気まぐれ流れ星二次小説

“リストラ組”と呼ばないで

スマブラDX解散式の翌日。

大人達が二日酔いに苦しみながら起きる頃
ネス、カービィ、そしてピカチュウとピチューは
めいめい荷物を持って城の外を歩いていた。

「みんな、忘れ物はない?」

先頭を歩くネスが振り返り、声を掛ける。

「うん!」「無いよー」

「次のスマブラが開かれるまで、みんなとお別れかー…」

と、ネスが寂しそうな顔をすると、ピカチュウが

「でもネス、これで家に帰れるよ?」

と、いたずらっぽく笑った。
背中にはピチューと自分のリュックが乗っかっている。

「それは嬉しいけどさ…
もうちょっとここに居たいなぁって気持ちもあるんだ」

「ぼくも同じ!」

と、応えたのはカービィ。

「でもプププランドにも、ぼくを待っている友達がいっぱいいるからね!」

「ということは、その包みの中は友達へのお土産?」

ネスは、カービィの引きずる、彼よりも二回りも大きい包みを見て言った。

「ううん、帰りのお弁当だよ!」

「新しいスマブラにはどんなひとが来るのかなぁー?」

森にさしかかり、木立の中を行きつ戻りつ走り回っていたピチューは
ふと立ち止まって言った。

「ファイターを決めるのはマスターさんだから、どうなるか分からないけれど…
僕らと同じくらいの年の子が来たら嬉しいね」

「うん!遊ぶなら一人より二人、二人よりいっぱいだよ!」

「それ、どこかで聞いたなぁ…」

「…決めた!
ガノンさんみたいなひとが増えても大丈夫なように
ぼく、大きくなって戻ってくる!」

ピチューはしっぽをピンと立てて言った。

「おぉーっ!頑張れピチュー!」

「少なくともカービィより大きく、重くなんなきゃね」

「そう!打倒ガノンのおじさんだよ!」

「そうだ、次に来るとき、どのくらい大きくなったか分かるように
何か残しておかない?」

「いいね!
じゃあ…この木に身長を刻んでおこうよ」

「城から近いし、クレイジーさんの破壊は免れるんじゃないかな」

「ぴったり足を合わせて…背伸びしちゃだめだよ」

「分かってるもーん!」

「じっとしてて…よし、出来たよ」

ネスが指先に発生させた電撃で、木に線が刻まれた。
自然に出来る傷と見分けがつくよう、更に『DX』の文字も付け加わる。

「へぇ~、これがぼくの大きさかぁ…
思ったよりも小さいなぁ…」

「大丈夫、ピチューはこれからまだまだ大きくなるよ」

「本当?兄ちゃん」

「好き嫌いしないでご飯を食べて、早く寝たら、ね」

「うーん、そっかぁ…」

4人はついに、各世界への分かれ道に着いた。

「トキワのもりはこっちか…ピチュー、行くよ」

「えぇっ、もう行くの?
もう少し遊んでたいよぉ…」

「だめ!クレイジーさんの仕事の邪魔になっちゃうよ」

「クレイジーさん怒ると恐いよ~っ!」

「うぅ…わかったぁ…
…兄ちゃん、待って~!」

ピチューはしぶしぶピカチュウの方に歩いていった。

「カービィー、ネスー!バイバーイ!」

ピチューは途中で振り返り、小さな手を精いっぱい振った。

「こういうときは、またね!って言うんだよー」

「あっ、そうか!またねーっ!」

カービィとネスも大きく手を振り、兄弟が見えなくなるまで見送った。

“Three…two…”

マリオ達の世界に近い空間に位置するステージ、『ドルピックタウン』。
秒読みの開始と共にステージ上に4人のファイターが現れた。
2対2のチーム戦だ。

「足を引っ張るなよ、おっさん」

「…わかってるさ」

「よろしく頼む」

「Take it easy!気楽に行こうぜ」

チームで短い挨拶を交わし、試合開始の合図を待つ。 “Go!”

その時、遠距離支援に回るためステージの端にいたスネークは、
上空に5人目のファイターが現れるのを目にした。

「ム…?!」

ウルフに先制攻撃を浴びせようとしていたソニックも
その光に気がつき、2段ジャンプで乱入者の前に立った。

「Hey!今は試合中だぜ…って子供じゃないか!」

小さな乱入者はソニックを睨みつけ、こう言った。

「…ぼくとバトルするです!」

「それで乱入者は制止も聞かずに乱闘をした…と」

サムスはバイザーの向こうから言った。

「はい、そうです。
おかげでこのスタジアムの試合予定はめちゃめちゃですよ」

試合スケジュールの管理をしているMr.ゲーム&ウォッチは
ため息らしい電子音を鳴らした。

「ステージの掃除が終わったらすぐ試合を始めるので
もう少し待ってて下さい」

乱入事件のあったドルピックタウンには、目撃者のうち2人と
Mr.ゲーム&ウォッチ、次にそこで試合をする予定だった
サムス、ピカチュウ、ゼルダ、ネスの4人、そして幾人かの野次馬が来ていた。

「しかし、その乱入者はなぜステージへの入り方を知っていたのでしょう…。
…もしかすると乱入者はファイターの誰か…?」

と、ゼルダがつぶやく。

「いいや、見たことも無いやつだった。
…だが、あの坊やはピカチュウに似ていたな…」

スネークが考え込むと、

「えっ、本当…?!」

近くにいたピカチュウが耳を立てた。

「ああ。ただ…耳がひし形だったような…。
坊やと一番長く戦っていたソニックならもう少し特徴を覚えているだろうが、
あいつは帰っちまったしなぁ…」

「耳がひし形…?!
…それ、ピチューだ!」

「あ~あ、前回ファイターだったやつか」

ウルフが鼻で笑い、言った。

「攻撃パターンはピカチュウとほとんど同じ。
あれじゃあリストラされちまうのも当然だな」

「…そんなこと言わないでよ!」

ピカチュウは両頬から小さく、青白い電撃を放った。

「怒ってる場合じゃないよ、ピカチュウ」

ネスがピカチュウを止めた。

「今ソニックさんと電話したんだけど、乱入したのは確かにピチューだ。
彼は捕まる前にステージから降りて、町中に逃げこんだそうだよ。

しかも、戦っているときに彼が言っていたことを聞くと、
どうやら『X』で新しく入ってきたファイターを狙っているらしい。
今、他のスタジアムに向かっているかもしれない」

「…そうか…そうだね。
早く止めないと…!」

ピカチュウはそう言い残し、走り去った。

「ゲーム&ウォッチさん、すみませんが次の試合、
僕とピカチュウを抜かして行ってもらえますか?」

「人数が減るのなら大丈夫です。
必ず彼を止めてください」

ネスもピカチュウを追い、ステージを抜けた。

2人がステージからワープした先は、城の待合室。
乱闘をするファイターは必ずここにあるワープ装置でステージに向かう。

試合直前や試合中のステージに上がるにはここからでないと行けない。
また、ピチューが逃げこんだドルピックタウンからここまでは時間がかかる。
つまり、ピチューを捕まえるならここで待つのが良い。

ネスはそう読んでいた。

ピカチュウが待合室の入り口で待っていると、やがて小さな足音が聞こえてきた。
ドアがゆっくりと開き、現れたのは果たして、彼の弟ピチューだった。

「うわっ…に、兄ちゃん?!」

ピチューは慌てて逃げようとしたが、後ろにはネスが立ちふさがっていた。

「…ぼくはまたファイターになるためにここに来たんだ。
…邪魔しないでよ…」

「ピチュー…もう他のひとに迷惑を掛けるのはやめるんだ!」

「気持ちは分かるけど、君のやってることは良くないことなんだよ」

自分の兄と友達に諭されても、ピチューの表情は険しいままだった。

「…こうでもしなきゃ、マスターさんに思い出してもらえないんだっ!
『X』の新入りに勝って、ぼくの強さを見てもらわなきゃ!」

「ピチュー…」

 スマブラXが開かれ、ファイターが集められたとき
 そこには5人の姿が欠けていた。

 マスターハンドが、今回その5人が選ばれなかった事を伝えると
 『DX』の時のメンバーはどよめいた。

 ピカチュウやマルス、リンクがマスターハンドに詰め寄ったが、彼は無言で去り
 クレイジーハンドも普段聞かない沈んだ声でこう言っただけだった。

 「わかってくれ…、な?」

「…ピチュー。
2人でマスターさんのところに行って話をしよう」

「…?!…ピカチュウ?」

「ただし、僕に勝てたらの話だ。
僕に負けたらおとなしくトキワのもりに帰って、スマブラのことは諦めるんだ。
…いいな?」

「…うん」

ピチューは真剣な顔で頷いた。

“えっ?今空いているスタジアムですか?
…ちょっと待って下さい。
……空中スタジアムが空いてますが、観客の入場まであと10分です”

「構わないよ。試合時間3分、ストック1、アイテム無しでセットしてくれる?」 “わかりました。ワープ装置は5番を使って下さい”

「ありがとう」

ピカチュウが待合室に備え付けられた通信機を切ると
待合室の壁際に並ぶワープ装置の1つに光が灯り、
上のパネルに『空中スタジアム』と表示された。

「ぼく、先に行ってる!」

ピチューはそう言うと、さっさとワープ装置の中に消えてしまった。

「何だか…しばらく見ないうちに変わっちゃったな、ピチュー…」

ネスはそう呟いた。しかしピカチュウは首を振る。

「…自分では一人前に戦えるつもりなんだろうけど、口先だけさ。
強がってるだけだよ」

「いや、そうではない」

2人の前に現れたのは目撃者の4人目、メタナイトだった。

「私は、君の弟がソニックと戦う様子を見ていたが、
あの俊足を誇るソニックでさえ時に押され気味になっていた。

しかも、彼の戦いぶりからは自信が感じられた。
彼に勝ちたいのならば、油断はしないことだな…」

そう言って彼はマントを翻し、待合室から出ていった。

『X』の時代に新しく建てられたステージ、『空中スタジアム』。
今、そこにはあの兄弟が立ち、試合開始の合図を待っていた。

非公式試合のため、広々とした観客席にはネスとカービィ、
ポケモントレーナーのレッドしか座っていない。

「あ、レッド!来てたんだ!」

「うん…。
ピカチュウとピチューがバトルをするって聞いたから。
一体どういう展開になるのか楽しみだよ」

大人しそうな少年、レッドはそう言ってステージに目を向けた。

“Three、Two、One……Go!”

まっさらな一枚のステージの上に声が響くと同時に、
ピチューが動いた。

――足の速さはそんなに変わらないな…。
ソニックが押されていたっていうのは、手加減していたからじゃないのかな?
でも…僕は手加減しないよ!

そのまま突っこんでくると見えたピチューはしかし、
迎えうつために前に頭突きを繰り出すピカチュウの前で跳び上がり
その背中に体当たりをかける。

ピカチュウは振り返ってすぐ電撃を放つが、回避され
また“ジャンプして攻撃”を繰り返される。

「確かに強い…!強くなってる!」

「…ピチューはピカチュウの進化前だから、僕の所でバトルをするなら
相当なレベル差が無いと勝てない。

でもここでは、体の小ささを活かして相手の攻撃をかわし、
小回りをきかせて相手を翻弄する戦法がとれるんだね…」

ピカチュウを心配するネスに対し、レッドは純粋な好奇心で目を輝かせていた。

――このままじゃダメだ…
ピチューのペースにのまれてる…!

ピカチュウはピチューが近づいたタイミングで、
その場で電気をまとって回転し、一旦ピチューを横に飛ばす。

すかさずピチューに向かって電気ショックを飛ばし、牽制しようとするが
ピチューは回避とジャンプを駆使し、それを難なくかわして迫ってきた。 ――またジャンプからの体当たりか…

ピカチュウはそう見越してしゃがんだが、
ドスッ、という鈍い音と共に空高く跳ね上げられてしまった。 ――…頭突き…?!

ピチューはステージ上に浮いたピカチュウを追ってジャンプしようとするが、
ピカチュウはそれを雷で押さえ、その雷光を盾にピチューから離れた所に着地し、
ピチューに向き直った。

しかし、彼の目に入ったのは
ロケットずつきの体勢に入っていたピチューだった。 ――……!!

「ピッチュー!!」

ピチューは青い電光をまとい、もの凄い勢いでピカチュウにぶつかった。

ピカチュウはスタジアムから浅い放物線を描いて飛ばされていったが、
かろうじて、でんこうせっかでステージの端に掴まることができた。

「すっごーい!今の技、何?」

「ロケットずつきには見えなかったよ」

「あれはたぶん…ボルテッカーだ。
独力で学んだとしたらすごいな…」

――危なかった…
反射的に復帰できたものの…

ピカチュウは視界にピチューを入れつつ、ステージに上って体勢を立て直した。

――…?ピチューも疲れてる…?

攻撃をほとんど受けていないはずのピチューもまた、
ピカチュウと同じように肩で息をしていた。

「反動が来てるんだ。
ボルテッカーは相手に大ダメージを与える代わりに
大きな反動を受ける電気タイプの技…」

「今まで、自爆ダメージを受ける電気技を使ってなかったピチューが
ボルテッカーをしたということは…?」

「うん。あれで決めるつもりだったようだね。
でも、ちょっと読みが甘かったかな」

――残り時間も少ない。
電気ショックの牽制が通用しないなら
僕から飛び込んで…!

ピカチュウはそう決心し、一気に距離をつめる。
ピチューが放つ電気ショックを避け、先ほどのピチューと同じように
そのまま飛び込んで頭突きで上方に飛ばす。

しかしピチューは当たる直前、わずかに身を引いたため
ピカチュウが狙うほどは上に飛ばなかった。

ピチューはそのまま空中からの体当たりをしかけるが、
今度は回避され、しっぽの反撃まで食らってしまった。

「あせりがでてきた…」

レッドがそう呟く。

ステージの真ん中まで飛ばされ、着地したピチューは
ピカチュウが再びこちらに向かってくると見ると、
自爆ダメージも気にせず雷を落とし、ピカチュウを斜め上に吹き飛ばした。

ピチューは更に、飛ばされているピカチュウを追ってジャンプする。
追撃してKOを狙うつもりだろう。

しかし、自分のリーチにピカチュウが入る前に、
またもやしっぽの一振りを受け、勢いよくステージに叩き戻される。

その間にピカチュウはステージに復帰し、
その足で、まだステージ上に浮いているピチューに駆け寄り
強力な電撃を放った。

 バチッ!!

目の前が白く光り、気がつくとピチューはステージを斜め下から見上げていた。

――…落ちてる!

こうそくいどうで復帰しようとする。
一段、二段。
しかし、彼の手はステージには届かなかった。

――スタジアムが…スマブラが…遠くなってく……
ぼく……まだ戦いたいよ…!!
マスターさん……!

“Game Set!”

空中スタジアムの外。

「負けちゃったけど…
ぼく、まだ諦められないよぉ…」

試合後の大泣きの跡が残る顔で、ピチューが言った。

「約束は約束だよ」

「うん…今日は帰る。
でも、せめて…マスターさんがぼくの事を覚えてるのかどうか、知りたかったなー…」

ピチューの顔には、やっといつものあどけなさが戻って来ていた。

「さあ、トキワのもりに帰ろう」

「そういえばここ、前は森じゃなかった?」

カービィが隣を歩くネスに聞いた。
ネスは背後の城を振り返って見てちょっと考え、頷いた。

「…前にここを一旦離れたとき、君やピカチュウ達と歩いた森だ」

「じゃあ、あの木も無くなっちゃったかなぁ…」

かつての森は、巨大な空中スタジアムのために姿を消し、
かろうじて林と呼べるくらいの木しか残っていなかった。

「城の近くにこんなに大きなスタジアムが建つなんて
思ってもみなかったよね…」

2人の前ではピカチュウとピチューが歩いている。
仲良く手をつないでいる様子を見ると、さっきまで本気で戦っていた
あの2人と同一だ、ということが信じられないくらいだ。

ただ、ピカチュウは浮かない顔で考え事をしていた。

――ピチューはなぜ、ファイターから外されたんだろう…。
マスターさんは僕らに納得がいく答えをくれていない。

弱いから?
いや、あのバトルで僕は痛いほどわかった。

…僕と大して違わないから?
そういうウルフさんだって僕からしたら、
フォックスさんやファルコさんと変わんないよ。

――やっぱり…マスターさんの頭の中には
もう、ピチューの姿がないのかな……

「あっ!」

ピカチュウはピチューの声で現実に引き戻された。

ピチューが指さす先には、一本の木がぽつんと生えていた。
その幹には黒い一本の線と、そして見間違えようもない『DX』の文字が刻まれていた。

「あのときのだ!残ってたんだね!」

「残しておいてくれたんだよ。マスターさんが」

カービィとネスも駆け寄り、その木を見つめた。

「ぼくの事…ちゃんと覚えていてくれたんだ!」

空中スタジアムの外をぐるっと一回り、散歩してみれば
あなたも見つけるかもしれません。

下の線には『DX』、そしてそのちょっぴり上の線には『X』の文字が
添えて刻まれた一本の木を。

そしてその木を見つけたら、ピチューのことはもちろん
ロイ、ドクターマリオ、ミュウツー、こどもリンクのことを思い出して下さい。

決してリストラ組なんて呼ばないで。
彼らは今でも、立派な『スマッシュブラザーズ』なのですから。

裏話

ちょっとは長めのものを書こうと思って…。
書いた当時は「こんなに長いのが書けたぞ!」と思っていたのですが、数ヶ月後、十数倍も長いものを書いているから恐ろしいもんです。
ファイター全員に何かしらの思い入れがあるので、これからも何かの形であの5人が登場するかもしれないなぁ。
ちなみに、バトルシーンを書くためにピチューの攻撃パターン・戦法を調べたのは秘密。
また、ピチューのボルテッカーは、当然ですが想像の産物です。スマブラには出てません。

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