開き、研究所に緊急のシグナルを送る。

「……おかしいな。
もう通信圏内に入ってるはずなのに」

眉をひそめ、ルイージは宙に浮かぶ"無線"の文字表示を叩く。
マザーシップ、並びにサムスが潜入している"塔"に近づき、最後にもう一度報告をしようとしたのだが一向に応答がないのだ。

「さっきはつながったわよね?
届かないところ……地下にいるのかしら」

ピーチが心配そうに眉をひそめる。

「いいえ、それでも中継するマザーシップのコンピューターが電波を強めるなりして、彼女のスーツに中継するはずです。
これはおそらく……」

わずかな応答も聞こえないことを確認し、続ける。

「……彼女自身が、応答できない状況にあるのでは……」

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最終更新:2014-08-24

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