気まぐれ流れ星二次小説

Open Door!

Track30『Brand New Day』

~前回までのあらすじ~

『スマッシュブラザーズ』に選ばれ、それぞれの思いを抱いて輝く扉をくぐったファイター達。
しかし、彼らは目的地とは異なる灰色の世界に連れてこられ、得体の知れない人形の軍勢によって1人、また1人と捕らえられていく。
そんな中、プロロ島の風の勇者リンク(トゥーンリンク)と、タツマイリ村の少年リュカが出会う。

次第に勢力を強め、操られていたファイターを2人も取り返した彼らに、エインシャントは恐怖を抱いていた。
だが、彼らが自分たちの力だけでそれを成し遂げたとは思っておらず、この世界に閉じ込められているうちに潰してしまえば良いと結論付ける。
赤い十字の描かれた爆弾(亜空間爆弾)、影蟲……今まで明かさなかった手の内を晒してまで、彼はファイターを消そうとする。
がしかし、降りかかる困難はかえって彼らの結束を強めることとなるのだった。

水没した古代の研究都市。その中心部にそびえる円筒状の建築物に新たな拠点を構えたファイター達。
成り行き上皆のリーダーを務めていたサムスは、自分がよりふさわしいと考えたマリオにまとめ役を任せようとする。
しかしマリオは、今の自分たちにはリーダーの他に足りないものがあると感じていた。
それは、互いに信頼し合うこと。そこで彼は、夜間に開かれていた会議の場に、今まで招待されていなかった子供達を招き入れる。


  Open Door! Track30 『Brand New Day』


Tuning

それぞれの道へ

出発の朝は、珍しく雲一つ無い快晴だった。
やはりあるべき青さはそこになく、空は羊皮紙のように弱々しい白一色に塗りつぶされている。
だがそれでも、まだら雲の広がる憂鬱な灰空よりはいくらか気分が晴れるものだ。

その空の下に広がるのは、水没した都市の跡。
円形の防壁を持ち、碁盤の目状に区画されたその中心部にはひときわ立派な建物がそびえていた。
かつての中枢基地であり、今はファイター達が身を寄せる砦となっている円筒状の建物。その横腹には、大きな穴が穿たれている。

洞に差しこむ天球の光は、がらんどうの大ホールとそこに停泊するマザーシップとを等しく照らしていた。
そしてその光は母船の底部、ハッチが開けられた格納庫の中にも届いていた。

格納庫には、車ほどの大きさを持つ偵察船が1機。
今回はこれに6人が乗り込み、爆弾工場のある砂漠へと向かう。
他にも修理機械1台と載せられるだけの鋼材も積む。乗組員は数時間のあいだ、窮屈な状況を耐えなければならないだろう。

出発を目前に控え、庫内にはどことなく浮き足だった雰囲気が漂っている。
ある者は不要な物品を偵察船から降ろし、ある者は装備の確認をし、足早に格納庫を出入りする。
砦に留まるファイター達にしばしの別れを告げる者もいた。

マザーシップに残るファイターは4人。
船の持ち主であるサムスがこちらに入っているのは、ほぼ必然だろう。
次にリュカ。彼には、この都市に漂う思念の主を見つける役目が任せられている。
ピーチはマリオ達について行くことも選択肢にあったが、偵察船に乗せられる人数を考えて残ることに決めたらしい。

カービィも水上都市に残ると言ったことを、リュカは少し意外に思っていた。
何しろ親友(向こうはそうは思っていないにしても)は、偵察船に乗って砂漠に向かうのだ。

リンクは向こうで真剣な顔をしてフォックスと並び、サムスから何事か最終確認を受けている様子だった。
彼ら2人は6人の中でも最も遠くへ、未探査区域の奥へと進む。出発する前に改めて、色々と知っておくべきことを伝えられているのだろう。
リンクはまだこちらに来れそうになかったので、リュカは隣のカービィに尋ねてみた。

「ねぇ、カービィは行かなくても良いの?」

カービィはこちらを振り返り、ちょっと体を傾げる。

「どして?」

「一緒に行くのかなって思ってたんだ。君の友達と」

「あぁそっか!」

合点がいったというように大きく頷き、カービィは偵察船の方を笑顔で見やった。
船内には運転を任されたルイージの他に、メタナイトもすでに乗り込んでいる。

「うん、まよったけど、ぼくはここにのこる。
メタナイトがむりしないかしんぱいだけど、マリオたちもいっしょだから、だいじょうぶだと思うんだ」

そう言った彼は本心からそう思っているようだが、リュカは思わず笑ってしまった。
突拍子もないことをして皆を驚かせるのはいつもカービィの方なのだ。

カービィの言葉には続きがあった。

「それに、こっちにのこったらピーチの作ってくれるおいしいごはんが食べれるからね!」

目を輝かせて彼は言った。おそらく、これが決定的な理由だろう。
何しろ、偵察船には調理機械などないため、外出組は真空パックの保存食に手を加えず、つまり本来の調理法で食べることになっている。
食べ物に目がないカービィとはいえ、選べるならより美味しい方を選ぶのだ。

「なるほど、確かにね!」

リュカはそれに同意しつつ、今朝からの緊張が少しほぐれたのを感じていた。
本当に危ない局面ならカービィは食べ物のことなんて忘れて友達についていくだろう。
それをしないということは、彼は今のこの状況に不安を持っていないということ。

きっとリンクも、無事に帰ってくる。
リュカはそう自分に言い聞かせてリンクの方を見た。まだ話は終わっていないようだった。
彼はこれ以上ない真剣な顔をしてサムスの話を聞き、頷いている。

と、船内通路の方からまた1人、格納庫に誰かが駆け込んできた。
白い翼を持つ少年、ピットだ。

「あ、ピットくーん!」

カービィが声を掛けると彼はすぐに気づき、こちらにやってきた。

「まだへやにいたの?」

ピットは頷き、こう答える。

「出発する前にもう一度、武器を確かめておきたくて」

とはいうものの、彼は昨日の夜も暗い部屋の中でじっと神弓を点検していた。

彼が慎重になるのも無理はない。
アーウィンを直した後、残る4人はその足で爆弾工場に潜入するのだ。
山脈を謎の力で消し飛ばしてしまった爆弾、それについて情報を集めるために。

工場にはガレオムが待ち受けているはず。
今回はこちらから向かう形になるが、決して油断はできない。

「ピットさんも、気をつけて」

そう伝えたリュカに、ピットは安心させるように頷きかけた。

「大丈夫、無理はしないよ。
でも、僕にできるだけのことはする。今はいったん離ればなれになるけど、また戻ってくるから」

そして、リュカの心を読んだかのようにこう付け加えた。

「心配しないで、みんな戻ってくるよ。
リンクだってマスターハンドさんに選ばれたファイターだ。
それに、フォックスさんもついてる。きっと良い知らせを持ってきてくれるよ」

不安な気持ちが顔に出ていたのだろう。リュカは少し恥ずかしく思いつつも頷いた。

「ありがとう」

そう小声で返した時、横から声が掛かる。

「よっ、お待たせ!」

当の本人、リンクがやってきたのだ。

「どうしたんだよ、そんなマジメな顔しちゃってさ」

いつものように明るい声でそう言うが、それは主にリュカを元気づけるため、わざとおどけてみせているのだった。
そんな彼の周りをカービィが飛び跳ねている。

「リンクー! すっごいじゅうだいせきにんだねー! がんばって~!」

「あぁ、任せとけ!」

にっと笑顔を返すリンク。

そんな彼に、リュカはこう言うことしかできなかった。

「リンク……」

言うべき事も聞くべき事も、全て昨日の廊下で尽きてしまっていた。
だから2人の間には、視線による無言のやり取りだけが残される。

問いかけるようなリュカの眼差しを受け止めて、リンクはただ一つ笑みを返した。

「分かってるさ」

偵察船が飛び立つ。
ふわりと、浮き上がるように格納庫の床を離れ、ゆっくりとハッチをくぐる。

そのまま壁の大穴までの十数メートルを滑るように進み、やがて外気へ、その身をさらした。

外の白い光が束の間、偵察船のオレンジ色を眩しく照らし上げたかと思うと、船の尾部にまばゆい光が灯る。
主エンジンに点火した船はあっという間に加速し、林立するビルディングの隙間に吸い込まれていった。

キャットウォークに立ち、しばらく手を振ってそれを見送っていたピーチはゆっくりとその手を下ろす。
リュカは鉄柵を掴み、その隙間からじっと目を凝らしていた。
隣のサムスは手を振りこそしていなかったものの、偵察船の消えていったあたりをまだ見つめている。
そんな彼女の顔を何気なく見上げたカービィは、ちょっと目を丸くした。

「あれっ、なんかさびしそうな顔してるね! めずらしいなぁ~」

そう言われて、サムスはバイザーの向こうではっと我に帰る。
ややあってカービィに少し笑ってみせ、これだけを言った。

「……いや、寂しいのではない」

そうして、彼女はきびすを返し格納庫から出て行く。
旅だった仲間を案じる気持ちはもちろんある。だが同時に、肩の荷が下りたような気もしていたのだ。

船内は久しぶりの静けさを取り戻していた。
しかし、その静けさは決してかつてのような虚ろで冷たいものではなく、暖かみとくつろぎのある静寂だった。

それから偵察船は2時間ほど休みなく飛び続け、遮るもののない砂漠へと出た。

6人がそれぞれ、狭いながらも工夫して船内の計器につき敵襲を警戒したものの、
運が味方したらしく、人形と出くわす前に目的地に到着することができた。

向かう先に見えてきた戦闘機、その有様を見たフォックスは何も言わず、ただ苦しげに目を細める。
砂にまみれた白と青のオブジェ。彼の愛機アーウィンは、片翼を失った惨めな姿で砂漠に半ば埋もれていた。
フォックスの操縦技術の高さと、不時着した場所が砂漠だったお陰で他に明らかな損傷はなかったが、
それだけにかえって折れた翼の痕が日の光の中で目立ち、痛々しく映るのだった。

「直せそうか? フォックス」

リンクが小声で聞いた。

「損傷箇所が翼の先だけなら。船体の計器はいかれてないと思うが……」

フォックスは言葉少なに答える。その目は依然としてアーウィンに向けられていた。

船を着陸させた運転手、ルイージはほっとため息をつき、肩を回した。
ただ乗り回す程度なら誰でも扱えるように設計されているとはいえ、5人もの仲間と重大な任務を任されて緊張しっぱなしだったのだ。

一方、開け放たれたハッチからはさっそく数人のファイターが飛び出し、アーウィンの元に向かっていく。

アーウィンは、少し斜めにかしいで佇んでいた。
翼の折れた側を下に向けていたが、肝心の破片は見つからない。
おそらく、翼は墜落より前の空中戦で失われたのだろう。

白い胴体と主翼、そして翼を挟むようにして青いレーザー砲が2門。どれも鋭く尖ったシルエットを持っている。
大気圏でも高速度飛行ができるよう、そのデザインは先鋭で無駄がない。
極限まで薄く細くされたこの戦闘機がそれでも不時着の衝撃で大破しなかったのは、
操縦者と設計者の技術力だけでなく、展開されていたエネルギーシールドのお陰でもあった。

真っ先に駆け寄ったフォックスが主翼の付け根を飛び越え、船体の横腹、そのどこかにあったスイッチを叩く。
するとすぐに、空気が漏れる軽い音と共にキャノピーが開いた。

飛びこむようにして乗りこみ、彼は座席に足をかけたまま船の目を覚まさせる。
モニターに束の間砂嵐が現れ――そして焦点を結んだ。

現れた膨大な計器異常の表示は一旦無視し、フォックスは続いて自己診断プログラムを走らせる。

無意識のうちに息を詰めて数十秒を待つ。

返ってきた結果を見て、ようやく彼の顔から緊張が消えた。
修理機械を引き連れてやって来た仲間達を振り返り、こう伝える。

「中枢のシステムは無事だ! 翼さえ直れば飛べる!」

ちょうどその頃、サムスはマザーシップの操縦室にいた。
例のごとくいくつもの仮想モニタを周囲に展開させ、じっと腕を組んで考え込んでいる。

モニタには彼女にしか理解できない数字と文字の海が広がり、
見ている間にもなだれをうって新しい文字列が現れ、古いものを上へ上へと追いやっていく。

それは、昨日ピットが見つけてきた黄色い板、あの記憶媒体に含まれていたデータの解析結果であった。

――しかし、盲点だったな。

彼女は心中で呟く。

今まで人間側とエインシャント側、双方の施設に潜入し徹底的に調べてきたつもりだった。
だが見落としていたものがあったのだ。

それは、文化の違い。

彼女はこの世界の人間達が残したデータを堅固な筐体やネットワークへのアクセスポイントに求めていた。
無意識のうちに、彼女の常識を持ち込んでしまっていたのだ。
彼女の世界では磁気で記録されプラスチックで保護された記憶媒体などあまりに脆弱すぎて、とっくの昔に忘れ去られていた。

しかし、ここの人々はあくまでそれを使い続けることにこだわったらしい。
技術を開発し改良に改良を重ね、この薄っぺらい記憶媒体を今日この時まで生きながらえさせたその努力は賞賛されるべきだろう。

実際、この黄色い媒体はまだ生きていた。
室内とはいえ埃を被り、気密も保たれていない環境にありながら
数百年と想定されている経過年月をまるで無視して内部のデータを保っていたのだ。

滝のように流れる解析結果を眺めていたサムスは次の段階へ、エンコードの指示を与える。

文字の波が一瞬動きを止め、暗緑色の背景に消えた。
少しあって入れ替わるように四角い窓が現れる。

明るい室内。デスクに座る人影、おそらくは男。彼を床から見上げるような視点の絵。
いや、それは動画だった。見ている間にも男性が身振りを交え、こちらに向けて何かを話しかけてくる。
音もついていた。サムスは音量を上げなかった。耳に入るそれは全く異国の言葉で、このままでは聞く意味がないと判断したのだ。

「AI、音声データの翻訳を頼む」

画面から目を離さず彼女が言うと、

『了解しました』

天井の辺りから人工の音声が応えた。

最先端の人工知能を積んでいるとはいえ、数分しかないデータの翻訳には時間が掛かるだろう。
完了を待つ間サムスは動画に映る男性、彼の身振りや表情を注意深く観察し、彼の言わんとしていることを読み取ろうとした。

年齢は、こちらの見立てが通用するのなら50を過ぎた辺りだろうか。
髪はおおかたが黒いが、年齢の割に白髪が多い。
白衣を着こんでいる。本棚の並ぶ室内の様子からして、彼がいるのはおそらくピットがこれを見つけてきた部屋と同一だろう。
彼の顔は、憂鬱そのもの。明らかに動揺を隠せておらず、額に手を当てたり彼方をじっと見つめて黙り込んだりと落ち着きがない。

と、カメラが大きく揺れた。
男性は席を立ち、異変が起きたらしい方向を凝視する。
ほどなく別の若い男がやってきて、凍り付いたように動かない男性の肩を叩き、何かを伝えた。
男性は気を取り直し、頷くとこちらに手を伸ばし――データはそこで終わっていた。彼がカメラを止めたのだろう。

サムスは、スーツに包まれた手をゆっくりと顎に当てる。
当たりだ。それも、大当たりかもしれない。
このデータは、都市がエインシャントの攻撃を受けたその時に撮られたものだろう。
男が話している内容も、おそらくはそれに関わることに違いない。

そこまで考えていたところで、背後で誰かが呼ぶ声がした。

振り返ると、入り口に立っていたのはピーチ。
彼女はこちらにちょっと手を振って見せ、こう言った。

「それじゃあ、私達は行ってくるわ」

「行ってくる……どこへ?」

怪訝そうに聞き返すサムスに、彼女は答える。

「もちろん、砦の探索よ。私達がついてるから、あなたはゆっくり休んでて」

「こちらの用事はすぐ終わる。待っていてくれ」

と言ってヘルメットを被りかけたサムスを、ピーチは留めた。

「だめよ。だって、あなたここに来てからずっと動きっぱなしじゃない」

そして少し表情を和らげ、こう続けた。

「これは命令じゃなくて、私のアドバイスよ。
やっと休みが取れたんだもの、ちょっとくらい休んでもバチは当たらなくってよ」

そう茶目っ気たっぷりに人差し指を立て、片目をつぶってみせる。
そこまで言われてはサムスも引き下がるしかなかった。
彼女の思いやりを受け入れ、頷く。

「では、今日は私はここに残ろう。くれぐれも気をつけて探索するように」

「ええ! もちろんよ」

彼女はにっこりと微笑み、そう応えた。

修理機械はアーウィンのデータベースにアクセスしてすぐに設計図を把握し、作業を開始した。
別世界に属する機械の修理を命じられるのだから手こずる可能性もあるだろう、そう危惧していたファイター達はその様子を見て安心した。
数ある世界の中でも一、二を争う高度な科学文明の機械からすれば、戦闘機の修理など朝飯前だったらしい。

修繕に使われる鋼材は、崩壊した塔から持ってきたなめらかな光沢を持つ黒い金属。
マザーシップの損傷はすでに9割がた直っていたので、ありったけの鋼材を偵察船に積んできている。
折れた翼の断面を分析し、利用可能な部分だけを残して修理機械はきびきびと溶接していった。

その間、ファイター達は数人を現地に残して偵察船に乗り、"鳥"の捜索に出ていた。
だめで元々だが、墜落現場の確認だけはしておきたかったのだ。

フォックスの記憶によれば、方角は爆弾工場の北西。
偵察船にも保存されている立体地図を頼りにしばらく飛行し、彼らはついにそれを発見する。

砂漠に長々と刻まれた谷。その跡を目で追うと、まもなく黒々とした物体が地平の向こうから見えてきた。
船体を大きく引きずって砂の中に横たわるそれは、忘れもしない漆黒の巨鳥。
しかし、そのシルエットはあの時と少し違っていた。

広げていたはずの翼はぎゅっと折りたたまれ、機体も全体的に縮んだように思える。
本来の姿、塔の最上部の形に戻りつつあるのかもしれないが、
同時にその様子はあたかも鳥が背中を丸め、苦痛にじっと耐えているかのようにも見えた。

近づくにつれ別の事実も分かった。
"鳥"は、まだ生きていた。

正しい形を見失った翼をぎこちなく羽ばたかせ、飛ぼうとしているのだ。
しかしその動きはあまりにも緩慢であり、もはや何の役にも立っていない。

用心深く接近したが鳥は反撃の様子をちらとも見せなかった。
乗組員がいなくなったからかもしれないし、もし鳥自体に意識があるとしても、もはや外界を認識できていないのかもしれない。

機体の先端部は二つに裂けていた。それは見る者の目に、苦悶の声を上げるくちばしのように映った。
黒一色の全身からは、あの白色の粒子がふわふわと立ち上っていた。

この巨鳥をここまで痛めつけたのは何者か。なぜ、墜落したのか。
そんな疑問も皆の頭をかすめたが、今の彼らにはそれよりも気がかりなことがあった。

偵察船が着陸すると、ファイター達は真っ先に巨鳥の腹部へと向かった。
そこが格納スペースのはずであり、遠目からでもそのハッチが開いているのは見えていた。

しかし、腹の中は空っぽだった。

「やっぱり間に合わなかったか……」

悔しさと共に呟き、ルイージは暗い船内をのぞき込む。
だがどれほど目を凝らしても、がらんどうの暗闇には宙を舞う砂埃しか存在しなかった。
床面をのたくっていた金属のツタにはすでに光はなく、くわえ込んでいた台座の跡が円形の浅い穴として残されていた。

万が一。もしかしたら、まだエインシャントは墜落に気づいていないかもしれない。
そんな淡い期待は打ち砕かれ、ファイター達はそれぞれに、横倒しの船内で佇んでいた。

その沈黙を破ったのは、マリオだった。

「おーい! みんな、来てくれよ!」

ハッチから身を乗り出し、指差す先。
彼のもとに集まったファイター達はその方角を見る。

砂地にうっすらと、だが途切れることなく続く2本の線。
開け放たれた鳥の腹部から続き、それは地平線の彼方へと真っ直ぐに伸びていた。
車輌の通った痕だ。それも、明らかに新しい。

彼らが考えたことは同じだった。

「あいつらもバカだなー! 足跡残してくなんて」

リンクはそう言った。その顔は、見通しが開けた喜びに輝いている。

「無理もないだろう。
おそらく、我々が追跡できるとは思っていないのだ」

冷静に状況を分析しているのはメタナイト。

「だが、フォックスの飛行機が直ったらそうはいかないぞ!
絶対に追いついてみせるからな、待ってろよ!」

自分が追いかけるわけではないのだが、マリオは意気込んで地平線を見つめ、腕を組んだ。

夕闇が迫っていた。

昨日リュカ達が進んでいたフロアよりも1階層下。
ピーチは陰りはじめた窓の外を見やり、そして無線通信機の時刻表示を見た。
小さな声で、前を歩くリュカに声を掛ける。

「今日はこの辺にしましょう」

リュカは少し驚いたように顔を上げ、そして振り返る。
よほど集中していたのだろう。二、三回目を瞬いて、ようやく彼はこう言った。

「すいません、昨日はよく聞こえたんですけど……」

申し訳なさげにやや俯き加減になって謝る彼を、ピーチは取りなす。

「あなたのせいじゃないわ。
時間はまだ十分あるもの。続きはまた明日。今日はもう戻って休んだほうが良いわ」

そう伝えるとリュカは小さく頷いた。

幅の狭い階段を、大ホールのある階層まで昇っていく。
細長い階段はフロアごとに折り返しを挟みつつずっと上まで続いており、段の表面にはいくつもの細かい溝が走っていた。
いつかの探索の時に、リュカはマリオがこう言っていたのを覚えている。

「まるでエスカレーターみたいだな。
 電気が届いてたなら、勝手に動いて上まで連れて行ってくれたんだろう」

動く、とはどういうことなのだろう。
きっとこの段が人を乗せてどんどん上に昇っていくのだろうけれど、そうしたら上まで昇りきった段はどこに行ってしまうのか。
リュカは、特にすることもない帰り道でそんな疑問をじっと考え込んでいるのだった。

今日は3人横並びになって、動かないエスカレーターを昇っていく。
薄暗い帰り道。聞こえるものと言えば3人分の個性を持った足音ぐらい。

「ねー、きょうの夕ごはんなにー?」

「ふふ、帰ってからのお楽しみよ」

先ほどから、親子のような会話を交わしているカービィとピーチ。
そんな2人の様子を見ながらリュカはこう思っていた。

――まるで、本物の家族みたいだなぁ……

それはマザーシップに来たときから感じていた。
マリオとルイージ、そしてピーチのように同じ世界から来た者同士に限らず、
一度『スマブラ』で暮らしたことのあるファイター達は、皆一様に仲が良いのだ。

いや、仲が良いという簡単な言葉で片付けてはいけないのかもしれない。
親友や、それこそ家族のように互いの人となりを知った上でつきあっているのだ。
それはきっと、『スマブラ』で過ごした日々の賜物。一緒に暮らして、時に闘って、そうして得たつながりなのだろう。

リュカは静かに、決意を新たにした。
道のりは大変かもしれない。でも、僕も必ず『スマブラ』へ行く、と。

――そのためにも、早く手がかりを見つけなくちゃ。

そして何の気なしに、あとにしてきた方角、後ろを振り返った。

"…………"

足が止まる。

「リュカ、どうしたの?」

彼の様子に気がついて、ピーチが聞いた。

少しの間を置いて、彼はなかば呟くような声で答える。

「……誰かいます。たぶん、あれは……」

闇の向こうを凝視するリュカ。
彼の見つめる先に、ぽつりと、赤い光が現れた。

折しも天球を覆っていた雲が晴れ、窓から差しこんだ光がその正体を露わにした。
バズーカを携えた緑帽。久々に見る、人形兵だった。

気がつけば、隣の2人はすでに行動を起こしていた。

まずカービィがピーチの前に出る。
察して彼女は傘を振りかぶり、ゴルフよろしくカービィを打った。

弓なりに宙を飛び、人形兵のいる下のフロアへと落ちていくカービィ。
頭上に来たところで彼はピンク色の岩に変身し、人形兵を押しつぶしにかかった。"ストーン"のコピー能力だ。

対し、人形兵はぽかんとそれを見上げるのみ。
のしかかられてようやくカービィを敵と認識したのか、下敷きになりながらもその不自由な姿勢でバズーカを構えようとした。

だが、すかさずピーチが投擲したカブに頭を打たれ狙いははずれる。
慌てている間に、変身をといたカービィがとどめのハンマーをふるい緑帽は呆気なく倒されてしまった。

白い光がふわふわと舞い上がるのも放っておいて、一段一段跳ねるようにしてカービィが戻ってくる。

「驚いたわ……サムスの言うとおり、まだ残っている兵士がいたのね」

そう言うピーチの顔には、不意を突かれた驚きはない。
むしろ、予想外のことが起こって可笑しく思っているようであった。

リュカは何も言わず頷くだけにした。
彼らが何気なく見せた完璧なチームワークに目を奪われていたのもあったが、感じとった人形兵の原始的な思考がまだ心に残っていたのだ。

あの緑帽は、ただ純粋に困惑していた。
目の前に現れた3人を、敵とも味方とも区別できなかったためだ。
ファイターがこの世界に来る前、きっとこの都市が征服される時にやってきて、そのまま閉じこめられてしまったのだろう。

敵とはいえ、混乱しているうちに倒されてしまった緑帽のことをリュカは少し気の毒に思うのだった。

それからしばらくして、リュカはカービィと共にマザーシップ船内の廊下を歩いていた。
少し先を行くカービィは頭の上にお盆を乗せており、そこには今日の夕食が並べられている。
固めに焼き上げたパンに具だくさんスープ、メインはミートローフ風の肉料理だ。
どれも元は冷たく凝り固まった保存食なのだが、言われても目と舌を疑うくらいの出来映えである。

カービィが歩くたびに深皿のスープが危なっかしげに揺れていたが、際どいところでこぼれずに済んでいる。
後ろを歩くリュカは気が気ではなかったが、カービィがどうしても持っていくと言って聞かなかったのでへたに手を出すこともできなかった。
格納庫の扉に辿り着き、そのまま彼が突っこもうとしたときにはさすがに慌てて前に出て、扉を開けてやったが。

「ばんごはん持ってきたよ~!」

元気よく呼びかけるカービィ。彼よりも少しだけ背の高いリュカは、欄干越しに作業をするサムスの後ろ姿に気づいた。
格納庫の一階部分で、青白い稲妻を飛び散らせる小さな檻を前にかがみ込み何やら細かい手作業をしているようだ。
電光の騒がしい音で気がつかないだろうかと思われたが、ちゃんと聞こえていたらしい。彼女はこちらを振り向くとこう言った。

「ああ、わざわざすまないな。そこに置いておいてくれ」

「わかったぁ!」

そう応えてお盆をキャットウォークの床に置くが早いか、カービィは鉄板の階段を賑やかに踏みならして降りていった。
彼をここまで見守っていた延長線上のような気持ちで、リュカもその後を追いかける。

「何してるの?」

サムスの傍らに辿り着き、カービィはその手元をのぞき込む。
後からやって来たリュカは、檻の中に何かが置かれていることに気がついた。

「仮説の検証だ。君達が探索に出てくれたおかげで暇ができたからな」

そう答えてサムスは立ち上がり、その手に持った小さなリモコンのスイッチを押して見せた。
すると檻に流れていた電流がぷつりと音を立てて消え、中の様子が明らかになった。
透明の筒に入れられた黄色く薄っぺらい人形。この間捕まえられた敵の新しい兵士、影蟲が変化した人形兵だ。

紙の切り抜きみたいな姿をした人形は、先ほどから筒に向かって体当たりを繰り返していた。
向こう側にファイターがいることを分かっており、ただただ襲いかかろうと必死になっているのだ。

「また実験ですか?」

リュカが問いかけると、サムスはヘルメットの向こうで一つ頷いた。
その隣でカービィは床に腹ばいになり、檻越しに人形兵にこう話しかけていた。

「きみもかわいそうだねー。つかまっちゃったばっかりに色んなしごとさせられちゃって」

何しろ、この影蟲は筒に閉じ込められてからこのかた、人形兵の性質の解明を望むサムスによって日夜実験に掛けられているのだ。
透視検査に始まり、耐熱・耐冷試験、聴覚や視覚など認識能力のありとあらゆるテスト……
影蟲が何度でも人形兵として甦るとはいえ、そして自分たちの今後に関わる大事なこととはいえ、傍で見ていると居たたまれなくなってくるのも事実だった。

「塵に帰されるよりはましだろう」

そう答えたサムスの声も、どこかわざとらしくそっけなかった。

再び檻に電流が流される。青白い光が弾け、束の間3人の顔を明るく照らし出す。

「少し下がっていてくれ」

言われるままに後ずさって檻から離れたリュカとカービィは、サムスの次の行動に思わず目を丸くした。
おもむろに檻の隙間から片手を差し入れると、影蟲を閉じ込めていた筒の蓋を取り去ったのだ。

檻からの電光をスーツの表面に走らせて、彼女はそのまま透明な筒を傾けて中の人形を出してしまう。
そこで後ろにいる2人は、やけに人形がおとなしいことに気がついた。
電流の流れる檻の床に転げ込んだ紙人形はもたもたした動きで起き上がると、こちらに気がついた様子もなく檻の中をうろつきはじめた。

「見えてないの?」

先ほどの様子とは大違いの人形を見つめ、驚きに目を見開いたままカービィが聞いた。
檻の前にしゃがみ込み、こちらも人形兵から目をそらさずにサムスは答える。

「いや、中枢との通信が途絶えてしまったのだ」

「つうしん……?」

不思議そうな声を上げ体を傾げたカービィに、サムスは説明をはじめた。

「以前私は、人形兵は1体1体が自分で考えて行動を決める、つまり自律型の人工生命だと予想していた。
だが、これが捕まってから多くのことが書き換えられている。
彼らの体は内部構造らしいものを持っておらず、いわば綿の詰められた人形のような体をしている。骨格はおろか、脳らしきものさえ見あたらない」

「のうなしなの?」

「そうだ。
人形兵にはそれなりの状況判断能力があり、互いに連携し合い、高等なものに至っては簡易的な指揮まで行う。
そうして私達を敵と認識して襲ってくるにも関わらず、彼らにはそれを演算するはずの中枢が体内に存在しないのだ」

そう言って、サムスは立ち上がった。
腰に片手を当てて立ち、檻の中でのろのろと動き回る小さな人形兵を注意深く見守りながらこう続ける。

「その代わりにぎっしりと詰められているのは事象素。
この世界のあらゆるものを造り出せるが、外部からの刺激なしには何をも形成しない徹底して受動的な粒子だ」

すっかり話に聞き入っていたリュカは、そこでほぼ独り言のようにして呟いた。

「外からの刺激……つまり……」

その先を読んだかのように、こちらに背を向けて立つサムスがあとを継いだ。

「彼らの中枢演算装置、脳は外にある。
おそらくはエインシャントの拠点に置かれ、何千万という人形兵の行動プログラムを発信し続けているのだ」

そこで紙人形がふらふらと檻の外に出かけたが、サムスはそれを見逃さずすぐにかがみ込むと手に持った筒を上から被せた。
そのまま傾けて筒の中に落とされ蓋をされても、人形兵はその間まったく抵抗することもなくおとなしくされるがままになっていた。

再び筒に閉じ込められた人形兵を、サムスはゆっくりと檻の隙間から引き出した。
彼女の言葉を裏付けるように、人形は檻の電光を離れた途端にスイッチが入ったように活発に動き始めた。
こちらに飛び掛かろうと筒の壁にぶつかってははね返され、それを延々と続ける。
それを確認すると、彼女は再び筒を檻の中に戻した。

嘘のようにすっかりおとなしくなってしまった人形を冷静に見つめ、彼女は言葉を継ぐ。

「人形兵は事象素でできたナノマシンの集合体、とも言える。
どこか外部にある中枢の信号を受けることで粒子が神経ネットワークを構成し、人形兵としての思考と判断を可能にするのだ。
だから信号が更新されなければ、君達が今日出くわした緑帽のように敵を認識できず、
信号が完全に途絶えてしまえばネットワークは崩れ、彼らは無目的な行動しかできなくなる」

後ろに立つ2人は揃ってぽかんと口を開け、しばらく何も言えずにいた。
目の前にある檻は厳めしいまでの電光を発してはいるものの、その骨組みはあり合わせの鉄材で作った寄せ集めだ。
継ぎ目があちこちにあるいびつな立方体。そんなもので人形兵が動けなくなってしまうとは信じがたいが、しかし目の前にある光景は紛れもない現実だった。

「これって……すごい発見じゃないですか」

やっとのことでリュカはそう言った。
しかし、首を横に振る気配があってしゃがんだままこちらを向き、サムスはこう答えた。

「……実戦には応用できない。残念ながらな」

それまでの静かな熱が込められた口調からは打って変わって、彼女の声は少しトーンを落としていた。

「遮蔽装置の出力では、この程度のサイズの人形兵を押さえ込むのが精一杯だ。
加えて相手は数で掛かってくる。その1体1体に対してわざわざこんな装置を作るよりは、私達で倒していった方が早いだろう」

こちらもちょっと残念そうな表情になって、カービィがこう言った。

「うーん。なにかに使えればいいのにね……」

砂漠にも夜が訪れていた。
人形兵の巡回を警戒し、アーウィンの周りには必要最小限の明かりしか焚かれていない。

修理が終わるのはどのくらいか。尋ねたフォックスに、修理機械は腹部の液晶画面でこう解答した。

『想定 単位時間ニシテ アト12時間』

「12時間! ずいぶん早いな」

目を丸くするフォックス。
主な作業は折れた翼を直すことであったが、その内容は言うほど簡単なことではない。
撃墜によって失われてしまった翼部の電子基板や、過負荷で焼き切れてしまった細かな回路なども修理しなくてはならないのだ。

対し、直立した節足動物を思わせる機械は何も反応を返さず補修作業に戻った。
彼の言葉を自分に対する呼びかけとして認識しなかったのだろう。

「早いかなぁ。だって今から半日って言ったら、出発できるの明日の昼だろ?」

そう不満げに言ったのはリンクである。
ため息をついて、彼はさらにこう続けた。

「せっかく車輪のあとが残ってるのに、これじゃぁ夜のうちに風で消えちまうよ」

「大丈夫だ。万が一消えてしまっても、後を追うことはできる。
相手は急いでいるからな。追跡を想定してないだろうし、障害物のないこの砂漠でわざわざ直線以外のルートをとるとは思えない。
どちらにせよ方角は分かっているから、後はこちらもそれに従った進路を取ればいい」

「うーん……。
ま、それもそうだよな」

フォックスの論理だった説明にリンクは納得し、頷いた。

天球の光もすっかり弱まり、砂漠の空気は真夜中に向けて一気に冷え込んでいく。
ファイター達は暖を取れる船内に戻り、狭い中でも場所を分け合って遅めの夕食を取っていた。

マザーシップに積み込まれていただけあって、渡された保存食はどれも無重量空間でも食べられるような形になっていた。
具体的には、透明な袋に食べ物だけが密封され、そのままの形かあるいは沸騰させた水を加えてから食べるものばかり。
味はまあまあといったところ。水気は少なく、妙にとろみのついたものが多かった。

フォックスが説明した言葉によれば、「水滴が舞い上がって計器を故障させないように」なのだそうだが、
宇宙空間に出たことなどないリンクやピットには、いまいちぴんと来ないのだった。

「その、水が空を飛ぶってどういうことだ?
キカイからなるたけ遠く離れたり、跳ね散らかさないように気をつけて食べれば良いんじゃないのか」

「それ以前なんだ。
一度跳ねてしまうと、こういう通常の重力がある空間とは違って水滴はいつまでも宙に留まってしまう」

「宙に留まるぅ?」

声を裏返らせるリンク。だが、大げさな反応のわりにはフォックスの話に関心を寄せている様子でもあった。
隣のピットも、何も言わないまでもちょっと目を丸くして続きを待っている。

「そうだ。
まずは重力について話そうか」

突発的に始まったフォックスの物理学講義。
真剣に聞く生徒2人の様子を見物していたマリオは、ふと会話の輪から外れたところに仲間の姿を見つける。

彼は、マントを被る背に声を掛けた。

「なぁ、君は食べないのか?」

相手は、メタナイトは振り返りひとつ頷いた。

「すでに夕食は済ませている」

また誰もいないうちに隙を見つけて食事を取ったのだろう。
ご苦労なことだなぁ。口に出さないまでも、マリオはそう思った。
素顔を見せないことにどんな理由があるか詮索する気はないが、少しくらい気を楽に持っても良いんじゃないか、と。

それを言う代わりに、彼はこう言った。

「明日の昼、出発だからな。
今のうちにしっかり食べておいたほうが良いぞ」

相手は無言のまま頷きを返し定位置の搭乗室に戻りかけたが、ふと思い出したようにこう尋ねてきた。

「時に、明日の作戦は?」

「作戦……?」

マリオは完全に不意を突かれ、そのまま言葉が続かない。
向こうの方もそんな反応が来るとは思っていなかったのか、しばらく間があって、

「……まさかとは思うが、貴公、計画も無しにあの工場へ挑むつもりなのか」

妙にかしこまった口調で問い返してきた。

「あ、ああ。特にいらないだろ。4人もいれば、とりあえず臨機応変にやっていけると思うんだが」

頭をかきつつ、マリオは正直に自分の思うままを述べた。
対し、メタナイトはしばらく床の方へと視線をそらし、何事か考え込んでいるようだったがやがてこう言った。

「確かに、貴公の故郷ではそれで通じるのだろう。
しかし今は状況が違う。もう少し慎重に進むべきではないか」

見かねて、ルイージが意見を出してくれた。

「それじゃあこうしよう。工場に着いたら、それぞれ手分けして進むんだ。
工場の左半分と、右半分。そうすれば半分の時間で探索が済むよね」

「確かにな!」

マリオは素直に感心を表し、頷いた。

「明日の目的はとりあえず、あの爆弾について調べること。
物騒な手下もいることだし、長居は無用だな」

「同感だ。今回の場合、敵方に悟られないことが肝心だろう」

メタナイトもルイージの意見に納得したようだった。
二手に分かれるなら、必然的にマリオとルイージが組むだろう。
彼らには彼らなりのやり方がある。ここはそれを尊重して、好きなようにさせる方が良い。

後は、自分と組むはずの相手に確認をするだけ。

「ピット、少しいいか?」

重力についての講義が佳境に入ったようで、フォックスが航中日記をノート代わりに何やら図を描いて説明している。
ピットはリンクと共にそれをのぞき込んでいたところだったが、声を掛けられた彼の反応は速かった。

「はい! あ、明日のことですね?」

真剣な顔をして集まっている3人の様子を見て話の内容を察し、ピットは静かに3人の輪から離れてこちらにやってきた。

計画の概要を伝え、続けてメタナイトはこう尋ねる。

「私の武器はこの剣のみだ。
遠距離の戦法が無いわけではないが、隙が大きい。
そこで弓を扱える君を援護につけたいのだが、構わないか?」

ピットは真摯な表情で頷いた。

「ええ、任せてください」

それから、彼は3人に向かってこう聞いた。

「ところで、二手に分かれて探すことは分かりましたが、その当てはあるんですか?
つまり、どこに僕達の探す情報があるのか。以前壊した工場ほどじゃありませんが、あそこはなかなか広いですよ」

主に視線が向けられていたのはマリオの方だったので、彼は腕を組んで考え込む。

「うーん、そうだなぁ。
とりあえずは爆弾の実物があるところ、1階にあったっていう製造ラインだろうけど」

その隣から、ルイージがこう言った。

「設計図もあれば良いよね」

「そうだな、設計図があればカンペキだ。
どういう材質でできてて、どうやってあの得体の知れないもやもやの暗闇を作り出すのか。それが分かるからな」

今のところ、あの爆弾への対処法としては"いち早く発見し全力で逃げる"他ない。
あれだけ強力な兵器だ。今後もエインシャントは使ってくるだろう。
決戦の日に備え、少しでも相手の手の内を知っておく必要がある。防御する対策や、破壊する方法が見つかれば言うことはない。

「でも、そういうのってどこに置いてあるもんかなぁ」

マリオが疑問を投げかけると、すぐに答えが返ってきた。

「紙面の形で保管されているのなら、資料室かそれに類する部屋だろう。
見つからなくとも、製造ラインの中央制御室には電子情報として保存されているはずだ」

落ち着いた声でメタナイトが言う。
瞑っていた目を開き、マリオに向き直ると彼はこう続けた。

「設計図の方は私に任せてもらおう。敵施設での制御システムの呼び出しは以前試したことがある」

「そうだな、そうしてもらえると助かる。
それじゃあ、制御室は君達に任せるからな」

「承知した」

「了解です!」

2人は、冷静と熱意、全く正反対の調子で同時に返答した。

「で、ルイージ、俺達は爆弾の方をやるぞ」

マリオが傍らの弟に伝えると、ルイージはいつもの控えめな笑みを返してこう言った。

「了解。兄さんについて行くよ」

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最終更新:2016-01-04

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