記憶
1組の親子が洞窟の中を歩いている。
「本当だよ! 本当に空は青いんだ!」
「うそを言うのはいけないことよ」
「うそじゃないったら! そして外には緑色のショクブツと、ミズが流れるカワがあって、太陽は黄色なんだ!」
「そんな話誰から教わったの?」
「誰でもないよ。僕が知ってるんだ!」
「作り話ってこと?」
「ちがう! 僕、ずっと前から覚えてるんだもの」
「まぁ…そんなこと言って。ほら、もうすぐ外に出るわ」
親子は洞窟の出口に立っていた。
「これが外よ」
子供は先ほどまでの頑固さはどこに行ってしまったのか、ただもう唖然として外の世界を見るばかりだ。
白い空に、赤褐色の大地。
弱々しく光る太陽が、岩ばかりの地面を赤く照らしている。
見渡す限りの荒れ地。地面にはかすかに褐色の地衣類がはりつき、それをもとめて小さな動物がはい回っていた。
「僕の思い違いだったの…?」
「でもさっきの話はとても面白かったわ。
さぁ、もう戻りましょう。本当はまだあなたは外に出てはいけないのよ」
親は我が子の数多くある脚のうち、一本を優しく掴んで言う。
やがて親子は甲殻をカチャカチャと鳴らし、洞窟の奥へと消えていった。