気まぐれ流れ星二次小説

夏だ!祭りだ!スマブラだ!

この世界には、はっきりとした四季がある。
マスターハンドの力をもってすれば、年中過ごしやすい季節のままにすることも可能なのだが、
彼曰く、「四季のメリハリがあってこそ世界は美しい」のだそうだ。

「それにしても…暑いな…」

その日の予定された試合を終えて城に戻ってきたマリオは、
室内の暑さで、爽やかな汗がたちまちのうちに不快なものになっていくのに辟易し
のろのろとバルコニーへ向かっていた。

バルコニーにはすでに先客がいた。
夜風に髪と翼をなびかせているその少年は、しかし、涼みに来たわけではなさそうだった。

身を乗り出し遠くを眺めていた少年、ピットは足音に気がつき、振り向く。

「あ、マリオさん!お疲れ様です!」

全く夏バテを感じさせないはつらつとした笑顔だ。

「やぁ、お疲れさん!
…ところで、何見てたんだ?」

「向こうの広場です。
人が集まっているようなんですけど…何かあったんでしょうか?」

マリオも柵から身を乗り出し、ピットの指す方向を見つめる。

城を囲む森の向こう、街の手前にある公園に明かりが灯り、小さな人影がいくつも動き回っている。

ちょっと考えていたマリオは「ああ!」と声を上げる。

「もうそんな時期になったんだな…。夏祭りの準備だよ、あれは」

「夏祭り…」

「そうか、ピットは今年初めてだもんな。
『スマブラ』では年に一度、夏にでっかい祭りをやるんだ。
あの公園だけじゃなく、街のほうでもいろいろと準備してるはずだ。
いろんな世界から出店してくるから、食べ物もゲームもより取り見取りだし…」

「…でも今回は、おれ達は行けないだろうな」

目を輝かせて祭りの魅力を語るマリオの背に、そう声がかかる。
バルコニーの入り口に、フォックスが腕組みをして立っていた。

「何だよフォックス。そんな冷めたこと言うなよ」

と、マリオは不満そうな顔をする。

「…前回の混み具合を思い出してみな。
おれ達にとってもお客にとっても、全然祭りどころじゃなかっただろ?
あちこちで人に囲まれてサインだの写真だのせがまれてさ」

そう言いつつフォックスはマリオ達の横にくる。

「まぁあれを忘れたわけじゃないけどな…。
でもファンサービスは大事だろ」

「ああ。だがおれとしては、良い試合を見せて楽しんでもらうことで十分サービスしてると思ってるからな。
わざわざ出て行ってもみくちゃにされたくはない…」

と話すフォックスの声を遮るようにして、夏の夜空にけたたましい笑い声が響きわたった。 「ヒィーハハハハハァ!!
祭りだ祭りだ祭りだぁあああ!」

「あいつか…」「あいつだな」「えっ?あいつって誰ですか?」

バルコニーにいる3人の見る前で、その白い手袋は見る見るうちに城に迫ってきた。

誰が履くのかというくらい大きな左手袋は、城の尖塔の周りをもの凄い速さで飛び回り、
鮮やかな火花を散らしながらがなり立てた。まるでネズミ花火のようだ。

「重大な発表があるぞーっ!
紳士淑女の野郎ども!リビングに集まりやがれェエ!」

程なくして、城の1階にあるリビングルームにファイター全員が集まり、
座ったり、立ったり、思い思いの格好でマスターハンドを囲んだ。

クレイジーハンドは部屋に入りきらなかったため、窓から手を覗かせている。
じっとしていられない様子で指をワキワキ動かしているクレイジーハンドに、マスターハンドが小言を言っていた。

「何もあんな派手に登場することはないだろう。
祭りのスタッフが花火でも暴発したのかと驚いていたぞ」

「いいじゃん右手ー!
だって祭りだぜ?お祭りなんだよ?お祭りだっていうんだぜ?!」

「お前が楽しみにしているのはわかった。だが…」

「わぁーかった、わかったから!
…そんなことよりアレ配っちゃえよ~。みんな待ちくたびれてるぞ~?」

と、クレイジーハンドは両手のやり取りを眺めている総勢39名のファイターを指さす。
部屋の暑さにまいっている顔もチラチラ見える。

「む…それもそうだな。ここに来た目的を忘れるところだった」

マスターハンドはようやくファイター達に向き直る。

「明日、夏祭りが開かれることは諸君も知っての通りだろう。
…今回ここ、『スマッシュブラザーズ』は前回にもまして様々な世界に扉を開いている。
前回の比ではないくらい混むことが予想される。
君達は、そのままの格好では祭りを楽しむことも出来ないだろう…。そこでだ」

パチン、とマスターハンドが指を鳴らすと同時に、ファイター達の手元に丸い大きめのバッジが現れた。
黒地に緑のラインでお馴染みのスマッシュブラザーズのマークが描かれている。

「何だこれ?」「フランクリンバッジみたい」

「あれっ?ヨッシーどこ行ったんだ?」

ふいにマリオがあたりを見回す。

「?ボクならここにいますよ~?」

その隣でヨッシーは目をパチクリさせている。
胸にはあのバッジが貼られている。

マリオは声のした方をまじまじと見つめ、ようやく「ああ!そこにいたのか」と言った。

「よっしゃあ!うまくいってるな右手!」

窓の外でクレイジーハンドがガッツポーズをする。

「マスターさん、このバッジ何なんですかぁ?」

そう言いつつヨッシーがバッジを外すと、隣のドンキーコングが「おっ?」と振り返った。
急にヨッシーの存在感が増したように思えたのだ。

「それこそ君達が祭りを安全に楽しむためのアイテム、『スパイクローク改』だ」

マスターハンドが重々しく言った。
続けて説明に入ろうとした彼を、窓の外のブーイングが遮った。

「おーい右手ぇ!やっぱりその名前なのかよぉ?!ダサすぎだろー!」

「昨日指相撲で決めただろう、左手。文句を言うな」

「指相撲か…」

2人が大真面目に指相撲をする様子を想像し、
サムスははっと気づいて自分の手を組み合わせてみる。

――右手と左手で…一体どうやって?

「絶対『空気感5割増しバッジ』の方がイケてる」と、納得していない様子のクレイジーハンドを放っておき、
マスターハンドがバッジの説明を始めた。

「その『スパイクローク改』は、今回アイテム選考からもれたスパイクロークに少し手を加えたものだ。
試合では使うことは出来ないが、それを付けることで使用者の周囲に特殊な精神力場が発生し
周りの者に対して…」

「要するに影が薄くなるってことだ!」

長くなりそうな説明を先取り、クレイジーハンドがそうまとめる。

「それだと語弊があるが…。
…注意して貰いたいのは、使用者本人にしか効果がないということだ。
つまり鏡やガラスに映る像までは周囲に溶け込ませることはできない。
目立ちたくなかったら、くれぐれも姿の映るものに近づかないように。

それさえ気をつければ、余程注視されない限り諸君の正体を悟られる心配はない。
…あと、これをつけている者同士には効果がでないようになっているので、
安心してアベックで行くなり、友達と行くなりしてくれ」

翌朝、リビングルームのスクリーンには空中スタジアムが映されていた。
スペシャルマッチの第1試合に出る4人が開会式を行っている最中だ。
この式が終わって試合が始まると同時に、夏祭りも始まる。

今日1日だけは、空中スタジアムでのみ試合が行われる。
ファイターの人数が増えたこともあり、彼らの今日の自由時間はかなり長い。

スクリーンを見つめていたネスが、後ろのソファに座っているC.ファルコンに声を掛ける。

「最初の頃、こんなイベントありませんでしたよね」

「ああ…。それだけ『スマッシュブラザーズ』がビッグになったってことだな」

スクリーンの向こうでは夏の日差しの下、観客席をうめつくす入場者が
思い思いのメッセージを書いたうちわやボードを持ち、試合が始まるのを待ちかまえている。

ホールの方でネスを呼ぶ声がした。

「あ、僕行かなくちゃ…。
…それじゃ、いってきます!」

黄色いリュックを背負い、ネスがリビングから走り出る。

「楽しんでこいよ」

「ええ、キャプテンさんも!」

途中、ネスは廊下でスネークを見かけた。
無線で誰かと話しているようだ。

「…そうなんだ。カメラも誤魔化せるようになれば、こいつは最強のステルスになるぞ」

手にスパイクローク改を持ち、スネークはそう力説している。

「スネークさん、お祭りの時くらい戦争のことは忘れようよ!」

ネスは通り際に、そう言って笑った。

しばらくして、ネスはトゥーンリンク、リュカ、そしてピカチュウと共に城の外の森を歩いていた。
4人の胸にはしっかりとスパイクローク改がくっついている。

「しっかし本当に効くのかなぁ?これ」

トゥーンリンクが疑わしげな顔をしてバッジをつつく。

「大丈夫だよ。昨日のヨッシーだってちゃんと“消えてた”でしょ」

そう言うピカチュウの手にはもう1つのバッジがあった。
間もなく合流する弟のピチューの分だ。

「みんな、もうすぐ森を抜けるよ」

道の向こうに観光客で賑わう広場が見えてくる。
いつもならすぐに見つかり、囲まれてしまうところだが…
4人が広場に踏み込んでも、誰も彼らに気がつかなかった。

「何か変な感じ…」

スマブラ歴の長いピカチュウはそう言ったが、リュカはややほっとした表情をしている。
広場には色とりどりの屋台が建ち並び、呼び声や話し声、食べ物のにおいに音楽と、活気に満ちあふれている。
4人の足どりも次第に軽くなっていく。

と、弟の姿を見つけたピカチュウが走っていく。
ピチューは広場のはずれの草むらに隠れていた。

「わぁっ、だ…誰?!
……あ、兄ちゃん?」

まもなく、ピカチュウのあとからピチューが出てきて、ネス達と合流する。
もちろんスパイクローク改を付けて。

「さっきニンゲンに見つかっちゃってさ、ぼくずっと隠れてたんだ…」

そうため息をつくピチューの横を、こんなことをいいながら人々が通り過ぎていく。

「向こうでピチュー見かけたんだ」

「うそーっ?あの―」

「まだいるかな」

「今日はこのバッジもあることだし、祭りを楽しもうよ!」

ピカチュウがそう言う。

「うん!あ、そうだ兄ちゃん、ぼくわたあめ食べたい!
えっとそれからぁ…」

甘く香ばしい香りをたてる槽の中に割り箸が差し入れられる。
ゆっくりと回るごとに、割り箸に白い雲のようなふわふわとしたものがまとわりつき、大きく成長していく。

ガラスに顔がくっつかんばかりにしてその様子を見つめ、カービィは切なくため息をついた。
彼のお腹と同じように、彼の財布ははやくも空っぽになっていた。
普段からおやつだの夜食だのを買っているカービィに、そもそもお祭りのための貯蓄はなかったのだ。

何度目か分からないため息をついたカービィに声がかかる。

「どうしたんですか?カービィさん」

振り向くと、彼の後ろに心配そうな顔をした天使ピットが立っていた。

街なかにある噴水を背に、3人のファイターがベンチに座っていた。

「なっ?祭りもなかなか楽しいだろ?」

ファルコが、真ん中に座るルカリオに声を掛ける。
ルカリオは落ち着かない様子であたりを見つつ、

『…しかし、人が多い』

と答える。
ルカリオは城に籠もっていたところをファルコに見つかり、半ば無理矢理に連れてこられた。

「早く慣れろって。せっかく年に一度のビッグイベントなんだからよ!
な、キャプテン?」

ファルコはベンチの左端に座るC.ファルコンにそう同意を求めたが、
C.ファルコンはビルの壁に掛かった大きなモニターに見入っていて、返事をしない。

モニターには空中スタジアムが映っており、
サムスが狙いすましたミサイルでドンキーコングの復帰を阻止したシーンがアップになっている。

「よし!」

それを見て、C.ファルコンがガッツポーズをとる。

『…? 彼は1人か。珍しいな…』

ルカリオが呟く。ファルコも彼の見る方向に顔を向ける。

「ん? …あぁ、祭りの時ばかりはな。
…いや、もう誰か捕まえたみたいだぜ」

両手にソフトクリームを持ち、カービィの方へ駆けていく少年がいた。

「やっぱりあいつか」

ファルコはニヤッと笑う。

「今年はピット君が捕まったか。やはりというか何というか…」

「なんだよキャプテン、聞いてたのか」

カービィはピットから貰ったソフトクリームを2口で食べ終わり、
今度は“焼きそば”と書かれた看板を出している店を指さした。

『よく腹を壊さないものだ』

「あいつの胃袋はブラックホール並みだからな」

「この前の夏祭りではロイやゼルダが危うく無一文にされるところだったらしい」

「ピットのあの性格じゃ、本当にすっからかんになるかもな!」

ファルコがそう言ってポップコーンを口に放り込んだ横で、ルカリオがすっと立ち上がった。

「んっ? おい、どこ行くんだルカリオ…
人の話聞いてたのか?!」

昼前であり、焼きそば屋には長蛇の列が出来ていた。
ソフトクリームを食べ終えた頃、ようやく順番が回ってきて注文しようとしたピットを、黒い手が遮った。

『…私が払おう』

パチッ

的が微かに傾ぐ…しかし倒れない。

「惜しかったね~」

射的屋の人が言う。

「くぅう~…おじさん、もう1回!」

「80コインね」

コインと引き替えにトゥーンリンクはおもちゃの鉄砲を渡される。

「まだやるの?」

隣でリュカが言う。他の店も回りたい様子だ。

「今のは練習だ練習!こっからおれの実力を見せてやるからな!」

トゥーンリンクはそう言うと、真剣な表情になって鉄砲を構えた。

しばらくして予定の時間になり、約束した場所に集まってきたトゥーンリンクを見て、
ネスは一瞬唖然とする。

「トゥーン!」

「なんだよ?」

彼は、抱えている大きなお菓子の袋やおもちゃの入った箱のわきから顔を覗かせた。

「本気出したらだめって言ったじゃないか。
スパイクローク改は万能じゃないんだ。そんなに目立つことしちゃ危ないだろ?」

そう注意するネスだったが、トゥーンリンクは平気な顔で「大丈夫だって」と言う。
そんな彼に、後ろにいるリュカが

「一等の小さな的ばかり倒すから、人が集まってきて大変だったんだよ」

と困った顔で言った。

「何言ってんだよ、リュカだってズルしただろ?
スーパーボールすくいで念力使ってたじゃないか」

そう指摘され、リュカは少し顔を赤くする。

「だって…この青いのがどうしても欲しかったんだ」

「まあ今のところばれてないんだし、良いじゃない」

と、ピカチュウが取りなした。

「それはともかく、お昼食べようよ!」

「あっ!今度はあれ!あれ食べよう!」

ベンチに座るカービィが嬉しそうに指さす先には、ヒウンアイスの店がある。

「ええ!でも僕が食べ終わるまで待っててくださいね」

ピットは手に焼きそばの皿を持っている。
既に空になった5皿の紙皿を横に、楽しげに足をパタパタさせているカービィの様子を見て、ピットは微笑んだ。

夏祭りで客が増えることを見越し、街の様々な店で特別セールが行われている。
専門書ばかりが置かれた古めかしいその書店もひっそりとセールの旗を掲げていた。

店の外の棚に積まれた本の山を前に、
『指導者の心得』という本を読んでいたメタナイトは、聞き慣れた声に振り向く。

「おぉ~い!メタナイトぉ~!」

カービィがそう大声で言いながら駆け寄ってきた。

「静かにしろ。私の正体を悟られたらどうするのだ」

「そんなぶ厚い本を立ち読みしてる時点でじゅーぶん目立ってるもんね!」

勝ち誇って指摘するカービィ。
スパイクローク改の効果か、通り過ぎていく観光客の誰一人として、この2人に気をとめる者はいない。

「ところで私に何の用だ。
…おごって欲しいのなら他をあたるんだな」

「ひどいなぁ、そんなことじゃないよ。
ただ見かけたから挨拶しに来ただけだもん!」

「そうか…ではもう行ってくれ。私は忙しいのだ」

隣で口をとがらせているカービィを放っておき、メタナイトは再び本に目を向ける。

「カービィさん、買ってきましたよ!」

そこに、両手にヒウンアイスを持ったピットがやってきた。

「わあい! ありがとう!」

カービィはすっかり機嫌を直してアイスを受け取る。
そんな彼が財布も何も持っていないのを見て、メタナイトは本を棚に戻し、聞いた。

「カービィ…そのアイスは自分の金で買ったものだろうな…?」

自分に向けられるアイスより冷たい視線をものともせず、カービィは平然と首を振る。

「ううん、ピットくんが買ってくれたんだよ」

「先程の試合で得た賞金はどうしたのだ?」

「もう使っちゃった!」

あっけらかんとして笑うカービィ。

「まったく…。
…ここで私達は乱闘によって日々自分で稼いでいるのだ。
それはピット殿も同じ。
彼がここまで闘い、彼の力で稼いできた金を、お前は…自分の一時の楽しみのために使わせるのか?」

ネスやリュカがいれば怒りの青い炎が見えそうなほどの剣幕である。

「あとでぼくが返せば良いんでしょ?」

「…今まで借りた金額を覚えているか?」

「んー……忘れた!
何を食べたかは覚えてるけどね!」

今にもカービィの腕を掴み、彼が食べたものの値段を確認しに行きそうなメタナイトを、ピットが止めた。

「いいんです、メタナイトさん!
僕は自分がそうしたいと思って使ってるんですから。
別に返してもらわなくていいんです」

メタナイトは予想外の言葉に、しばし絶句する。

「しかし…君は困らないのか?
ここで彼のために金を使っていては、あとで買いたいものも買えなくなる」

「僕に買いたいものはありません。
僕のお金で誰かが幸せになるならそれで良いんです。
…いえ、それが僕の願いなんです…!」

ピットはまっすぐに言い切った。

店や屋台を物色しつつ歩いていたフォックスは、書店の前で何かを読んでいるメタナイトを見つけた。

「よっ、何読んでるんだ? ん…経済学…?!」

意外そうな顔をするフォックスの前で、メタナイトは力なく本を閉じる。

「フォックス殿…通貨の意味とは何だろうか…?
…私にはわからなくなってしまった」

高く青い空のなかを、日は少しずつ沈み始めていた。
街の中心部にある公園には特設のステージが建てられており、
様々な世界のアーティストが入れ替わり立ち替わり演奏している。

公園の入り口にある看板によれば、この時間帯はすま村のとたけけという人物が歌っているようだ。

“ニューオリンズそんぐ”を聴きながら、クッパはベンチで休憩していた。
何しろ朝からクッパJr.に振り回されっぱなしだったのだ。
あれ買って、これ食べたい、あのゲームやりたい…

かわいい我が子とはいえ、クッパの体力と財布にも限界がある。
遅れてやって来たコクッパ達にJr.をまかせ、こうして休んでいるというわけだ。

子供の泣き声が聞こえ、クッパは目を開ける。
猫の女の子が1人、途方に暮れた様子で歩いていた。

「…どうした」

思わず、クッパは声を掛ける。いつもなら彼の姿に驚かれ、逃げられてしまうところだが、
スパイクローク改のお陰か、その子供はクッパの方にとぼとぼと歩いてきた。

「…ママがどこかに行っちゃったの…」

「ふむ…(やはり迷子か)…我が輩についてこい」

クッパはベンチからのそりと立ち上がった。

「おじちゃん、ここの人なの?」

警備員を務めるザコレッドに慣れた様子で話していたクッパに、子供は聞いた。

「む、まあな」

一応迷子を見つけたと伝えたものの、ザコ敵軍団は話すことが出来ない。
本当に話が通じているのかどうかは分からなかった。

――なぜマスターのやつは彼らに警備させているのだ…?

とりあえずクッパは子供を連れ、母親とはぐれたという屋台の方へと引き返すことにした。
その子の母親がまず探しに来るとすればそこだろう。
しかし…

「わたあめを売っている店などそこら中にあるぞ。
もっと詳しく思い出せないか?店名はどうだ?」

「うーん…」

子供は眉をしかめる。

「…まあ、いい。とりあえずここで待とう。」

そう言ってクッパは、近くにあったわたあめ屋の横に立った。

――これでは見つかるかどうか分かったものではないな…

夕方になり、ますます人出が多くなってきた。クッパは子供の手を引き、道の端へと移動する。

――助けを借りるなど我が輩の性に合わんが…そうも言ってられん。

クッパは携帯電話を開いた。

「ねぇねぇ、あのお店面白そうだよ!」

ピチューが指さす先にはひときわ大きな黄色いテントがあった。
“メイド イン ワリオ”と書かれた旗や看板がその周りに立てられている。

テントの外には列ができ、ロープで整理されるほどになっていた。
高い台に上って客を呼び込んでいるのは…

「あれ…ワリオさん?」

「バッジつけてないね」

台の周りには彼のファンと思しき人々が集まり、本人を目の前にして騒いでいる。
その集団で道の半分ほどがうまっていた。
ワリオも声援に応えて、宣伝の合間にポーズなど取って見せている。

「なるほど。自分で店をたてるなんて、お金儲けの好きそうなあいつのやりそうなことだな!」

腕組みをし、トゥーンリンクは感心したように言った。

「ピチュー、今はすごく混んでるから入れそうにないよ。また来年来よう」

「えー?面白そうなのになぁ~…」

ピピピッ

携帯電話の着信音が鳴った。
4人がめいめいの電話を取り出す。

「クッパから…? 一斉送信だなんてどうしたんだろう」

「えーっと、迷子を見つけたらしいな」

「母親はオレンジ色の肌のネコで、エプロンを着けている…」

「街の中心部、やや南東よりのとこではぐれたらしいね。ここから近いよ」

「その子のママさんを探しに行こう!」

「迷子だってよ。ルカリオ、お前の力で何とかならねぇか?」

『相手が波動使いでもない限り、あったこともない者を特定するのは不可能だ。
……しかし、感じ取れる感情を追っていけば、あるいは』

ルカリオが目を閉じる。その体を一瞬青い光が駆けめぐった。
後頭部についた2対の房が揺れる。

『向こうから強い不安を感じる…』

そして走り出した。

「あ、おい! そんなにスピード出すなよ!」

ファルコも慌てて人混みをかき分け、彼の後を追った。

>>見つけたらそちらまで連れて行くので、現在地を教えてください。

>>試合が終わり次第探しに行く。

>>母親の特徴、もっと詳しく分かる?

クッパの携帯には、早くもファイター達からの反応が返ってきていた。
必要な者への返信をちまちまと打っていると、隣の子供が尋ねかけてきた。

「ねぇ、おじちゃん。ファイターさんと話したこと…あるの?」

「ん? …ああ、まあ…な」

クッパは少しごまかす。

「あるの?!
ねぇ、ファイターさんってどんな感じなの?」

「どんな感じ…か。うーむ…。
…いろんなやつがいるぞ。気だての良いやつもいるし、人並み外れて大食いのやつらもいるし、
何を考えているのかわからんやつもいるしな…」

Jr.やコクッパでない子供が自分を恐れずに近くにいて、目を丸くして自分の話に聞き入っている様子を見ながら、
クッパは、祭りが終わってスパイクローク改を返すのが惜しい、と心の隅で思っていた。

「カービィさん、あの子がお母さんとはぐれたわたあめ屋さんの特徴が送られてきましたよ!」

「見せて!
どれどれ…青と白のしま模様の屋根、わたあめの機械は赤色で、近くに木が何本か…。
うーん、そうかぁ…」

目を閉じ、真剣に考え込むカービィ。やがてパッと顔を上げる。

「…ん! わかった!
7つの味が選べるあの店だよ! 店名は“レインボーリゾート”!」

「よく覚えてますね…これだけの情報からわかるなんて」

感心しつつピットは地図でその店を探す。

「あの店を忘れるわけないよ~!
だってあそこのイチゴ味とぶどう味はサイコーにおいしかったもん!」

と、目を輝かせるカービィ。

「Bブロックの12番…ということはクッパさんのいるところとは違いますね。
他に探してる人もいるみたいですし、一斉送信しましょう」

「こりゃ…おばけ屋敷だな」

『恐怖も感じ始めた時点で違和感はあったが…』

黒塗りの建物を前にし、ルカリオは渋い顔をした。
建物からはおどろおどろしい音楽と共に、時折悲鳴も聞こえてくる。

「? またメールか…ピットからだな」

ファルコが携帯電話を開いた。
電子機器の苦手なルカリオは自分の携帯電話を城に置きっぱなしにしているため、ファルコのを覗き込む。

「母親はBブロックのわたあめ屋の近辺にいそうだな」

『よし、行こう』

ピットからのメールで、クッパは迷子を連れてBブロックに向かい始めた。

「すっかり暗くなってしまったな…。しかしもうすぐ会えるだろう」

「本当?」

「ああ」

ふいに空が明るくなり、クッパは顔を上げる。
紺色の空に、大輪の光の花が咲いていた。
遅れて地の底から響くような低い破裂音。

「わあぁ…」

子供が足を止め、クッパもその場で立ち止まる。
周りの観光客も空を見上げて立っていた。

「来るたびに派手になっていくな…」

そう呟いたクッパは、ふと視界の端に映った像に気がつく。
次々と打ち上がる花火の光を反射し、街の建物のガラス窓に彼の本当の姿、トゲだらけの巨大な亀が映っていた。

「…そろそろ行くぞ」

クッパは内心の焦りを隠し、子供の手を引く。

――ガラスか…うっかりしていた。
…見られなかったろうな…

「わたし、まだ“らんとう”見たことないの。
ママはわたしが大きくなったら見ていいって言うけど、どのくらい大きくなればいいのかなぁ」

もうすぐ母親に会えるという期待からか、子供の表情は明るくなっていた。

「女の子はそういうものを見ても面白くないと思うがなぁ…」

「でもファイターさんって、らんとうするスポーツせんしゅなんでしょ?
わたしもしあいを見てみたいな」

子供の歩調に合わせ、ゆっくりと歩いてきたクッパの目に、“レインボーリゾート”という看板が見えてきた。

「あっ…、ママー!」

迷子の子猫が駆けだした。

「みなさん、ありがとうございます! 本当に何とお礼を言えばいいのか…」

迷子の母親がクッパ達に頭を下げる。
子供は母親の腕にしっかりとしがみつき、満面の笑みをうかべている。

この2人はおそらく、前にいる人たちがファイターであることに気づいていないだろう。
子供を連れてきたのがクッパであること、母親を見つけたのがルカリオとファルコであること、
そして母親を案内したのがネス達5人であることを。
年齢のばらつきはあっても、彼らの姿は祭りのスタッフに見えているのだろう。

でも、そんなことはどうでも良い。
振り返ってこちらにお辞儀をしつつ去っていく母親と、子供の嬉しそうな様子を見て、
クッパはそう思っていた。

と、ふいに子供が母親から離れ、こちらに戻ってくる。
クッパの前に立ち、何か話したそうなそぶりをする。
クッパは子供の方に耳を向け、姿勢を低くした。
花火が轟くなか、彼女の声が聞こえてきた。

「…クッパさん、ありがとう!」

――わかっていたのか…。

小さくなっていく2人の影に、クッパは他のファイターと共に手を振った。

城の方からも花火は大きく見えている。

「もう解決したのか」

試合を終えて携帯電話を確認し、スネークは少し残念そうに言った。

「まぁファイターが10人揃えばな。迷子を助けるくらい訳はないだろう。
…ところでスネーク、クラッカーを何本か失敬してきたんだが、祭りのシメに打ち上げないか?」

城門に立ち、C.ファルコンはにっと笑い、脇に抱えたクラッカーを見せる。

今空に上がっているものは“花火”というものだそうだ。
ずいぶん大きな音が鳴るけど、カービィさんも周りの人も何とも思ってないらしく、空を見上げて笑っている。

金色の花が天高く大きく咲いた横で、小さな色とりどりの花火が何発も打ち上がり始めた。

「あれ、城の方からだよ! きっと誰か打ち上げてるんだ。
…ピットくん、行ってみよう!」

「はい!」

ここに来てからというもの、出会う何もかもが初めてで、毎日新しい発見がある。
きっと、これからも。

ここに来て、本当に良かった。

裏話

高校の学校祭の時、いつものぼけっとした顔をしている私に、思わず友人はこう聞いた。「楽しんでるの?」
楽しんでるとも! 外見はそう見えなくとも、内心では学校祭を楽しんでいるのです。
そんな隠れ祭り好きが、ある日思いついた話です。

もっとスマブラらしさを出せばよかったのかもしれませんが、どうしても普通の祭りになってしまった感じがします。
ラストでいきなりモノローグになっているのは、頭の中でもで主人公をはっきりさせていなかったからでしょうねー…うっかりやってしまいました。
反省があってこそ、前に進む……す、進めてる…のかなぁ?(^ ^;)

また、これを書いたのは2012年の8月。『新・光神話 パルテナの鏡』が出た後ですが、
いかんせん3DSを持っておらず、また調べるのを怠っていたために、ピットの性格設定は上記のソフトと違うものになってしまいました。
やんちゃなイメージが全然無い…! 一度ついた先入観って恐ろしいです。

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