気まぐれ流れ星二次小説

Open Door!

Track14『Act』

~前回までのあらすじ~

『スマッシュブラザーズ』に選ばれ、それぞれの思いを抱いて輝く扉をくぐったファイター達。
しかし、彼らは目的地とは異なる灰色の世界に連れてこられ、得体の知れない人形の軍勢によって1人、また1人と捕らえられていく。
そんな中、プロロ島の風の勇者リンク(トゥーンリンク)と、タツマイリ村の少年リュカが出会う。
自分たちが数少ない生き残りであることも知らぬまま、彼らは少しずつ仲間を見つけ、この事件の真相を突き止めようとしていた。

エインシャントの目的を知るため、リンク達は灰色の平原を越えた先の大工場に向かう。
潜入し、情報を得るだけではなく、ピットの故郷エンジェランドを破滅に導いていた"アンテナ"を破壊することも目的に加わっていた。
夕方、暗くなるのを待って二手に分かれ、リンク達は工場への侵入を試みる。


  Open Door! Track 14  『Act』


Tuning

疾走 と 擬装

その工場は、造られた順番から名をつけられた。

第一工場。それ以外の装飾語は必要がない。
地名の存在しないこの狭い世界では、装飾する意味すら無かった。

外観は至って単純。
2台の粒子集積装置を敷地内に構え、それらを建物がほぼ真四角に囲む。
しかし外壁を一皮むけば、そこは複雑に入り組んだ迷路のようになっている。
兵士需要の急増に伴い、幾度も施設を建て増ししていった結果である。

つまり、それだけ現在のエインシャント軍にとって第一工場は重要な兵士生産源なのだ。

また、翻って外に目を移せば、
南東には、主たるエインシャントが執念をかけて集めたコレクション――"駒"が保管された研究塔がある。
一方で残存勢力、生き残りのスマッシュブラザーズがいると目されているのは、北。
第一工場が位置するのは、ちょうど両者の中間点であった。

研究塔と第一工場。
主の住まう拠点を除けば、最大級の拠点ともいえる施設であり、同時に現状の最前線。
それらの防衛をエインシャントから任されたデュオンであったが、
今、第一工場の監視塔最上階に鎮座する彼らの顔には、一切の焦りもはやりも、驕りもなかった。

彼らの双眸は、いつもと変わらぬ冷徹な光を放っていた。

その4つの目が見つめるのは、監視塔内部の壁面を埋め尽くすモニタ。
そこには、エインシャントの兵士を創り出す全ての過程が映し出されていた。
付近の廃墟やエンジェランドへのワームホールからくみ出された粒子が機械に集積され、加工を受けて実体を与えられる。
かつてはエインシャント自らの手で行っていた、兵士の創造。今やその役割は、モニタの向こうを埋め尽くす機械群に与えられていた。

似たような機械と、似たようなコンベアベルトの連なり。ただ一つ違うのは、兵士の種類だけ。
プリムを初めとし、マイトやジャキールの他、デスポッドやジェイダスのような上級の兵士まで、
ありとあらゆる兵士が自らを呼び覚ます命令を待ち、整列した格好でコンベアの上を流れていた。

プリムやミズオ達が監視カメラの操作盤を規則的に叩く音だけが響く部屋の中、
前後2つの頭で四方全てのモニタを一つ一つ、順々に見ていたデュオンは、あるモニタに目をとめる。

「……めろ」

プリムの操作によって、モニタの映像が正門1階の廊下を映すカメラ映像に固定される。

「拡大しろ」

その声で、すぐさま映像が複数のモニタにわたって広げられた。

ファイターが1人、廊下を歩いている。
それだけならば、工場に入るまでもなく歩哨から報告が飛び、警備兵に捕らえられるはずだ。
しかし、兵達は彼を無視し、監視塔のプリム達もモニタに映る彼を気にもとめていなかった。

なぜか?
彼がエインシャントの"駒"に、すでに捕らえられているからだ。

ピンク色の丸いファイター、カービィは手を前で縛られ、駒のあとについて歩いている。
主の思惑通り、北に向かったであろう残存勢力と彼が合流することは未然に防がれたのだ。

それにしても、と、デュオン・ソードサイドはアイセンサを細める。
同じ故郷せかいの者に捕らえられるとは、何とも皮肉なことだった。

その背後で、デュオン・ガンサイドが呟く。

「信じられん……たった1人でファイターを?」

ソードサイドも、頷いて同意を示した。
彼らは今まで幾千もの兵で構成された軍団を率い、この世界に落ちてきたファイター達を捕らえてきた。
十数人の相手に対し、費やした兵は数知れず。
ロボットとの戦闘では敵無しだった上級兵種でさえ、単騎では返り討ちに遭う。プリムのような下級兵ではなおさら歯が立たないのだった。

今までは、数で押し切ってきた。
だが、倒されるたびに作り直すのでは効率が悪い。
この世界を征服する際に創ったような兵士ではなく、もっと強い兵士を――主が考えるのももっともだった。

「我らが主は、やはり正しかった」

「「……しかし」」

デュオンは疑わしげにモニターを凝視する。

――何かが気に掛かる。

――この違和感は何だ?

デュオンは鋼の頭脳を働かせ、その原因を探ろうとした。

"駒"が、ファイターを確保している研究施設では無く、この工場に来たことは何ら不思議ではない。
ファイターを見つけ、捕まえ、そして最寄りの施設に連れてくるよう駒にはインプットされているからだ。
北に向かっていった駒がファイターを捕らえて訪れるとすれば、最北の施設であるここしかない。

――では何だ?
"生け捕り"にしていることか……?

――いや、相手はまだ子供だ。
恐れをなして命惜しさに降参したとも考えられる。
相手を完全に無力化するか、見失うかに加え、"相手が降参する"ことも、駒の戦闘停止条件の一つだ。

――……もしや、降参した振りをして、隙を窺っているのか……?

――…………。

――……ここで考えていても仕方がない。報告しなければ。

デュオンの指示で、別のプリムが通信回線を開く。
床面からわずかに浮いて緑の砂嵐がちらちらと瞬き、それはすぐに小柄な緑衣の形をとった。

デュオンは映像に一礼し、口を開いた。

「エインシャント様、"駒"がファイターを捕らえて戻って参りました」

エインシャントの映像は、デュオンが示したモニタを一瞥し、『ふん』と満足げな声を出す。

『予想したとおりだ。
残るファイターも、駒を用いて捕らえた方が良かろう。デュオン、起動させる駒の検討をしておけ』

「しかし……我らが主」

デュオンが口を挟んだ。

「我々にはいささか妙に思えるのです」「あのファイター、もしや何か目的があって降参したのでは……?」

その言葉に、エインシャントがぴたりと動きを止め、
そして、ゆっくりと振り返る。

目深に被った帽子で表情が見えないにも関わらず、その眼差しがわずかな苛立ちと失望を示しているのが分かった。

『……デュオンよ、まさか駒の性能を妬んでいるのか?
私がお前に知性を与えたのは、そんなつまらぬ感情に左右させるためではない。
理性を持って優れた判断を下す司令官として、お前たちを創ったのだ』

「は。それは存じております」

『ならば冷静に考えろ』

無感情な声が響いた。

『ファイターはフィギュアにし、研究所に連れて行け。駒には引き続き残存勢力の掃討を命じておくのだ』

そう言い残し、エインシャントは通信を切った。
砂嵐がぼやけ、消える。

深く礼をしていたデュオンはやがて面を上げ、モニタに映るファイターを冷たい目で睨みつける。

――我々の考えが杞憂かどうか……。

――試してみれば分かるであろう。

一見きつく縛っているように見えて、力を入れればすぐにほどけるような結び方で手かせを掛けたカービィは、
メタナイトの後に続いて工場の廊下を進んでいた。

砂埃にまみれた体も、重い足どりも、怪しまれないための擬装。

ここまでは何の抵抗もない。
人形達は、カービィの前を歩くメタナイトに気づいた途端、急に興味を無くして離れていくのだ。

しばらく、人形の影すら見えない廊下が長く、曲がりくねりながら続く。
金属の光沢を帯びた、灰白色の壁。隅々まで乾燥と清潔の行き届いた床。それらを照らす、眩しすぎるほどの白色光。
どこからともなくひっきりなしに響いてくる雑多な音も揃い、いかにも"工場"らしい廊下だった。

元から寡黙なところはあるが、メタナイトは彼なりに駒の演技を続けつつ先頭を歩いていた。
警備兵と出くわさなくなってからしばらく経っていたが、彼は周囲に油断無く目をやり、わずかな変化も見逃すまいとしている。

「ねぇ、そういえばさ」

そんな彼に、突然背後から声が掛かった。
カービィである。

不意を突かれた形だが、メタナイトは一切の反応を表に出さなかった。

「……」

返答のない背中に、カービィは全く気にせずにこう続ける。

「デデデ見なかった? あと見つかってないのデデデだけなんだ。
こっちに来てからぼくも見てないけど――」

「私も見ていない」

話を遮るように、メタナイトは短く答えた。
そして相手が何か言い出す前に、声を低くしてこう続ける。

「そもそも、来ていない可能性が高い。
私が落ちたのも、お前が目を覚ましたのも、黒い葉をつけた森。おそらくは同じ場所だ。
そこから仮定して、同じ世界から来た者が同じ座標に現れるならば……私達が森で見かけていない以上、彼はここには来ていないだろう」

なるべく簡潔に説明したつもりだったが、

「ふぅん、そっか。
でも、きっとデデデなら捕まってないよね」

やはりカービィはよく分かっていないようだった。

少しの間、カービィは黙っていた。
無機質な天井を見上げ、次にチリ一つ落ちていない床、そこに映る自分の顔を眺めて……
また口を開く。

「……きっと地下にこうじょうがあるんだね。
さっきから聞こえてるこの音、ぜったいキカイが動いてる音だよ」

「……だろうな」

"頼むからまだ静かにしていてくれ"という念を込めて、メタナイトは短く答える。
だがそれは、当然というべきか、カービィには伝わらなかった。

「なんだかなつかしいなぁ……ブルブルスターにあったこうじょうを思い出すよ。
向こうはもっと、わくわくどきどきだったけどね!」

「…………」

「ねぇ、地下に行ってみない? そっちの方がきっと楽しいよー!」

ついにカービィが、そんなことを言い出した。
メタナイトは目をつぶり、わずかにため息をつく。

「……楽しいとか、楽しくないとか、そういう問題では無いのだ。
せめて年に一度は真面目にならないのか、お前は」

メタナイトは振り返らずに、しかし声に呆れをにじませつつ注意した。
一体この若者は、今自分たちに懸かっている責任の重大さを理解しているのだろうか。

だが、そんな脳天気なカービィが
高熱・高電圧のダクトやら、強風吹き荒れる船外といったとても正気のルートとは思えない所を巡って、
メタナイトの指揮していた戦艦、ハルバードを破壊したのも事実である。

――しかし、まさかこの私自身がこうして似たようなことをする日が来るとはな。
……部下も信じるまい。

そこに。

『止まれ』

ふいに、天井の辺りから拡声された声が降ってきた。
先頭のメタナイトはすぐに立ち止まり、カービィもそれに従う。

同時に、行く手の曲がり角からも、背後からも人形がわらわらと現れ、
手に手に武器を持ってこちらにゆっくりと近づいてきた。
その数、合計20体と言ったところか。あっという間に、前後を塞がれる。

『ファイターはプリムに預け』『お前は引き続き、残存勢力の掃討に当たるのだ』

途中声の調子をわずかに変えながら、天井のスピーカーはざらざらとした耳障りな声を響かせた。
その特徴から言って、おそらく声の主はピットの言っていた双頭の戦車、"デュオン"だろう。

その声と共に、人形達の包囲が縮まる。
迫る、無言の圧力。

拘束されたファイターを受け取るだけにしては、やけに物々しい。

「……疑っているな。我々のことを」

背後のカービィに、メタナイトは言った。

「どうする?」

こちらも小声で、しかしどこか楽しげに返すカービィ。
もちろん答えは分かっている。

張り詰めた静けさ。
突き刺さる、無数の視線。

 "ごとん"

地下で機械が音を立てた。

それを合図のようにして、2人は一斉に前へ。立ちはだかる人形の壁へと突撃する。

突然のことに、慌てふためく人形達。
縄の手かせを解いたカービィと、背負った剣をその手に構えたメタナイト。
2人のファイターはすこしも容赦せず、次々と人形兵を光に還していく。

スピーカーの向こうにいる者も唖然として黙っていたが、
すぐに気を取り直し、『捕まえろ! ……やつらを止めるのだ!』と、苛立った声を張り上げた。

だがデュオンの必死の命令も空しく、包囲網はファイター2人を一瞬たりとも足止めできぬまま、あっという間に破られる。

遅れて応援に来た人形達も勢いのまま次々と迎え撃ち、2人の一頭身は廊下を駆け抜けた。
最大の建物、東の塔へと。

動きがあった。

工場敷地外。丘陵地帯の陰。
天球も陰り、肌寒くなってきた夜の大気の底に身を伏せていたリンク達3人は、わずかに首を伸ばす。

薄闇の中、南西側を警備する総勢30体ほどの人形。
工場内から来たらしい浮遊兜が彼らを集め、急かすように腕を振り回して何かを伝えていた。

間もなく、浮遊兜は人形達のほとんどを引き連れて門の方角へと向かっていき、見えなくなる。

「……今だ!」

ぱっと立ち上がり、リンクが駆けだした。
リュカ、ピットもあとに続く。

迫りくるファイターに気がつき、残された歩哨が騒ぎ出す。

しかし、
戦闘に備えかけた彼らの鼻先で青い矢が閃き、武器が彼方に弾け飛んだ。
虚ろな目でそれを追っていたのも束の間、辿り着いた封魔の剣と思念の力にとどめを刺される。

立ち上る6体分の残滓、白い光には目もくれず、リンク達はその先に進んだ。

問題は壁だ。
3人の前、ぶ厚いコンクリートの壁が工場内と外とを隔てている。

リンクが周辺の壁を叩いて回り、音を頼りに一番薄い箇所を探し出す。
息を止め、耳をすまして……見つける。
すぐさま爆弾をいくつも取り出し、一点に集中して投げつけた。派手な音と共に爆炎が上がる。
しかし、わずかにひびを入れたのみで壁を壊すことはできなかった。

だが、慌てずに次の手段に出る。
今は一分一秒でも惜しかった。
人形達の目が撹乱部隊の2人に向けられている内に、早く済ませなければならない。

続いて前に出たのは、リュカ。
壁を前にして目をつぶり、意識を集中させる。
その身体に透明な光が走り、結晶となって放たれた。

"PKフリーズ"。
着弾と共にコンクリートは見る見るうちに凍り付く。
乾いた音を立て、壁のひびが大きくなった。

「よし! リュカ、退いてろ!」

リュカが離れたのを確認し、リンクは再び爆弾を投げる。
「ぼんっ」という景気の良い音に続いて、オレンジ色の煙の中、今度こそはコンクリートの砕け落ちる音が聞こえてきた。

監視塔最上階、主制御室。

先刻とは打って変わって、薄暗い室内は活気に満ちていた。
それは賑わいなどではなく、混乱。
指示を求める上級兵がひっきりなしに出入りし、プリム達はセキュリティシステムの操作盤にかじりつき、
ミズオ達は監視カメラを慌ただしく操作して2人のファイターの姿を追う。

そんな騒乱のただ中にいて、その場に留まっているのはデュオンのみ。
双頭の強みを活かし、彼らは矢継ぎ早に指示を与えていた。

途切れることのない上級兵の波。彼らの声ならぬ声で語られる報告を聞き、部隊ごとの行動を命令する。
また同時に、四方のモニタに映し出される状況を把握し、工場に備え付けられたセキュリティシステムで対処させていく。

警備兵をこの監視塔に集中させ、兵士とシステム、この両方を十分に活用することで塔への侵入を防ぐのだ。

モニタの向こう、ジャキールの隊列やぶ厚いシャッターに阻まれて侵入者2名は後戻りし、別のルートを模索する。
だが、足止めなど姑息手段でしかない。目的は警備兵の集中するエリアに追い込むことなのだが、
肝心の主衛部隊は彼らのスピードに追い付けず、逆にファイターの後追いをする形になっている。
一進一退を繰り返しつつも、侵入者はじりじりとここに近づきつつあった。

そのうちの1人は、"駒"であったはずの剣士。

壁面モニタに拡大されたその映像を、デュオン・ソードサイドが睨みつける。
無言でありながら、その心中は焦りにも似た動揺に満ちていた。
彼はその動揺を、半ば自分にもぶつけるようにしてはき出す。

――こんなことがあってなるものか……!
原理から言っても、"駒"となったファイターの意識がひとりでに戻るなど……ありうるはずがない!

拘束されたファイターが抵抗することまでは、可能性として数えていた。
しかし、駒までこちらに向かってくるとは、予想だにしていなかったのだ。

――そうだ。我らが主の力は絶対。

ガンサイドがその思考に応じる。

――……だが、目の前にあるこれもまた、現実なのだ。
今は何としても工場を死守しなければならぬ。

指示の手を休めず、ガンサイドは相方に言う。

支配の進行と共に兵士の需要が増し、各地の工場は増築を受けた。
中でも外部の世界から供給源を得た第一工場は、一番多くの兵を生産するようになった。
しかしその反面、通路や建築物が入り組み、構造はどんどん複雑化していった。

だからこそ、エインシャントは『知恵』であるデュオンに、この工場を任せたのだ。
彼らは主のその意に応えなくてはならない。

2人の侵入者が、監視塔に向かっている。
それが事実。変えようのない現在。

――しかし、なぜ彼らはここに向かっているのか……?

――そうだ。工場を破壊するのならここではなく地下の動力施設へ行き、安全装置の起動による爆破をはかるべき。
報告によれば、今まで破壊された工場も同様にして壊されていた。

――確かにここから遠隔で自爆装置を働かせることもできるが……
わざわざ我々がいるところに来るなど、正気の沙汰ではない。

――狙いは何だ……?

建物から建物へ。
アンテナを目ざし、リンク達3人はひた走る。
がらんどうの廊下。リノリウムの迷宮を、ひたすら前へ。

先行した2人は、今のところ上手くやっているらしい。
この方面の廊下に警備として残されていた人形兵はわずかだった。

「前の……右。来るよ」

リュカが小声で、短く言う。
間もなく曲がり角から5体、人形が現れた。
2体ほど、火を操る赤い人形も混じっている。

しかし向こうがこちらに気づくよりも先に、矢の雨が飛ぶ。
青の矢は人形の持つ重火器や剣を弾き落とし、銀の矢が、武器を失ってまごつく人形達を仕留めていった。

廊下に充満する光の粒子を突き抜けて、リンク達は立ち止まることなく先を急ぐ。

工場内に踏み入って、どれくらい経っただろうか。
3人は一度も立ち止まることなく、アンテナのあるべき方角を目指して走り続けていた。

直線距離と時間からいえば、もう辿り着いていても良い頃だった。
しかし、彼らの前に現れるのは壁、壁、また壁。
その度に3人は分かれ道を曲がり、階段を降りあるいは昇り、渡り廊下を突っ切って回り道をしなければならなかった。

こういったタイムロスは想定済みではあったが、こうも目的地が見えてこなければ焦りが出てくるのも無理はない。
しかし、3人はそれを決して表情に出さなかった。
一つの目的のために、仲間と心を一つにして。彼らは黙々と走り続けた。

行く手に立ちはだかる扉。
リンクがそれを蹴破ると、廊下には小型の戦車がいた。
丸っこい戦車。ちょこんと乗っかった兜のような頭部が、くるっとこちらを振り向く。

すぐさま弓を振り絞るリンク。
はっとしてピットが止めようとした。

「リンク!」

しかし、その時すでに矢は放たれ、敵の兜を弾き飛ばしていた。

中から現れたのは回転灯。
黄色く眩しい光をまき散らし、小型戦車は警報を鳴らし始める。

「ちぃ!」

剣を抜き放ち、リンクは駆け寄る。

対し、小型戦車はその車体のどこに隠していたのかというくらいに長い槍を構え、発射した。
目前で放たれたそれをリンクは盾で難なく受け流すと、敵の車体目がけ力任せに剣を叩きつける。

回転灯をひしゃげさせて、小型戦車はようやく沈黙した。
しかしリンクの耳には、早くも警報を聞きつけた人形達の、こちらに近づいてくる不気味な足音が聞こえてきていた。

前からも、後ろからも。
その数はおよそ、30を超える。
それだけの人形を、工場の主に気づかれず一気に倒すことは不可能。

――挟まれたか……!

歯がみするリンク。

急いで脱出口を探す。その彼の肩を、叩く者があった。

「リンク、そこにドアが!」

リュカの指す先、今し方通り過ぎてきた部屋の壁面に、金属の扉がある。

3人は一度引き返し、ドアを開けて駆け込んだ。
その先は、暗い下り階段。

しんがりのピットが素早く、だが慎重に扉を閉める。
一瞬後、人形達の通り過ぎる音が響いた。

地階。ちょうどアンテナのある"中庭"の真下。
そこには、広大な工場が存在していた。

その天井部分に走る通路。3人の開けた扉はそこに通じていた。
彼らはキャットウォークのような廊下を足音を殺して走りつつ、窓から階下の様子を眺める。

禍々しさを感じさせる赤い光に照らされる、熱気に満ちた鋼鉄のジャングル。

天井から降りてくる2本の太いパイプは、おそらく地上のアンテナが集めた光の粒子を運ぶものだろう。
下に行くに従ってパイプは木の枝のように枝分かれし、100を超える機械に接続されていた。
それら機械から、様々な種類の人形がぞろぞろと運び出されてくる。

やはりここは、人形を作る工場であった。
灰色の世界の崩壊した街や、ピットの故郷であるエンジェランド。そこから集められた光の粒が、こうして人形兵となっていたのだ。
見渡す限りの機械。流れていくコンベアは地下工場の闇に溶け込み、全貌が見えない。
予想通り。いや、予想以上の規模だった。

人形達の目にまだ光はなく、彼らは直立不動のまま、コンベアの流れるままに運ばれていた。
機械が吹き出す甲高い蒸気の音や、金属がぶつかる重々しい音の中を、人形の波が不気味な静けさで動いていく。
その数に圧倒され、3人は一層顔を緊張させた。

――こんなにいっぱいの人形を作って……
エインシャントは何を企んでるんだろう?

階下の床を埋め尽くす人形達。
これほどの大軍隊が一斉に動き出す場面を想像し、リュカの背をさっと冷たいものが走った。

一方、リンク達3人がいる位置から中央の敷地を挟んでほぼ反対側、監視塔付近の廊下にて。

「オ~ニさぁん こーちらっ!」

追いかけてくる人形の大群を振り返り、笑って呼びかけるカービィ。
自分たちが陽動隊であることはぎりぎりまで隠す必要があるというのに、ずいぶん呑気なものである。

前を走るメタナイトはそんな相方を注意することもなく、真剣な眼差しを前に向けていた。
黙々と走りながら、状況の考察に集中していたのだ。

進入前に5人で立てた計画を今一度精査し、現状と比較する。

――ここまでは順調。
この規模の施設が抱えているべき平均的人員の、ほぼ7割以上が監視塔付近、ならびに私達に集中している。
リンク達の存在に、デュオンとやらが気づいた様子はないと見て良い。

  また、万が一人形に囲まれるようなことがあったら、彼らにはすぐに逃げるようにと伝えてある。
だが問題は、あの子供達がそれに従うかどうか。
若い者は往々にして一時いっときの感情に振り回され、非合理的な決断を下しがちだ。

 特に、あのリンクという少年。
 無鉄砲な彼が力を過信し、強引に進もうとしていなければ良いが……

そこまで考えたところで、不意に視界が開けた。

高い吹き抜けのある広間に出たのだ。

しかし、工場にインテリアや見栄など不要のはず。
いったい何のために作られた空間なのかと内心で訝しむ2人だったが、立ち止まっている暇はない。
そのまま、突き進もうとする。

だが、そんな2人を阻むように、頭上から敵が降ってきた。
水色と白の、丸い人形。
5体ほどに囲まれて、2人は足止めされる。
しかし、その人形達は小柄で、2人と同じくらいの背丈しかない。

先にカービィが動く。
跳んで、ハンマーを叩きつけようとした。

その時。

"ンガゴグ ンガゴグ!"

丸人形が喋った。
と同時に、"ぼよん"という音がして丸人形がふくらむ。
その体に弾かれ、カービィはハンマーを振るうこと叶わず包囲の中に戻された。

"ンガゴグ ンガゴグ!"
"ンガゴグ ンガゴグ!"

周囲で、丸人形達が奇妙なかけ声と共に巨大化していく。
水色だった部分は黄色く、そして赤くなり、彼らは元の3倍の大きさになった。

「うわぁ……」

口をぽかんと開けて、カービィは丸人形を見上げる。
戦う心構えもせずただ目を丸くする彼に、メタナイトは淡々と言った。

「感心している場合ではない。突破するぞ」

しかし、ことは言うほど簡単ではなかった。
敵が1体であれば、何とかさばき切れたかもしれない。
だが、相手は5体。
鈍足を数で補い、隙間を図体で埋めて、彼らは徹底的に2人の行く手をふさぎ続ける。

それだけではない。

風を切る音に、カービィは咄嗟に前に転げ込む。
一瞬遅れて、床に鋭いものが突きささった。
それは槍のように尖ったくちばしを持つ、空ろな目をした鳥の人形。

一体どこから……?
立ち上がり、丸人形の大きくて丸っこい拳を避けつつ、仰ぎ見て――カービィは目を丸くした。

天井が見えない。吹き抜け一杯に金属の鳥が旋回しているのだ。
それが群れをなし、鋭いくちばしを下に、容赦なく襲いかかってくる。

避けようにも、周囲を巨大な人形に固められており最小限のスペースで回避を繰り返すしかない。

脅威は頭上からだけでなく、

「わぁっ、まだ来るよ!」

人形の隙間から広間の様子を見て、カービィが言った。
2人が通ってきた通路と、これから行こうとしていた通路。
それら前後の出入口、その両方から新たな人形の一団が来ようとしていた。

閉所に囲い込み、数で一気に叩こうというのだ。

メタナイトは剣を一閃し、後退した隙にちらと天井に目をやる。
相変わらず鳥が旋回しているものの、上階からはこれ以上の援軍は無いようだ。

「やつらを引きつけろ。ここに閉じ込める」

「ぼくらはどうやって抜けだすの?」

「……"ウィング"でもコピーしておけ」

ひっきりなしに降り注ぐ鋭利な鳥の雨の中、2人は短く言葉を交わす。

空気を引き裂く擦過音、人形達の意味をなさない呟き。
巨大化した丸人形の拳や足が床を叩き、振るわせる。

少しずつ狭まる包囲。
しかし、2人はじっと待った。

やがて広間に後続の波が到達し、群れをなしてなだれ込み、身動きできないファイターに襲いかかろうとする。
がら空きになる、前後2つの戸口。

「今だ!」

その声に、2人のファイターは地を蹴り、飛び掛かった。
互いに背を向け、真正面の丸人形に。

黄金の剣、そして大きな木槌が丸人形の胴に叩きつけられる。

ほぼ同時に、赤い丸人形が弾きとばされた。
後続の人形達を次々となぎ倒し、それでも勢いは止まらない。
そしてついに、計算したかのような正確さで、丸人形はそれぞれ前後の出入口にすっぽりとはまり込んだ。

メタナイトは地に足がつくが早いか、翼を広げ飛び立つ。
一瞬遅れて、人形達がそこに殺到した。

カービィも急いで地面に刺さっていた鳥の人形を吸い込み、"ウィング"をコピー。
鮮やかな色の翼で舞い上がった。

急上昇する2人がかき乱した風に驚き、金属の鳥がギャアギャアと喚く。
眼下の広場では、出口を失った人形達が遠ざかるファイターを恨めしげに見上げていた。

金属の鳥は落下以外に攻撃方法を持たないらしく、そばを通り過ぎる2人にただガラス玉のような目を向けるだけであった。
困惑しているのか、あるいは何も考えていないのか。それは彼らにしか分からない。
先頭を飛ぶメタナイトが進路を塞ぐ鳥を斬り飛ばし、生じた隙間をカービィと共にくぐり抜ける。

「ねぇどこまで昇るの?」

羽根飾りにバンダナと、インディアンの酋長にも似た格好になったカービィが、
飾りの延長のようにしてのびる羽を休まず羽ばたかせながら問う。
前を飛ぶメタナイトは振り返らずに答えた。

「……目的の塔までさほど距離はないだろう。可能な限り、前へ進む」

自分たちの目的は、敵を脅かし注目を集めておくことにある。
真の狙いから、目を逸らさせるために。

一本道が続いたが、幸い見張りの人形と鉢合わせることも無くリンク達は上に昇る階段を見つけ、地下工場を後にした。

扉を開けた先は、壁一面にガラスの張られた静かなホール。
窓の外、それを目にした3人は、思わず息をのむ。
そこにあったものは、夜の暗さを背にそびえ立つパラボラアンテナ。

想像していたものよりそれは高く、大きく、無情に稼働し続けていた。
3人の存在など気に掛けることもなく、それはエンジェランドから奪った白い光を吸い込んでいる。

そこまでの障害物は、壁一面にはめ込まれたガラスのみ。
それさえ破れば、アンテナはもう、すぐそこだ。

出口を見つけるのももどかしく、

「割るぞっ!」

リンクは勢いのままに剣を薙ぐ。
騒々しい音がして、壁面いっぱいに張られたガラスが粉々になった。

降り注ぐ鋭利な破片のシャワーの中、まず腕で顔を庇ったリンクが、
そしてピットが翼でリュカと自分の身を守りつつ、窓をくぐり抜けた。

再び、主制御室。

厳重に閉ざされた扉を見つめ、静まりかえった室内にデュオンは佇んでいた。

塔にまで攻め込まれた今、新たに指示すべきことはない。
一旦勢力を最上階に集結させ、全力で迎え撃つのみ。

室内には選りすぐりの上級兵が待機し、
眼前のぶ厚い扉の向こうでは、フロアを埋め尽くす何十体もの軍勢が、ファイターが昇ってくるのを今か今かと待ち構えている。

このフロアにはアラモス卿、ギラーンその他、十分な数の上級兵がいるが、
それでももし、破られるようなことがあれば、その時はデュオン自らが最後の盾になるつもりだった。

あの2人は回復手段を持たない。
ここまで強引にプリムの大群や亜種プリム、フロウスやジャキールの足止めを突破してきたダメージは、無視できるものではないはずだ。
そのほか、様々な可能性を考慮しても、あの2人がデュオンに勝つ確率は無に等しい。

それでもデュオンは慢心せず、黙って考え込んでいた。

その理由は、違和感。

――妙だ。

壁面のモニタ全体に映し出された映像、刻一刻と迫る2人のファイターをじっと見つめ、デュオン・ソードサイドは考えた。

前を走る、"駒"だったはずの剣士。
デュオンの率いる部隊が彼を森で捕らえた時、遠目から見たのはわずかな時間であったし、彼の名前と出身そして"能力値"以外の知識は無かった。
それでもデュオンは、今監視カメラ越しに見せつけられている潜入、たった1時間強の戦闘から彼の性格を分析していた。
彼は、なかなかの知恵者だ。

そんなソードサイドの思考に応え、ガンサイドが問う。

――やつが、まるで勝算のない賭けに出るなど、あり得ることか?

それが、彼らの抱えていた小さなようで大きな違和感。

照明の落とされた静かな主制御室の中、デュオンの思考は加速していった。

――何か目的があるのだ。
これはただの特攻ではない。

――兵の消耗を狙って……か?
しかし、それであれば頃合いを見計らって脱出すべきだ。
このまま我々の所まで来るのではなく。

だが、映像の2人は立ち止まる気配すら見せない。
駆けていく2人を追いかけ、次々とカメラが切り替えられていく。

――それだけではない。

ガンサイドの視線が、後ろを走る桃色のファイターに向けられた。

――やつは、あのときエンジェランドの天使を助けたはずだ。

――ピット……とか言ったな。
やつはどこへ行ったのだ?

――はぐれたのか?
……いや、ピットは我々がここにいると知っている。
彼もここへ来るはず――

そこまで考えたソードサイドの頭脳に、不意に閃くものがあった。
急いでミズオに指示し、あるブロックの映像を映させる。

やがてモニタに現れた映像は、彼らの予想した通りのものだった。

工場中央部の、巨大なアンテナ。
2台ある内のエンジェランドに向けられた方、リンク達はその破壊工作に取りかかっていた。

手先の器用なリンクとはいえ、工具もなしに装置のカバーを外すのにはかなり苦労していた。

ネジもなく、厚く平らなプレートがただ貼られただけの表面をやっとのことでへこませ、隙間を広げ、
剣を突っこんでテコの原理で外そうとする。

すぐにリュカとピットが加わり、3人で顔を赤くし歯を食いしばって力を込めると、
やがてプレートが1枚、勢いよく外れた。

その奥に、複雑に密集した配線のジャングルが現れる。
点在する緑色の星は、保全のためのランプだろうか。

真っ先にピットが腕を突っ込み、双剣で配線を滅茶苦茶に切り払った。
細長い電線はいとも簡単に切れ、回路も砕け、
内部で灯っていた緑色のランプも赤色に点滅し、あちこちで消えはじめる。

……しかし。

「も……戻ってる?」

3人の目の前で、不思議な現象が起きた。

千切れたはずの配線が意志を持ってくねくねと動き、あちこちで元通りにくっついてゆく。
消えたランプも息を吹き返し、眩しい緑色に戻る。
アンテナにダメージを与えたことで一旦は途切れかけたエンジェランドからの光の川も、元の太さに戻ってしまった。
まるで時間が巻き戻っていくかのように、機械が独りでに直り始めたのだ。

それでも必死になって回路を壊そうとしていたピットだったが、リュカが慌てて彼を引き戻す。
先ほどまでピットが身を乗り出していた空間にまばゆい電流が走り、やがて配線で埋め尽くされていった。

何も言わず、しかしさすがに憔悴した顔つきのピット。
目の前で起きたことが信じられず、ただ目を丸くするばかりのリュカ。
リンクは剣を収め、苛立ちを露わにして腕を組んだ。

「くっそ、直っちまうのかよ……。
これじゃ一気に全部壊すしかないな」

「この大きなアンテナを……全部?」

リンクとリュカは、アンテナを見上げる。
高さは5階建ての建物に相当し、根幹部はどんな巨木よりも太い。
そんな巨大な建造物を、一瞬で壊すことなど可能なのだろうか。

途方に暮れ見上げる少年達をまるで無視して、アンテナは無慈悲に自分の仕事を続けていた。

扉が内側に向かって弾け飛ぶ。
間髪おかず、真っ暗な主制御室に2つの丸い影が駆け込んできた。

その1人が、少し戸惑ったように立ち止まる。

「……あれっ? だれもいない」

カービィは"だれも"と言ったが、
監視カメラのモニタの前には、円柱形の水槽に入った奇妙な丸い人形が細い手足を動かして浮いていた。
だが、彼らが襲ってくる気配はない。外見も明らかにひ弱であり、おそらく非戦闘員なのだろう。

暗さに目が慣れると、黒い壁と見えたものは全てモニタであることが分かった。
しかし、今はそのどれにも電源は点いておらず、室内には非常灯さえついていない。
2人が吹き飛ばした扉の立てた音が止むと、部屋の中はしんと静まりかえってしまった。
敷地内側に面した唯一の窓から、薄曇りの夜空がわずかな明かりを投げかけるばかり。

一瞬入る部屋を間違ったかとも思ったが、操作卓が見つかったことでその線は消える。
床と同じ材質の、黒く四角いコンソール。

早速メタナイトが操作卓に向かい、画面を軽く叩いてみた。
現れた表示は、彼の住む世界の機械とさほど変わらない。早速彼は制御システムの起動を試み始めた。
アンテナの停止を、そして、可能であれば情報収集をするために。

カービィはそんな彼の後ろで、手持ちぶさたに歩き回っていた。

「みんな逃げちゃったのかなぁ」

呑気に部屋を見渡し、彼は言う。

塔の最上階に限って、あれだけいたはずの人形の姿がなかった。
正確に言えば、戦闘要員はゼロであった。
また、ここから工場内のスピーカー越しに指図していたはずの声の主も見あたらない。

早々と降参し、工場を捨てて逃げたのだろうか?

「だと良いがな……」

メタナイトは、それほど楽観的になれなかった。
どころか、時間と共に疑念が膨らみつつあった。

ブザーの音に、カービィがはっと振り返る。

"暗証コードが違います"
"アクセス権限がありません"
"指定されたプログラムは存在しません"

操作卓のモニタには、いくつものエラーコードが現れていた。

「だめなの? こわす?」

手をつき、モニタを覗き込むカービィ。
だが、操作卓を壊したところで解決するものでもない。

答えず、メタナイトはすぐに操作卓に別の指示を与える。
履歴へのアクセスやアンテナ稼働の停止命令は受け付けなかった操作卓だったが、監視カメラの映像は素直に映し出した。

壁面のモニタ全てに光が灯り、監視室は赤い光に包まれる。
四方に映し出されたのは大勢の人形、人形。非常灯の光が満ちる廊下を、黙々と歩いていく。
2人があれだけ倒したというのに、どこに隠れていたというのだろう。
それらは後から後から湧いてくるのだった。

「わぁぁ……」

カービィが目を丸くし、思わずため息をつくように呟いた。
それほどまでに、人形兵は多かった。

整然と列をなし、彼らが向かう先は……。

急いで、メタナイトは主制御室の窓に駆け寄る。
明かりのない夜だったが、夜目の利く彼には大したことではない。

眼下に広がる、広大な敷地。
2基あるアンテナのうち、向こう側の1基には、あの3人の姿がぽつんと見える。
彼らは無事、たどり着いていた。

しかし何も知らない3人の方へ向かって、不気味な人形の列が建物の中を進んでいた。
じわじわと、闇にまぎれ、着実に。

不自然なまでにセキュリティを強化され、冗長なシステムを走らせていた操作卓。人形のいない制御室。
それらの意味するところが、分かった。

「読まれた……!」

拳を握りしめ、悔しげに言い捨てる。

だが、立ち止まっている暇はない。
彼はきびすを返し、カービィの手を掴んだ。

「どしたの?
こんどはどこ行くの?」

まだ状況が飲み込めていない様子のカービィ。
目をぱちくりさせ、そう聞いた。

「……合流する。彼らが危ない」

短く答えると、メタナイトは左手でカービィの手を掴んだまま駆けだした。
向かう先は、この部屋でただ1つの窓。アンテナのある側に面した、たった1つの出口だ。

背中のマントが風になびいたかと思うと、瞬く間に翼に変じる。
ガラス窓が目の前まで迫っていた。しかし彼は足を止めず、どころか更に加速を付ける。
風に翼を乗せ、地を蹴って――

鋭く突き出される、ギャラクシア。
粉々になったガラスを吹き飛ばすように、2人は一陣の風となって塔を脱出した。

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最終更新:2014-07-05

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